第百四十二話「カメハメハ」
南の島じゃなくて南の国だからな?
まぁ俺もこの前大王とか言ってたけど気にすんなよ?
え、トルソの料理?
アークからメッセージきたけどヤバかったらしいぞ?
ギンが昔作った岩塩スープから始まり、塩氷で締め。
お冷ですら塩水だったとか?
トルソ曰く、それで減塩なんだそうだ。
完食したのはトルソとソージだけらしい。
リュウリュウは眉をヒクつかせながら、「新手の拷問かね?」と聞いてきたとか?
何にせよ、被害が俺達サイドに来なくて助かったわけだ。
で、現在早起きしてまたユグ木に回復をぶっ放してるんだが……。
そろそろだと思うんだよなぁー。
……あ、塞がった。
……………………おぉ、ボヤっと光ってきたわ。
「治ったかいっ?」
「あ、おはようございます」
「どう、似合ってるかいっ?」
「緑髪じゃなきゃもっと似合うんですけどねぇ……」
「武士っていうんだっけっ?」
「そうそう、そんな曲刀じゃなくて俺のこの剣みたいな感じで雰囲気がでます」
「これはケント君からのプレゼントだからね、大事にしなくちゃっ♪」
「へいへい」
「きゅ……きゅいー?」
「あ、スンおはよう」
「おはようスンちゃん」
「きゅーきゅきゅきゅぅい?」
「あぁ、治ったぞ」
「いつ頃葉が生き返るんだろうねっ?」
「ユグドラシルの葉は1日で生えかわるので、おそらく明日には復活してるんじゃないすかね?」
「それじゃあギリギリだったねっ」
「まぁハーピークイーンが来るとしたら、2日後か3日後だと思うので大丈夫かと」
「それじゃあ準備しちゃおうかっ」
「俺チャベルン行って風呂入って来ます。
流石に相手は王ですからね」
「あははは、3日間ユグドラシルの木にほぼ付きっきりだったからねっ」
「1年かからなくて良かったですわ」
「きゅきゅうきゅいっきゅ」
「そうだな、スンは皆を連れてアジトまで戻っててくれ。
ユグ木の確認がしたい場合は、空からの確認にする事」
「きゅ!」
「ミナさんもジェイド君も連れて行って良いって言ってたから、リュウリュウさん達と同じ様に扱ってちょーだいな」
「きゅきゅーい」
「さて、チャムさんとビアンカに準備をしてもらって――」
チーン!
《件名:お前の妻だ》
《レイム・ダイアードとの約束を取り付けた。
これよりユグドラシルの木へ向かう》
そのアピール方法はどうなんだ?
《件名:あなたの旦那だ》
《チャベルンで風呂に入って来るがすぐ戻る。
気を付けて来るようにしてくれぃ》
はい、風呂に入って再集合でございます!
メンバーは俺、ビアンカ、デューク、ビーナス、チャムでございます。
あ、まだキャスカとハティー達もいるけどな。
「そういや、チャムさんは俺の素性に対して突っ込んできませんね?」
「剣と一緒だ……見ればそいつの本質くらいはわかる」
「おぉ、なんか職人みたいですね!」
「馬鹿にしてるのか?」
「昨日チャムさんより馬鹿認定されたのは俺の方です」
「そうだったな……お前は馬鹿だったな」
「えぇ!」
「……清々しい馬鹿もいたもんだな」
「えぇ!」
「……」
「それにしてもデュークさん、裾まくりあげてる姿がシュール過ぎるんですが……」
「土で汚れたら大変だからねっ」
「南の国で着替えれば……」
「うん、南の国で脱ぐつもりだよっ」
「あ、はい」
「なぁ、レウス」
「どうしたよ?」
「真剣に考えたんだが、結婚式はやはり南の国でやるのが良いかもしれないな」
「先の事よりも今を考えようか」
「あ、私もやりたーいっ」
「……落ち着いたら1人ずつやるから」
「ふっ、私が最初だな」
「私が2番なのだ!」
「じゃ、じゃあ私は3番……で良い?」
「私は出来るならいつでも良いわよっ」
「毎度助かっておりやす」
「お前もなかなか苦労してるんだな」
「チャムさんも色んな事が終わったら、沢山師匠が出来て大変になるんじゃないですか?」
「ドンが教えてくれるんじゃないのか?」
「世界を飛び回る覚悟があるなら問題ないですよ」
「ホント、魔神レウスがこんなんだとは思ってなかったよ」
「あはは、それじゃあ行きましょうか!」
「言っておくが私はお前達より遅いぞ?」
「だから俺が持ちます」
「私は荷物じゃないんだが……」
「よし、それじゃあ肩車しましょう!」
「なっ!?」
「チャム、羨ましいぞ!」
「そういえば私も昔レウスを肩車したっけっ?」
そうそう、脹脛の感触が最高だったアレだな。
「ほ、本当に乗るぞ!?」
「どーぞ」
「……よし、立っていいぞ」
「おっしゃっ!」
「わ、わっ!?
…………おぉ、これはこれで気持ちが良いものだな!」
「さあ行きましょうぜい!」
「「はーいっ」」
「羨ましいぞ!」
まだ言うか。
はい、ダダンに到着したであります!
ダダン城……凄い名前だな?
ダダン中央区にあるその城は、西洋というより中国……というより琉球風の城だな?
ドラがジャーンとかなりそうなイメージだ。
門番の2人はやはり神者ギルド員。
「ではドン、アレを頼む」
「え、俺がやるの!?」
「ふっ、妻は夫を立てるものだ」
「おいドンッ、もういい加減降ろせー!」
「それは残念」
「ドン君っ、お願いしますっ」
「この前ミナがやってたアレかしらっ?」
確かに面白そうだとは言ったけどさ……。
「私がやっても良いが、アレは中々恥ずかしいのだ」
「いや、俺も恥ずかしいですよ」
「じゃあ僕がやろうかっ?」
確かに見てみたい気もするが――
「レイジーさんはダメでしょう……」
「あははは、やっぱりそうかっ」
「……しょうがないか」
恥ずかしいよぅ!
「……すぅ」
「「ぬっ!?」」
「神者ギルドは!」
「「ま、魔王を超える!」」
「神者ギルドは!」
「「勇者を超える!」」
「神者ギルドは!」
「「絶対最強!」」
「後ろを向くな!」
「「前を向け!」」
「気合いだ!」
「「気合いだ!」」
「気合いだ!」
「「気合いだ!」」
「気合いだ!」
「「気合いだぁああっ!」」
「はい、開門っ!」
「「貴様何者だ!!」」
あれ?
「ドン君、最後が違ったよっ」
「しかし凄い反応速度だな」
「ふっ、第8剣士部隊のひよっ子共だが、その錬度はリンジの折り紙付きだ」
「レオナの顔パスでどうにかならないのかよ」
「それが出来たらもう開いてるはずだろう?」
「……確かにそうか」
「ドン、もう一回よっ♪」
それはベッドの上で言って欲しいセリフだな。
まぁ頑張りますか……。
「……すぅ」
「「っ!」」
「神者ギルドは!」
「「魔王を超える!」」
「神者ギルドは!」
「「勇者を超える!」」
「神者ギルドは!」
「「絶対最強!」」
「後ろを向くな!」
「「前を向け!」」
「気合いだ!」
「「気合いだ!」」
「気合いだ!」
「「気合いだ!」」
「気合いだ!」
「「気合いだぁああっ!」」
「うむ、開門っ!」
「「はっ、かしこまりましたっ!!」」
……酸欠で頭痛い。
「ようこそおいでくださいました」
これまた中国にいそうな文官の様な格好をしたおっちゃんが出て来たな。
いや実際文官なんだろうけど……。
眉が太く長くて黒い、40代前半位の人間で、髭はにょろんって感じの男爵っぽい髭だな。
合掌しながらの挨拶なんて新鮮だわ。
「私、案内を務めさせて頂く「リー」と申します」
「第8剣士部隊、部隊長のレオナだ。
こちらは東の国の王子、レイジー殿と、宮廷鍛冶師のチャム殿……そして私のだ――」
「ゴホンッ」
「私の部下のドンとアンジーだ」
「「宜しくお願いします」」
「陛下がお待ちでいらっしゃいます。
時は金なり、早速ご案内させて頂きます」
同感ですな。
……四方に廊下が丸見えの裏庭に通されたぞ?
んー、スナイパーに狙われてるな?
全員……いや、チャム以外は気付いたか。
おそらくこれは……アンチの妨害工作ってのが濃厚かしら?
可能性があるとすれば……後は独断か。
木製で藁が被った風通しのよさそうな簡易的な建物が中央後方にあるな?
あそこに王がいるのか……いや、このパターンならいない可能性もあるか。
ふむ、南国風の東屋って感じだな。
「待っていたぞ」
「お久しぶりです陛下」
「久しぶりだなレオナ。
レイジー殿も遠路はるばるようこそ」
「突然のご訪問お許しくださいっ」
違和感ありまくるデュークだな。
ダイムの時は……まぁダイムがダイムだったからなぁ。
レイム・ダイアード……小太り商人みたいな人間の王。
年齢は30代前半ってとこだな。
服は……まっ白で金装飾がちりばめられた……なんていうんだっけ?
リーも着てる……漢服だっけか?
腹部に金色の短刀みたいなの装着してるな。
俺達の対策なのか、常備してるのか。
まぁ王様なんだったら多少の用心はするわな。
俺もここで慣れない言葉を使う為に、神と練習しておりました!
トチらないか心配……。
「本日はどの用件かね?」
「ドン、頼むぞ」
「はい」
「……そなたは?」
「お初にお目にかかります陛下。
私、レオナの部下のドンと申します」
「ほぉ、そなたが「ドン」か」
やはりアンチから話を聞いているのか……それともリア王から?
仲が悪いんだったらブルウスからは連絡来ないだろうし……。
「私を知っていらっしゃるのですか?」
「アンチから連絡を受けている。
ドンと名乗る者が現れたら殺せぬまでも捕えろとな」
そっちの方が難しいんじゃないか?
「……捕える手段はアンチが提示してくれた」
「人質の話……でしょうか?」
「そうだ、それをそなたに伝えれば必ず捕まえられる……いや、捕まってくれると言っていたな」
確かに俺なら捕まる可能性のが高いな。
アンチさんよく見ていらっしゃる。
「そしてドンを人質に、周りの者も消せ……とも言っていたな」
「それを全て話してしまってもよろしいのですか?」
「全て断ってやったからな」
ほぉ?
「くくく、アンチの最後の一言がなければ、その話に乗っていたんだがね?」
「最後の一言……ですか?」
「そなたは必ず私にうまい話をしてくる、その口車に乗ってはいけない……まぁこんなところだ」
「それが何故断る理由になったのでしょうか?」
「本当にうまい話だったらどうするのだ?
私はそういった話の鼻は効くのだよ」
「聞いてから判断する……と?」
「そういう事だ」
以上、アンチがオウンゴールを決めた瞬間でした。
まぁ黙って捕まる俺達じゃないけどな。
「さぁ話すがよい」
「それではレイジー殿下、お願いします」
「陛下、こちらをお読み下さいっ」
「ふむ……リー」
「はっ」
警戒すんのが普通か。
リアやブルウスはファーストコンタクトが異常だから、まぁこんなもんか。
「特に仕掛けもない様です。
書簡筒の華の彫細工も見事なものでございます」
当然だ、俺のスンがデザインしたんだぞ?
掘ったのはチャッピーだけど。
「よし、持って参れ」
「はっ」
「………………ほぉ、美しい細工だ。
この筒の裏にある「チャッピー」というのは制作者の名前かな?」
あ、あのバカ。
「是非話を聞きたいので後日こちらに招待したいものだ」
スペース的に無理かな。
「では、後日ご紹介させて頂きます」
「ここから出られればの話だがな?」
「勿論わかっております」
「ほぉ、この筒以上の物がこの中に入っていると?」
「価値観は人それぞれですが、負けはしないと存じております」
「ふむ、どれ…………」
どうですかね?
「くっ……くっくっくっく……はっはっはっはっはっ!
なるほど、これは確かに素晴らしい話だ!」
「うまい話……でしたでしょうか?」
「いや……」
あれ、ダメだった?
「これは、うますぎる話だ」
「信用出来ない……と?」
「いや、東の国の王子の使者、ブルウスの書状、第8剣士部隊の部隊長……そしてこの書簡筒」
あ、それも入るんだ。
「これだけの準備をして信用出来ないのであれば、この国はとうに滅んでるよ」
そんな事言われても何も返せねーよ。
「……ふむ、しかし1つ気になる事がある」
「なんでございましょうか?」
「そなただ」
「私…………ですか?」
「そなた、一体何者だ?」
「仰る意味がわかりかねます」
「隠さずとも良い。
レオナを動かし、リア王とレイジー王子を動かし、ブルウス……いや、西の国を動かし、そしてこの匠を動かした人物だ。
聞かぬ方が無礼であろう?」
やっぱりチャッピーも入るんだ。
相当気に入ったんだろうな。
しかし本当に鼻が利くんだな……ちょっとビックリ。
「私の真名を聞くと、陛下のご気分が悪くなる可能性がございます」
なんせ、中央国を滅ぼした原因は北と南の国にあるからな。
「そうか……そなたは中央国の縁の者だったか……」
「…………」
「……沈黙は是ととるが、よいかな?」
「……」
スッ……コッコッコッ
「陛下、危険でございますぞっ!」
「よいのだリー、書状の内容から彼に害意がない事はわかっておる。
……おもてを上げてくれ」
「……」
「そなたの名を聞かせてもらえぬか?」
「レウス……レウス・コンクルードでございます」
「何をこの場でそのような事をっ!」
「よい……」
「……」
「ふむ……」
「……」
「レウス・コンクルード……」
「はい」
「……大義であった」
「……身に余る言葉でございます」