第百二十五話「召集会議3」
「本日、私からの議題は、第4剣士部隊の医療技術増強の問題、それに第7剣士の労働状況の問題……そして第8剣士部隊の現在の状況報告をお願いしたいという3つだな」
「医療技術に関しては深刻な問題ですね」
「アンチさんの言う通り、ぅ私の部隊の最重要課題であーりまーすっ!」
「これに関しては、以前から東西南北の国より要請があったものであるが、多大な時間と労力、そして金銭的な問題がある為、中々前に進まなかったものである。
素晴らしい脳が加入した今、諸君らの意見を参考にし、更なる技術の進歩としたい」
そのブレーンってのは俺の事か?
だからそっちはダメなんだって。
「おい脳、何かねぇのかよ?」
「なんで俺がそうなっているのか聞きたいですね」
「お前ぇの事、各部隊で噂になりまくってるぞ?
次々と問題を解決してるってな?」
「そりゃ初耳っすね」
「知らねぇのは当人達だけってな」
「ドンさん、是非聞かせて頂きたいものですね」
ぬぅ、アンチも乗っかってきやがったな……。
まぁこれに関しては何かしら助言をしたい所だ。
これはまぁ安直だが――
「……そうですね、病気と言われるものの多数は体内に入り込む虫が原因でしょうね」
「「「む、虫?」」」
「目に見えない虫です」
「それが病を引き起こすのかね?」
「例えば、戦いの中に身をおく我々にとって身近な「血」ですが、これは体内にある無数の管を通っていることは知っていますね?」
「んまぁ、それくらいは常識ですなぁ」
「この管の中に目に見えない虫が入り込んだらどうなります?」
「……少なからず体に異変が起きる?」
「そういう事です」
「傷口は回復で回復出来ますし、すぐに回復すればこの虫が体内に入る事もありません。
がしかし、自然治癒ではこれが起こりうる可能性があります。
また、体内に虫が侵入する経路はそれだけではありません」
「なるほど、口からか」
「少し汚い話をしますが、耳、鼻、目、肛門、尿道等、人間の体内に通じる穴からであれば、それより小さい虫は容易に侵入する事が出来るのです」
「……なんと」
「確かに言われてみればその通りですね」
「防ぐ手段はないのかい、ドン君!」
「あくまで予防ですが、手洗いとうがいが大事ですね」
「何で手を洗う?」
「わからんのかザーボン?」
「細けぇ事は専門外なんだよ」
「例えば……そうですね、ザーボンさんの手に目に見えない虫が付着していたとします。
ザーボンさんはそれに気付かず、手づかみで食べ物を口にした……はい、どうなりますか?」
「……なるほどな」
「「うがい」とはなんだい?」
「簡単に言ってしまえば口の中をゆすぐ事ですね。
水で口の中をゆすぎ、吐き出す事でかなりの効果が得られます」
医療レベルは相当低いよなこの世界……。
なんたって2000年前にはほとんど風呂が無かったし、1000年前まではユグ木があったからな。
「他にあるかね?」
「人に必要なのは食事です。
これらを作る過程での消毒……いわゆる毒消しが必要です」
「というと?」
「調理器具、食器はただ洗うだけではなく、熱湯に漬ける必要がありますかね」
「熱湯を使う理由はなんだね?」
「私達と一緒ですよ。
気を纏わず熱湯に浸かった場合、大火傷をして私達は死にます」
「食器に付いている虫を殺すという事か」
「そういう事です」
「水でよく落ちる消毒液の様なものがあれば、それはあまり必要ないと思いますが……現状こんなところでしょうか」
「「「…………」」」
あれ、ちょっとやりすぎた?
「……なぜわかったのかね?」
そりゃそうきますわな。
まぁ、言い訳は用意してございますがね!
「俺が鍛冶屋をしている事は知ってると思いますが、鍛冶屋では目に眼鏡の様な物を着けるのを知っていますか?」
「あぁ、確かにチャムが頭に着けているな」
「あれは、より小さい物を見る事が出来る道具でもあります。
以前、偶然小さな虫を見つけた事があります。
そこからの考察と風邪の原因等から考え、結論に至りました」
「ターコム、ミルク……どうだね?」
「医療レベルが瞬時に数十年進歩しましたねぃ!」
「あたしも目から鱗ですねぃ!」
ある意味ソックリだなこの2人。
「出来ればあの副官会の日に教えて欲しかったものだね?」
「あの後、気でなんとか出来ないかなーとか色々考えたんですよ」
「ほぉ、それは素晴らしい心構えだね」
「キングス、よくわからなかったから後で教えてね」
「はっ!」
小学生講座レベルだぞおい。
あとケミナ、その「どうだ私のレウスは!」って顔やめなさい。
それに、デュー君、「病気ってそんなに大変なのかっ」って顔は、人外だからこそ出来る顔なのかね?
そりゃ製薬会社で働いてたけど、そんな詳しい事なんかわかりませんよ。
だって俺の元いた世界は薬品名や記号ばっか。
それがこの世界の、どの薬草と一緒の効果だとか、類似するのかだとか、わかるかるわけがないわ。
あくまで一般常識の範囲で教える。
俺の世界の一般常識はこの世界でいう未知の知識だからな。
今度色々考えをまとめて、ターコムとミルクに教えてあげよう。
「いやはや、私の仕事が減って助かっているよドン君?」
「……わざとなのは知っていますよ」
「ふふふふ、使われていると知っていて使われてくれる。
なんとも嬉しい事だね」
「リュウリュウ、それは友情というんだよ!」
「はははは、確かにそうかもしれないね」
「ぅ私も大助かりであーりまーす!」
「さて、次に第7剣士部隊の労働状況の問題だが……これもだが、ほとんどドン君が解決してしまった」
「おいおいおい、まじかよ!?」
「独断でジャコールまで赴いたそうだ」
「「「…………」」」
理由はともかく、これはリュウリュウの意のままの方が良さそうだな。
有りもしない悪と戦ってたなんて知ったら皆荒れそうだわ。
「……長い交渉の末、どうやら休戦状態へ移行出来る見通しが出来たようだ」
「ど、どんな交渉だよ……」
「したがって、第0剣士部隊の人員を、第7剣士部隊が担当していた任務に回せるようになった」
「はははは、ドン君の平和への願いは相当強いみたいだね!」
「リュウリュウ、少し宜しいですか?」
「話したまえ、ジョゼフ」
「その休戦の話、本当に信用に足るものなのでしょうか?」
「無論それについては疑問となるところだろう。
なので、本日この場で決を取り、休戦協定に伴う親書を作成したいのだが……いかがかな?」
「信用出来ないものに関しては同意致しかねます」
「うむ、確かにそうだろう。
そういう声もあると思っていた。
なのでこの内容が、いかにして皆の信に足るかをこの場で伺いたい」
「そうですな……では、ジャコールのトップにこちらまで来て頂ければ信用致しましょう」
「ハッハ、そいつぁ名案だ!」
「リンジ、控えろ」
「へいへい、レオナちゃんちょっと怖いよー?」
「黙ってろ」
「へーい」
「ふむ、非常に難しいと思うが……出来るかね?」
「…………え、俺っすか?」
「「「当然だろう」」」
あ、はい。
「えー、それじゃあガディスさんとリュウリュウさんのサインが入った正式な書状を書いてください」
「おいおい本気かよ、死にに行くようなもんだぜ?」
「ザーボンさん、お気遣いありがとうございます。
がしかし、やらなきゃ前には進めませんからね」
「はははは、なるほど……やはりリュウリュウでは持て余す存在でしたか」
「ふふふ、良い意味で持て余しているよ」
「ドン君、いつ発つんだい?」
「そうですね……数日、いや1週間以内には行こうと思います」
「うむ、では後程「パック」宛ての書状を準備しよう」
可愛い名前のボスだなおい。
「ジョゼフ、これで異論はないな?」
「はい、問題ございません」
「他の者はいかがかな?」
「よろしいですか?」
「む、なんだね?」
「あまり言いたくはありませんが、ドン君がジャコール側の人間でないという証拠はあるのでしょうか?」
おう……そっち側ではないんだよ、アンチ君。
「ふむ……確かにそういった疑問も出てこないでもないか。
ドン君、何かあるかね?」
「証拠はありませんよ。
それはこの場にいる全員に言える事ですからね」
「ほぉ、では私がジャコールと通じていると仰るわけですね?」
「アンチさんがジャコール側の人間でないという証拠はあるんですか?
ないのであれば、それは誰にでも言えると言ったまでです」
「おいおいおい、空気が悪いぜ?」
「ザーボンは黙っていて下さい。
ドン君、私は長い間、第2剣士部隊の部隊長を務めた実績があります。
それが証拠にならないというのですか?」
「実績と証拠は別かと思います」
「……新人の癖に生意気ですねぇ」
おぉ、殺気がピリピリ……。
リュウリュウおじちゃんが頭を抱えていらっしゃる。
しかしここでアンチを納得させんと、今後が面倒だからな……。
「新人ではありますが、世を良くしたいという気持ちは誰にも負けないつもりです。
この際です、証拠云々よりも、どの様にすればご納得頂けますか?」
「簡単な事です、私に実績を見せなさい」
「アンチ、ドン君は既に多大な実績を見せているよ」
「ガディスの言う小さな実績では私は納得しません。
目に見える「国益」を私に示したならば、あなたを信じましょう」
「その言葉、偽りないですね?」
「皆が証人です」
しゃあねぇな……ここで使うのは勿体ないけど、結果的に信用に繋がればいいか……。
「……では長年問題となっている南の国と西の国の関係を改善させて頂きます」
「「「なっ」」」
「馬鹿な、出来る訳が無い。
それにそれは南の国と西の国の問題。
どうしたら中央国の利に繋がるというのです?」
「出来る出来ないはともかく、中央国の利には十分なりますよ」
「ほぉ……」
「神者ギルドの名を使い関係を改善します」
「ふふふふ、なるほどそういう事か……」
「神者ギルドへの信に繋げ、両国からの献金に繋げると?」
「まぁ他にも色々ありますけどね」
「……いいでしょう。
もしそれが成った時、あなたを認めようではありませんか」
「ありがとうございます」
「まとまったようだな。
では、パック宛の書状は作成しておくが、ドン君のジャコール行きはその後という事になるな」
「わかりました」
ネックなのは南の国のみだが、「あげる」って言えばなんとかなるんじゃなかろうか?
安易に考え過ぎかもしれんが、とりあえずやってみよう。
「では次の議題に移る」