第十一話「勇者」
3ヶ月経った。
あれからはダンジョンに入ってない。
というか、ここら辺のダンジョンはほぼ網羅しているんじゃなかろうか?
残っているのはユグドラシルの木のダンジョン位じゃね?
俺も見つけた。
ユグドラシルの木の根元にある水場の近くに、ほら穴的なダンジョンがあった。
ちゃんと「レベル100以上になったら入って来い。特硬化の魔石有り」っ看板があった。
ふむ、欲しい魔石だな。
いつか安全に行ける時期が来るだろう。
マカオがいれば今でも行けるけど。
黄金魔石から産まれた3つの魔石も、全て下位魔石だったので全部売った。
もっぱらチャッピー、マカオ、スン、キャスカと修行だ。
修行の話からだな。
キャスカが左手をクリアした。
え、早くね?
チャッピーは魔石無し、キャスカはフル装備だけどね。
めっちゃ喜んでた。
そして泣いた。
多分、今のキャスカの二つ名は「疾風のキャスカ」と言っても良いかもしれん。
でも、相変わらず「神速神速」言ってる。
超神速って言い始める日も近いんじゃなかろうか?
スンがデス○ムーアと遭遇した。
ようやく両手をクリアしたスン。
めっちゃ喜んでた。
「きゅきゅ~♪」
可愛い。
そうそう、スンに鞘をプレゼントしたら喜んでた。
ずっと頭の上に乗ってた。
スンは結構大きくなって、もはや頭の上に乗ると俺の顔が埋まりそうな感じだ。
実際に少し埋まって、俺が苦しそうな表情をしたらすぐ降りた。
残念そうな様子だったが、それより俺の心配をしてくれた。
嬉しい。
「きゅきゅぅう?」
そして可愛い。
俺は顔の攻略に手こずっている。
最初は余裕そうだったチャッピーも「ちょ、たんまたんま」とか言う様にはなった。
まぁ、良い傾向だ。
成長の速度? が上がってきた感じだ。
最近は、スンと修行する時は魔石を全て外してる。
それで良い勝負ってとこかな?
マカオとの修行は相変わらずだ。
なかなか成長の実感が出来ない。
キャスカ、スンもそう思っているらしく、最近マカオと修行するのは俺ばっかりだ。
うざい奴だがあいつのアドバイスは的確だ。
教わっておいて損はないだろう。
キャスカとスンの修行もなかなか面白い事になってる。
スンの無魔石、キャスカのフル装備で良い勝負だ。
ここにきてキャスカが急成長だ。
スンもキャスカが成長していて嬉しそうだ。
こいつは人間だったら絶対ピンとか一般人のカテゴリだろう。
まじで良い奴だ……流石俺の親友。
相変わらずベッドは気持良よくて最高だ。
2ヶ月前チャッピーのくしゃみで鼻水塗れになった時は、俺もキャスカになる所だった。
とりあえず寝ているチャッピーの耳元で大声を出して復讐してやった。
めっちゃビビって「わぁああああああああっ!!! なにすんねんお前ぇえええええっ!!!」とか言ってた。
まぁ、この声で久しぶりにもりもりもりってなったよ。
全員とび起きたしな。
そうそう、ベッドと言えば、キャスカが泊まりに来た時はキャスカに貸してやってる。
俺はスン枕でスヤスヤだ。
スンがそれで嫌がる事はない。
むしろ嬉しそうで俺も嬉しい。
冗談半分でキャスカに「なんなら一緒に寝てやろうか?」って言ったら、数分間固まって、隣で寝てるマカオが興奮してた。
俺の「冗談だよ冗談」って声もキャスカの耳には届いてなかったみたいだ。
なかなか可愛い。
話すのが遅くなったが、この前手に入れた竜の剣(爪)の話だ。
長いから腰から下げる事は出来ない。
忍者みたいに背中から掛けるか? と思ったけど、刀身が長すぎて抜刀できねぇ。
という訳で、竜の剣(爪)を持ち運ぶ時は手に持ってます。
で、斬れ味なんだが……。
あれやばい。
ヤヴァイって感じだな。
キャスカのユグ剣がスパって斬れた。
当然キャスカは大泣き。
チャッピーに新しいユグ剣を作ってもらった。
基本峰で戦う様な感じが一番いいかも。
峰でユグ剣位斬れる。
そんな感じだ。
竜の剣(爪)の刃は魔物と戦う時以外は封印だな。
チャッピーと戦う時に使おうとしたら「それはちょっと痛そうだから勘弁」って言われた。
すんごい剣だなこれ。
ある日、聞こうと思って聞いてなかった事を聞いてみた。
「チャッピーやマカオより強い奴っているの?」
「そりゃいっぱいいるわよ♪」
マカオがちょっとあり得ない事言ってた。
どうやりゃそこまでいくんだよ……。
「知ってる奴だと?」
「ん~、そうね~……まず魔王の上位ランカーは強いわね」
やはり魔王もランキング制度だったか。
「後は青龍、朱雀、白虎、玄武辺りかしら?」
何か聞いた事あるな……四神だっけか?
四神なら霊獣より強いってのも納得だ。
そうか神レベルがこいつらより強いのか。
「あ、我と青龍はダチだぞ」
神とダチか、やるな犬。
「って事はチャッピーより青龍のが強いのか」
「ん~多分、ちょっとだけ」
ほぼ神と同レベルなのか。
この二人がすげー事には変わりないのか。
「それ以外には?」
「あー、やっぱ勇者ちゃう?」
長い事生きてる分、こいつの口調が色々変わるのはもはや仕様だな。
しかし勇者か……すごいな勇者。
「勇者もランキングなんだっけか?」
「そそそ」
……。
威厳皆無だな。
普通は「左様」とかだろう?
ランキングシステムはどんな仕様なんだ?
「そのランキングってのは?」
「良い質問です、レウス君」
あ、キリッてなった。
先生の登場だな。
「勇者とは、戦士ギルドを卒業した者がなるものです。
戦士ギルドの最大レベルは150。
しかし、レベル151の魔物が判定員によって決められています。
それが「ブレイブジャッジメント」という魔物です。
このブレイブジャッジメントは、基本的に害はありませんが、少しでも同種族以外の者が触れると町のチンピラレベルに難癖を付け襲いかかってきます。
ブレイブジャッジメントは群れで行動しておりますが、触れた者を襲っているブレイブジャッジメントには無関心です。
そして、触れた者はブレイブジャッジメント1匹を群れから引き離し、追ってくるブレイブジャッジメントを倒し、戦士ギルドにその首を持って行くと、晴れて勇者となります。
勇者となった者は戦士ギルドから除名され、以降は勇者ランキングを管理する、勇者ギルドに所属する事になります。
勇者ギルドに所属となった勇者は、最下位の序列が与えられ、その序列を上げる場合はランキング上位の者に挑戦をして勝たなくてはなりません。
勝てば負けた者の序列を与えられ、負けた者はその一つ下の順位となります」
長い……けど、わかりやすいな。
つまり151になった段階で勇者になり、そこからはランキング戦か。
「その序列競争、断れないんだよね?」
「ざっつらいと!」
……。
今のは聞かなかった事にしよう。
「ランキング戦を断る事は出来ません。
しかし、その序列の者と戦う際は、挑戦者は応戦する者が今欲しい物を用意しなければなりません。
勿論、無理難題は勇者ギルドには認められません。
勇者ギルドが認めた物の中で欲しい物を用意し、それを相手に提示する事で挑戦完了が認められます。
挑戦者は勝てばその序列を手に入れ、応戦する者は勝てば自分の序列が守られ、欲しい物が手に入る。
負けた場合でも序列は下がりますが、欲しい物が手に入ります」
ふむ、賭け事みたいな事をする勇者共だ。
上位者の欲しい物なんかは、難度が高いって事になりそうだな。
にしてもよく回る口だな?
しかし勇者ギルド……見かけた事がないな?
「勇者ギルドってのはどこにあるんだ?」
「良い質問です、レウス君」
いちいちうるせぇな。
「勇者ギルドは各国に存在するそうです」
「するそうです……って事はチャッピーも知らないのか?」
「その通りです。
戦士ギルドを卒業すると、その時に各国の勇者ギルドの場所が載ったリストを貰えるそうです。
ここら辺だと西の国にあるかと思われます」
「って事はチャベルン?」
「いいえ、チャベルンは町です。
西の国チャベルンの町なので、西の国「ゲブラーナ」はさらに西にあります。
因みにエヴァンスは中央の国の町です。
中央の国と西の国は100年程前から同盟を組んでいます」
エヴァンスは中央って程、栄えてないぞ?
おそらく中央の国のド田舎って事なのか。
通りでキャスカの鼻水がよく出るわけだ。
ド田舎=鼻水だ。
間違ってないだろ?
同盟組んでないと、ダニエルとトッテムに親交があるのがおかしいからな。
「わ、我の説明で、わかったかな?☆」
……。
ちょっと緊張してたしな。
最近目立たなくなってきたから、すっかりチャッピーは臆病だ。
勿論俺に対してだけだ。
これも可愛さの一つか。
……この図体で?
って話をした2日後の修行中になんか来たよ。
女だ。
色白で白髪で瞳は灰色だ。
なんかかっこいい剣持ってる。
グリップは茶色で、鍔は金色、鞘を見る限り両刃の剣だな。
なんて言うんだっけ?
バスタードソード?
赤いマントみたいなのを羽織って、黒いパンツに黒いインナー。
銀色の金具の付いた黒いブーツ
乳はキャスカ程じゃないがあるな。
外の世界でいう、C、Dあたりだな。
キリッとした顔つきでまつ毛がなげー。
歳は24、5とかかしら?
「そこまでだ、邪悪なるドラゴンめ!!」
どっかで聞いた事あるセリフだな。
「そこのスライムもだ、その女の子から離れろ!」
ほぼ一緒だな。
けどキャスカなんかより強気だ。
スンとチャッピーは、「またか……」って顔してる。
マカオもすぐに状況を理解したみたいだ。
キャスカは「……くぴ?」って表情だ。
これはトッテムが悪いのか?
過去の経験からとりあえずキャスカが信じた方法でいくか。
さらっとな。
「あー、俺達修行中なんで邪魔しないでもらえます?」
「修行だと……魔物とか?」
「はい、こいつらは俺の友達です」
俺の発言に喜びすぎのチャッピーが、相変わらずブンブン尻尾振ってる。
「レウスと私が友達……きゃあああっ、恥ずかしいよぅっ!!」
「きゅきゅー!!」
「聞いた、マカオ?
レウスが我を友達だって!!
ねぇ聞いた!?」
「って事はアタシも友達ね♪」
変な団体だな。
「という事は、君は魔物使いかな?」
「あぁ、レウスといいます。
その言い方はあまり好きではありませんが、普通の人から見たらそうなんだと思います」
「ふむ、それは失礼をした」
あぁ、理解力のある人だ。
「私はセレナ、宜しくレウス君」
握手だ。
女の手。
やばい。
やわらかい。
おっと冷静冷静。
「それで今日は何故ここに?」
「あぁ、ある物を取りに来た」
ここに取りに来るのなんて一つしかないだろう。
てかキャスカとダブり過ぎだろ。
手抜きシステムか?
「ユグドラシルの枝ですか?」
「いや、葉を求めて来た」
は?
シャレじゃないぞ?
何か効果あるの?
「チャッピー、説明!」
「かしこまりました」
本日二回目の先生登場。
「ユグドラシルの葉は、病気の治療薬として重宝されております。
ユグドラシルの葉は、ユグドラシルの木から落ち葉として落ちて来る事は滅多にありません。
外部から力を入れないと採れない様になっています。
従って、ユグドラシルの葉は非常に稀少であり、非常に高価なのです。
それを常食としている我は、病気にかかる事はありえません」
わかりやすい。
そうか、そう言えば落ちてる葉は見た事ねぇな。
外部からの力……相当な風圧でもない限り落ちて来ないってこった。
前に言ったけど台風なんてないから、鳥とか空を飛ぶ魔物とかじゃないと難しいって事だな。
最後の説明いらないけど。
「そんな貴重なのか」
「そうだ、市場に出回れば数十万レンジになるはずだ」
すげぇな。
「けど何で葉は数十万で、枝は数百万なんだ?」
「この木に登れる者がいるとしても、その者が枝を斬れるとは限らないからな」
あぁ、なるほど。
把握把握。
「何枚必要なんですか?」
「1枚で十分だ」
「チャッピー!」
「チャッピージャァアアアアアンプッ!!」
……。
きっと今日は俺に頼られまくって機嫌が良いんだ。
察してやってくれ。
あぁ、めっちゃニコニコしてる。
俺以外の人があの顔を見たら、一瞬で殺されるって思う位怖い顔してるな。
降りてきた。
「チャッピー着地ぃいい!!」
……。
察してやってくれ。
……絶妙に葉に穴が開かないレベルでつまんでる。
ホント器用な左手だな。
よく斬れる爪なのに……。
「さんきゅー」
「どういたしましてっす!」
……。
察せ。
セレナは微動だにしない。
中々の人物だな。
「あの竜は面白いな」
真顔で言ったな。
こういう人か。
「チャッピーがいなかったらどうやって採るつもりだったんですか?」
「木のぼりが得意でな……しかし、この大きさは予想外だった……」
なんとかなる精神か。
キャスカもそうだったしな。
まぁ、デカイ木ってだけの情報しか世界にはないだろうから、これが自然な反応なのか。
「何に使うんですか?」
「ある勝負を行う為に必要でな」
聞いた事がある話だな。
「……勝負?」
「あぁ、私は勇者をしているのだ」
……。
フラグ回収が早すぎるぞ、世界よ。
麒麟より四神が強いとかどうなん? という内容のご指摘が多いのですが、作中に麒麟は登場しておりません。
そういった意味も込め「騏驎」と表しています。
また、レウスの知識内で「四神の方が強いのは納得だ」と述べているものなので、同様のご指摘はご勘弁頂ければ幸いです。