第百十六話「副官会3」
「……さて、どこまで話したかな?」
「「レウスはリュウリュウさんの先祖に何かをしたと?」って質問だったかと思います」
「そうだったね。
……今から約2000年前、先祖達はレウス率いる「勇者」達に決死の戦争を仕掛けたのだよ」
率いた覚えはないが、俺の作戦を否定する人がいなかったから確かにそうなのかもしれん……。
「へぇ……そんな事は資料にはありませんでしたね」
「しかし、レウス率いる勇者と魔物に奇襲を仕掛けられ、善戦空しく敗れてしまった」
善戦してたか?
2500文字位で終わったんだぞ、あの戦い。
「それじゃそこから1000年の間は、どういった変化があったんですか?」
「さほど変化はないよ。
子孫達がレウスとその一族を憎み、それを引き継いで行っただけだ」
「戦力が整い、時期を見計らって戦争を仕掛けたのが1000年前だと?」
「そんなところだね。
数年で戦争が終わったのだが、変化があったのはその後だろう」
「変化が……その後?」
「……後悔だよ」
「戦争に対する……ですか?」
「まぁ……そうだな」
「レウスとその一族に対してもって事ですか」
「もはやその一族はごく少数になっている。
いまになっては怨恨はもうないよ」
本当だったら良い事なんだろうが、ここで感情露わにして「じゃあ仲直りしましょ」とか言ったらリュウリュウの思う壺かもしれん。
それに、確かガディスが「リュウリュウはアークやラーナを恨んでる」と言っていた。
これはガディスから口止めされてるから、これ以上は聞けない……か。
「そして今の様になったと……」
「そういう事だね……む」
「ソージさんですかね?」
「いや、おそらく……」
確かにソージより気配を感じやすい……?
コンコンッ
「入りたまえ」
「し、失礼致しますっ!」
ガチャッ
この声は確か――
「初対面……ではないはずだね?」
「グリードさん、副官になったんですね」
「い、いえ、そういったわけではないのですが……」
「ソージがな……副官室から出てこないのだよ」
…………引きこもりかよ。
何やってんだよアイツ。
「ふふふふ、君と、君の副官が原因でもあるのだよ?」
「……なんとなくわからないでもないですけど」
「ここ今回の不始末、副官のソージ殿に代わりましてお詫びします」
「いや、構わぬよ。
予めレッドから報告を受けていたからね。
だからこそのグリード君の参加を許可したのだ」
「はっ、お心遣い感謝します!」
「では、問題に関してもこれの事かね?」
「皆様方、言い難そうではありましたが……」
「ソージはあれでいて神者ギルド有数の実力者だからな」
確かにソージは、俺やデュークやビアンカやテンダーがいなければ、神者ギルドのトップ10には入れる実力だからな。
あの戦力をそのまま放置したりするのは、リュウリュウにとって後々に痛手なるだろうからな。
レッドがガディスの派閥にいたとしても、ソージのあの性格ならリュウリュウの手元に置く事が可能だ。
ならば処罰を躊躇うのもわからなくもないな。
「さて、どうしたものか……」
「どうしたものですかね……」
「……2人とも俺を見すぎですよ」
「気のせいでありましょう」
「では、この件はドン君に任せるとしよう」
「勝手に決まりましたね……」
「は、はい、では宜しくお願いします!」
「どうしてそういう――」
パタンッ
行っちゃったよおい。
「はははは、ここはまだグリードには荷が重い場所だったようだね」
「確かに凄く緊張してましたね」
「あれでいて自分の立場を弁えてるのだよ」
「ですかねぇ……」
「まぁ何にしてもソージの件は任せたよ?」
「これは強引ですね」
「時にはそういう事も必要なのだよ」
「まぁ捉えようによっては第9剣士部隊の仕事ですから構いませんけどね」
「ほぉ、もっと反対するかと思ったんだがね」
「責任くらいはとりますよ」
「なんともわかりにくい性格だね」
「変とはよく言われますね」
「ふふふふ、確かに「変」という言葉が一番適当だね」
「……それじゃさっさと終わらせちゃいましょうか」
「む、来たようだね」
コンコンッ
「入りたまえ」
「失礼致します」
ガチャッ
「第7剣士部隊副官、キングスであります!」
「うむ、ご苦労だね」
「おぉ、やはりドン様もいらっしゃったのですか」
「キングスさん、お疲れ様です」
「ほほぉ、たった一度の任務で随分仲良くなったようだな?」
「いやぁ、あの時のドン様は見事な手腕だったかと存じます」
「ありがとうございます」
「うむ、着実に皆の信頼が得られている。
さぁキングス、報告を聞こうか」
「はっ、現在第7剣士部隊は魔石不足となっている現状です」
「部隊全体がですか?」
「その通りでありますっ!」
「第7剣士部隊は実動部隊の序列最下位。
その為、労働環境としては過酷を極める。
本来与えられる休養を与えられていないのが現状だ」
「つまり休養をあまり与えないが為、魔石採取の時間を与えられないという事ですね」
「ダンジョンの競争率が高くなるのは仕方のない事だが、それがきっかけでギルド内でのいざこざが起こる事も少なくないのだよ」
確かにこれだけの規模のギルドになると、ダンジョン内で剣士同士が鉢合わせになる可能性もあるし、運だけで片付けられない人間が文句言ったりしそうだな。
ダンジョン発見は運だけじゃなく、魔物の痕跡等を追ったり、時には複雑な地形に赴いたりする努力も必要だと気付いてる奴はそんなに多くないだろう。
魔術の……レイヴンのおかげで強くなった者は増えたかもしれない。
がしかし、末端の構成員達の実力は下位勇者より強くても、頭の回転までは勇者に追いついていない。
柔軟に対応できる能力も必要だが、どことなく品性が足りないような……。
なんだろう、良い奴以外も神者ギルドに入れてるのが問題なのかしら?
これは魔王ギルドがなくなった要因の1つか?
……もしかしたら魔王ギルドはあった方が良いのかもしれないな。
善人悪人を自動的に判別出来るシステムなんぞ、今思えば画期的ではある。
勿論、悪をただ悪として認識するのはダメなんだろうが……うーむ、難しい問題だな。
「さて、なかなか難しい問題だな。
どこの部隊も魔石は欲しいだろうし、一時的にキングスやピエールが集めたとしても限界があるし、やはり第7剣士部隊は暇があまりないという問題が残る」
「第7剣士部隊に集中してる仕事を、別の実動部隊に割り振りする事は出来ないんですか?」
「おそらく出来るだろうが、クレームが出るだろうな」
「因みに実動部隊ってのは?」
「第2、第5、第6、第7だな」
「第4は衛生部隊で……他はどうなるんです?」
「第1剣士部隊は対反抗組織専門の実動部隊だ」
「あぁ、そういえばそんなのがいるって話ですね」
「ふっ、最近は小康状態だからあまり知らなくても仕方ないな」
「それで、リュウリュウさんのとこは何をしてるんです?」
「第3剣士部隊は人材勧誘とエヴァンスの守護を担当している」
「最終防衛ラインってやつですか。
……で、第8剣士部隊は?」
「神者ギルド支部の管轄を任せている」
「へぇ、なんだか人数が多そうですね」
「その通りであります。
第8剣士部隊の所属剣士は神者ギルド最多数となってます」
「第8剣士部隊のみ、序列を6位まで決めているのだ」
「……各国に1人を配属してる感じですか?」
「うむ、その通りだ。
副官を中央国、序列3位を東の国、4位を北の国、5位を南の国、6位を西の国に置いている」
「部隊長はどうしてるんです?」
「常に世界中を走り回っているよ」
「序列6位までの面々はどなたも実力者揃いであります」
この話し方だと、どいつもキングスよりも強いって聞こえるが……まぁ重要拠点に置く人物なんだからそうなのかもしれんな。
「うーん、やはりこの件はこの場でどうこう出来る問題ではないですね」
「そうだな……これも次回の部隊長会議での議題となるだろう」
「了解致しました!」
「うむ、ご苦労だったね」
「はっ、では失礼致します!」
パタンッ
ふむ、議題案は現段階で、第4剣士部隊の医療技術の増強に、第7剣士部隊の過酷な労働環境ってとこか。
さて、ここからの部分は突っ込んで聞けるのかしら?
「ふふふ、何が聞きたいのだね?」
おっと、やばいやばい。
「結構突っ込んだ質問ですよ?」
「構わぬよ、今日は機嫌が良い」
「では機嫌が悪くならない事を祈って……。
以前リュウリュウさんが言っていた「15階から上は特殊な配属先になっている者の居住区」……というのが気になってます」
「はははは、覚えているものだね」
コピペなんて言えない。
「特殊な配属先……第0剣士部隊の事だね」
うお、なんか怖そうな部隊きたなおい。
「ははは、そこまで怖がらなくて良い。
第0剣士部隊には部隊長も副官もいない。
各々に特殊な任務を与えているのだ。
その実力もほとんどが副官レベルだよ」
コイツが「ほとんど」って言ったのを俺は聞き逃さない。
弱いのが多いのか強いのもいるのか……。
いけるか……?
「副官以上の人がいそうな言い方にも聞こえますけど?
もしかしたらガディスさん以上の人だとか?」
「はっはっはっは、神者ギルドの最強はガディス……いや、デュート君だよ。
無論、ガディスに続く者は第0剣士部隊にいるがな」
「誰ですかその怖い人は……」
「私の息子だよ」
「……いたんですか」
「いたのだよ……む」
「いい所だったんですけどね」
「ふふふふ、仕方あるまい」
ゴンゴンッ
「入りたまえ」
「しゃっす!」
何だ今の返事は……。
バンッ!
「ちーっす!」
「相変わらず元気一杯だね」
「……あんたぁ何者だい?」
「第9剣士部隊の部隊長を務めているドンといいます」
「ほぉ、あんたが……」
「これ、挨拶くらいしないか「リンジ」」
「おう、リンジってんだ。
ヨロシクたのむわ!」
リンジ……人間で金髪坊主のサル顔風イケメン。
身長180前後で体格は普通。
制服を着ているが……上着は腕辺りで千切れてて、パンツは所々にダメージ加工……なのか?
それに何か変な所が切れてるぞ?
肩部分とか膝上とか……血まで付いてる……。
え、怖いわこの子。
実力は……エレンと同じ位でランキング12位辺り。
年は30前後ってとこだろう。
「……その血はどうしたのだね?」
「会議室にとんでもねぇ化け物がいてよ、思わず殴りかかったらこの様だ」
……なるほど、服の変な切り口や血は、ダルマにされた後だからか。
「普段ならそうはならないんだろうが、お前は突発的に何か起こると、どうしても周りが見えなくなるな……」
「あんな化け物、誰が管理出来んだよ?」
「ここに第9剣士部隊の部隊長がいるだろう?」
「んじゃ言い替えよう。
ドン部隊長がどうやって管理すんだよ?」
「それは管理出来ないと判断したら考えるものだよ。
現在は何の問題も起こしていない」
「問題を起こしてからじゃ遅ぇって言ってんだよ」
「ではどうしろと言うのかね?」
「だから部隊長にどう管理してるのかを聞くのが一番早ぇと思ってな」
「ふむ……だそうだが?」
「管理なんて必要ないですよ」
「どういうこった?」
「根は善人なので、間違った事さえしなければお仕置きされません」
「ふふふっ」
「あと、俺の事が大好きなので、俺を狙うと今日のリンジさんの様になります。
今度取扱説明書を発行しますので、それを読んで守ってくれれば大丈夫です」
「……なるほどな」
「どうしたのだね?」
「会議室でアイツにちょっと突っかかったら、「文句は全てドン君に言ってねっ」だそうだ」
あいつは俺をクレーム専用のサポートセンターかなんかだと思ってるんじゃないか?
フリーダイヤルでも開設しようかしら?
「意外に簡単な答えが返ってきやがったが、要するにこっちがアイツの前で問題起こさなきゃいいわけだ?」
「そうなります」
「私も肝に銘じておこう」
「それにあの人が起こすのは問題じゃありません」
「「?」」
「大問題です」
「カカカカッ、ちげぇねぇ!」
「ふふふふ、面白い問題なら歓迎だがね」
「だと良いんですけどね」
「さぁリンジ、第8剣士部隊にあげられた問題を聞こうか?」
「いつも通り「わかんねぇ」だな」
「相変わらず……か」
「色んな国に点在してるからって事ですか」
「そういう事だな」
「一番状況を把握してんのはレオナちゃんだかんな。
毎度の事で悪ぃが、部隊長会議で確認してくれや」
「うむ、そうするとしよう。
リンジ、ご苦労だった。
扉は静かに閉め――」
バタンッ!
ガサツだが頭は回る副官ってとこだな。
「まったく困った奴だ……」
「けど悪い人じゃないですね」
「わかるかね?」
「良い人の雰囲気が溢れ出てましたよ」
「序列3位から6位もリンジとそこまで変わらないが、あいつが副官の位置に納まっているのはその人柄故なのだ」
「へぇ……」
「さて、私の息子の話で終わったんだったな」
「娘もいたとか言わないでくださいね」
「…………」
「っ!!」
一瞬だけすげぇ殺気が……!?
あれ、なんか突いちゃった!?
娘が……いたのか。
「……すまない。
ドン君には今のでわかってしまったみたいだね」
「こちらこそ軽率な発言でした。
…………息子さんの話をお願いします」
「ふっ、優しいね」
「別件ですが、それでも聞くってんだから結構残酷だと思いますよ?」
「ふふふ、相手とタイミングと内容を考えて発言してると思っていたが?」
「考えすぎですよ」
「そういう事にしておこうか」
「そういう事にしておいてください」
「ははは…………息子の名前はタジョウマル。
ガディスに次ぐ実力の持ち主だ」
凄い名前だな……。
思い出せないけど、なんか有名な名前だ。
和名っぽいけど、別にリュウリュウの一族なら普通っちゃ普通か。
「第0剣士部隊の主な任務は……もう一つの反抗勢力の鎮圧を目的とした隠密部隊だ」
「あー、確かジャコールにいるっていう?」
「こちらも中々思うように行ってなくて困ってるのだ」
「そりゃ大変ですね」
「だからこその第9剣士部隊だよ」
「というと?」
「今まで「取り締まり」と呼べる仕事は彼らに任せていたからな」
ざ・殺り死まり!
やはり暗部的な奴等だったか。
……おや、この気配は?
「どうやら来たようだね」
「どんな問題を持ってくるんでしょうか?」
「さぁ、どうだろうね?」
コンコンッ
「入りたまえ」
「失礼しまーすっ♪」