第百十話「前情報無し」
集団戦闘開始!!!
先陣をデュークが駆ける!
「神者ギルドの襲撃だぁああああっ!」
「テンダーさんに報告だ!」
後ろにピッタリくっ付くのはそう俺!
徐々に引き離されてますけどね!
デューク、盗賊達の武器はバシバシと叩き落として行きます!
レウスがその武器を拾う拾う拾うぅううっ!
因みに盗賊達の武器を叩き落とした瞬間に、武器を持ってる腕が衝撃で折れてるぞ!
そう、出血多量での死が懸念される為、一番効率的な無力化は敵の骨を数箇所折る事でございます!
辺りには悲鳴が!
そして狂神の笑い声が!?
なんで笑ってんだアイツ!
……あぁ、時々俺の姿見てるわ。
しかしこいつらかなり統率がとれてるな?
そしてこの山……こんな人里離れた場所に根城?
よくわからんから後で考えよう!
山を登りながらの不利な地形ではありますが、レベル差でしっかり埋めていく!
おっとレウス、山の途中に少し開けた平地を確認。
ここに拾った武器を一時放置、そして再度駆ける!
武器を拾う程俺の速度が上がるから微調整が大変であります!
さぁそのすぐ後方にはジェイド、ミナ、ビアンカの3人が散らばった敵の集団と交戦!
ジェイド、落ち着きながら敵の無力化を行っております!
おーっとミナが盗賊の首元に剣を……これをビアンカがしっかりとガード!
ビアンカそのまま敵の首元に手刀!
ビアンカがミナにイエローカードを提示!
あぁ、イエローカードは俺が持たせたんだ。
2回出されたら退場になる便利グッズだ!
シュンとするミナが少し可愛い!
レウスが合流し、地を這う様に、舐める様に物色物色ぅうううっ!!
ここは宝の山だよママン!
一通り回収を終えたら再度武器を置きに走る!
さぁこちらは山の中腹、ピエールとキングスがバッタバッタと盗賊団の両腕をへし折っていきます!
ちゃんと指示通り、強めの敵から対応しております!
しかしピエールの奴動けるなぁ……あんなに速く動く太っちょさんは初めて見たかもしれん。
キングスも冷静に動ける良い副官だわ。
勿論俺の副官とは比べるまでもありませんけどね!
……あれ、どっちが副官だったっけ?
さて、問題は倒した100人をどう運ぶか……なんですけど!
なんと後程、召喚士の1人がこちらに来て召喚獣で運んでくれるそうだ!
誰に会えるんだろ?
やっぱり虚ろな目で「…………」って感じなんだろうか?
普通に喋るのか?
なんにしても、もう少しで家族の1人に会えるぜ!
100人以上を運ぶとしたらサイズ的にチャッピーかオバルス、舞虎に……成長したバティラならいけるのかしら?
朱雀の大きさはどんなもんなんじゃろ?
「ぐぁあああああああっ!!」
デュークが向かった先から叫び声が!
おそらくテンダーがダルマになった際に発した声でしょう!
安全と判断したのでそちらへ向かいます!
デュークとダルマを発見!
「んーんんーんんんんんんー、んーんーんーんーんー♪」
デュークが鼻歌に選んだ曲は滝廉太郎の「花」!
鼻歌にかけたのかこいつ?
何でデュークが知ってるの!? とかの質問は受け付けないぞ!
大丈夫だ、「曲」の著作権はだいぶ前に失効してる。
歌詞はまだダメだから、知りたかったら検索だ!
あ、集団戦闘終了!!!
はい、テンダーは紫髪の筋肉マッスルのクォーターに近い感じのハーフエルフでした。
身長は190以上、体重は……筋肉質だとわかりにくいが、100キロくらいか?
ロン毛で、襟足が肩に着くくらいでございます!
服は盗賊の親分っぽくなってると思ったら、白Yシャツ全開のスーツ野郎でした!
しかし山に住んでたせいか、ところどころバッチィ。
首がガッチリで胸板が厚い。
顔は整ってはいるんだが、かなり目つきが悪い。
目の下にクマあるな?
年齢は……30代近くには見えるな。
武器を奪い、装飾品を奪い、魔石を奪う!
どっちが悪者かわかりませんね!
「第7剣士のピエールはともかく、何者だこいつは!!」
「初めましてデュートですっ」
「……俺の後釜って事か」
「それは俺っす」
「……お前がぁ?」
せめて完全装備をしてたら舐められないんでしょうけどもね!
くそぅ、時間経過はまだか!?
さて気になってた事なんだが、ある程度はわかった……と思う。
俺の確認不足も原因だな。
「ドン、テンダーだけは殺すよ」
「マジすか?」
「過去神者ギルドの仲間を沢山殺してるよ」
「それは自衛の為でしょう?
脱退者を殺害する様な真似をしなければ神者ギルドの人間も死ぬ事は無かったと思いますし…………何より、テンダーさんが盗賊に身を落とす事は無かったとは思いませんか?」
「……考えてみればそれもそうだよ」
「ピエール様っ!」
「ミナさんはお静かに」
「…………っ」
「そういうのは甘い考えなんだよ、第9剣士部隊の部隊長さんよぉ」
「自分でも甘いとは思います。
しかし、人を殺す覚悟は……とうの昔に出来てますから」
「ほぉ、そんじゃあさっさとやっちまってくれや」
「別にあなたを殺すとは言ってないでしょう?」
「じゃあ何するってんだよ!」
「そもそも盗賊団がこんな山にいて、尚且つ全員集合してる事がおかしいんですよ」
「どういう事でありますか、ドン様」
「勿論、全員いるかはわからないですけど、盗賊団なんだったら交易ルートや町の中に出没するもんですよ。
こんな人里離れた場所に根城があるんだとしたら効率が悪いとは思いませんか?」
「それは、見つかってはならないからではないでしょうか?」
「人里に近くて見つかりにくい場所なんて沢山ありますよ。
…………ミナさん、この盗賊団……しばらく活動してないんじゃないですか?」
「…………」
「そうですね、約1年前から……とか?」
「へぇ、つまりドンはテンダーさんがここをまとめてたって言いたいのねっ?」
「あくまで可能性だけどね」
「ミーナさんっ♪」
「…………」
「そういう事らしいです」
「そ、そうだったんですか……僕はてっきりまだ盗んでるものだと……」
「勿論100人の盗賊団にはエヴァンスで罪を償ってもらう。
調べたら、あまり使われてないけど収容施設があったからね」
「ドン様、ある程度気を使える者になると収容施設は簡単に脱走出来てしまうのでは?」
「普通に入ってもらうだけで大丈夫ですよ。
一応考えがあります」
「その考え、とても楽しみだよ」
「じゃあテンダーさんは何もしてないんだねっ?」
「どうなんです?」
「……さっさとやっちまってくれ」
「やってないそうです」
「てめっ、俺はそんな事言ってねぇ!」
「キングスさんはどう思います?」
「私が……でありますか?」
「えぇ、ここのやつらと戦って……何を感じましたか?」
「確かに……私達を倒すというよりかは、何かを守ろうとしている感じがしました」
「はい、それだけで十分です」
「はっ!」
「色々おかしい事が起きてるもんですね、ミナさん」
「……」
「それじゃあ、テンダーの処分についてはドン部隊長に任せるよ」
「ありがとうございます」
「む、ルミさんが来たよ」
「ルミさん?」
「召喚士の1人よ。
第7剣士の僕が守護する召喚士だよ」
「わあぁ、僕召喚獣なんて初めて見ましたっ!」
うほ、1番最初がお前だったか……。
「巨大な……黒竜」
「ピエール様がお守りしているのは偉大なる空の支配者であります!」
チャッピーっていうんだぞ?
偉大さとか実は皆無なんだぞ?
あぁあああああああああ、くそっ、泣きそうだ。
けどここは我慢しなくちゃならんとこだから気を張っていこう。
ビアンカは俯いちゃってるけどね!
デュークはいつも通りニコニコしてるけど、なんか懐かしそうな顔してる。
おう、降りてきたぜ。
バサッバサッ……バサッ……。
「オマタセシマシタゴシュジンサマ」
「ありがとう」
喋ったわ。
目の焦点は合ってない感じだが……飛べてたって事は見えてるんだよな?
…………あれ、なんか目が合ったぞ?
「アレ?」
おい、まさかこれは…………。
「どうしました?」
「ナ、ナンデモゴザイマセン」
「変な奴ですね……こんな事は初めてですが……?」
すっごいチャッピーに見られております。
あぁあぁ目がうるうるしてきたぞこいつ。
前まで竜は泣けないとか言ってただろうに!
【おい髪!】
【字が違うじゃろうに】
【4文字で説明!】
【ミラクル】
【把握】
【何故4文字だったんじゃろうか?】
【…………】
【あ、はい】
何かしらメッセージを……!
「初めましてルミさん!
第9剣士のドンと申します!」
「初めまして、ルミです」
ルミの特徴?
後だ後!
「いやー素晴らしい竜ですねぇ」
「ありがとうございます」
「ずっと……「ずっと会いたかったんですよ!」」
「…………っ」
「確かに召喚獣は中々見れるものではないですからね」
「もし良ければ触ってもいいですかね?」
「ははは、どうぞご自由に」
「おぉおぉ、よしよし……」
「…………グスンッ」
「ぜってー助けるから待ってろよ」
「……ブワッ」
鼻水きたねぇな、おい。
「は、今なんと?」
「いや、「感動だなー」って言っただけですよ」
「ははは、他の召喚獣を見たらもっと驚きますよ」
全員ウチの家族じゃボケッ!
しかしさっきのルミのチャッピーへの質問……「どうしました?」で、なんで忠実に答えなかったんだ?
操り人形だとしたら質問にも正直に「この人知ってます」位答えていいはずなんだが……どういうこっちゃ?
あぁ、ルミの特徴ね。
えーっと藍色のローブを着てる…………若いなこいつ?
どうなって……あぁ、ラーナと同じ理屈かもしれんな。
長寿の魔物が身体に入ってるから母体も長寿になった。
そんな感じだろう。
年齢はわからんが、見た目25歳位のエルフで、デュークと同じ緑髪。
顔も声も中性的過ぎて男か女かわからんが、色白で美形ではあるな。
両耳に金装飾のイヤリングをしてる。
「ドン君、ルミさんが綺麗だからってそんなにジロジロ見ちゃダメだよっ」
「あぁ、すみません。
本当に綺麗だったもので……」
「ドンはルミさんみたいな女性がタイプなのかよ?」
「いやぁ、お恥ずかしい!」
デュークも性別わからなかったみたいだな。
俺を避雷針代わりにしやがった。
そうか女性か……確かに名前がルミで男性ってのも変だしな。
大丈夫だ、ビアンカは察してるみたいだ。
これがキャスカやハティーだったら、ちょっとした騒ぎになるだろうし、デュークはこんな話を振らないだろう。
「はははは、ドン部隊長みたいな殿方にそう言われると恥ずかしいですね」
「恐縮であります!」
「さぁ、100人の盗賊達をエヴァンスまで運ぼうではありませんか」
「了解です!」
帰ってビックリ…………大事件が起きました。
エヴァンス北西の町の入り口手前なんだが……。
「「「…………」」」
「な、何故でしょうか……」
「ルミ様、原因は……?」
「私には……わかりませんっ」
今ねチャッピーがね、戻らないの。
どこにって……ルミの体内に。
十中八九……というか絶対俺のせいだわ。
「とりあえずリュウリュウに報告してきます。
いいか、そこで「マテ」だ」
「カシコマリマした」
最後ちょっと気ぃ抜けてるぞおい。
少し尻尾振ってるし。
二人きりになるチャンスを作るか……。
「とりあえず私達も今出来る事をしましょう。
デュートさん、ピエールさんキングスさんと共に盗賊団を収容施設へ。
アンジーとミナさんとジェイドさんは、テンダーさんを第9剣士部隊の部隊長室へ連れて行ってください。
俺は、ここにリュウリュウさんが来たら今回の件を報告してすぐに向かいます」
「わかっただよ」
「かしこまりました」
…………………………遠目に召喚獣を見に来てる野次馬はいるが、声の届く範囲には誰もいない。
…………よし!
「おいチャッピー……」
「レェウゥウスゥウウッ!」
「静かにしろやっ」
「感動の再会じゃんっ」
「じゃんじゃねーよ」
「ずっと眠ってたんだからしゃああんめぇ」
「って事はやはり……」
「レウスが鍵となって我の心を開けたのだ」
「鍵……ね。
大体俺の想像通りか」
「どうやって起こそうとしたん?」
「チャッピーお座り! って言うだけだよ」
「我は犬と違うぞ?」
「俺の今の掛け声でちゃんと座ったじゃないか?」
「あれ、本当だわ」
「まぁ、それはよくふざけてチャッピーに言ってたし、チャッピーにとって印象深い言葉だと思ったからそれを選んだんだよ。
世界の理から外れた俺の「声」なら簡単に外れるかなーと、安易に考えてた……がしかし、お前は俺を「視認」しただけで目覚めやがった……」
「我を舐めるなよ?」
「さっきまで泣いてて、ルミにバレない様にするのに大変だった癖に何言ってんだ」
「あー、それ言っちゃう?」
「言っちゃう言っちゃう」
「……ところでこの後どないすんねん?」
「もう身体の自由はきくんだろ?」
「あぁ、自意識さえ覚醒すれば余裕よ」
「ここでお前が逃げると俺が怪しいと思われるわけだ。
そうなると他の皆を助けるのが困難になる」
「しばらく操り人形の真似事をせよと?」
「大変だろうが頑張れ」
「楽勝だし、我を誰だと思ってるし」
「支配されてた支配者」
「も、もう支配されてないしっ」
「まぁいいわ。
簡単な経緯だけ……ここは俺が死んでから1995年後。
俺は死んだ時、時間を飛んでこの時代に来た。
神者ギルドが支配するこの世界で、神者ギルドと戦ってるアーク達に協力して、俺とデュークとビアンカが神者ギルドに潜入してる。
デューク、ビアンカ、キャスカ、テレスは転生してこの時代にいる。
ハティーも長期間の自己保存をしてこの時代まで生きてた。
スンとラーナとアークとリボーンは元気に生きてる」
「…………………………把握した」
「んで、魔物の皆の大半がチャッピーと同じ状態だ。
ムースだけ行方不明なんだが、心当たりはないか?」
「…………魔界の最南端を探せ。
おそらくそこにいるだろう」
「おし…………くそっ、戻ってきたな」
「レウス……」
「なんだよ」
「会えて嬉しいぞ」
「……静かにしろ……ばかたれっ」
お待たせしました。その6