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第百七話「初仕事」

「ドーン君っ♪」

「デュートさん気持ち悪いっす」

「あははははっ、それは傷付くなぁっ」

「傷ついたのどこっすか?

 回復(ヒール)しますよ」

「ドンさん、デュートさん……いくらご自分の部屋といえどふざけ過ぎかと……」

「あはははははっ、怒られちゃったよっ」

「仕事は……してるじゃないすか?」

「ドンさんが行った仕事は、おやつの時間と昼寝の時間をデイリーワークに加えたのみですけど?」

「おやつの時間を設けたのはデュートさんすよ」

「許可したのはドンさんです」

「はい、そうです」

「…………」

「巡回はしてますし、日々の鍛錬もしてます。

 毎日の書類整理も出来てるので、空いた時間なら良いかなーと……」

「それがドンさんの困ったところです」


 そりゃ手厳しい。


「せめて仕事も鍛錬もしない人だと助かるのですが……」

「仕事はしなくても鍛錬だけはします」

「それは何故でしょうか?」

「死にたくないからです」

「その強さで命を落とす事はほぼないでしょう?」

「いつデュートさんの気が変わって首を落とされるかわかりませんから」

「素晴らしい信頼関係だと思いますが……?」

「やりましたね、デュートさん!」

「そうだね、ドン君っ!」

「……もしかして、私をからかってるのでは?」

「あははははっ、バレちゃったかっ」

「多少冗談を交えつつ仕事の話をしようかと……」

「……境目がわかりません」

「この1週間、僕達とミナちゃんとの距離が縮まらないからドン君は困ってるんだよっ」

「え……」

「困ってるわけではありません。

 超困ってるんです」


 こいつホント硬いんだよ。

 それだけリュウリュウに忠誠を誓ってるんだろうが、基本帰るまで俺の部屋にいるんだぜ?

 デュークが気ぃ利かせて遊びに来てくれるだけまだ助かってるが、常に監視の目があるのは本当に疲れるぜ……。

 デュークが勤務時間後に何回かミナを尾行したが、やはりリュウリュウに報告に行ってたそうだ。

 デュークをパシらせて申し訳ないが、やはり俺だと見つかる可能性があるからな。


「そ、そんな事を言われても……前にも申しましたがこれは性分の様なものですから……」


 状況が変わらないとあまり変わらなさそうだな……。


「ミナさん」

「な、なんでしょう」

「そろそろ第9剣士としての仕事がきても良いと思うんですが?」

「ちゃんときてますよ」


 それを教えろよ……。

 こっちは早いとこ実績を積んで信用されなきゃあかんのだよ。

 つーかなんで部隊長の俺に報告がこなくてミナにくるんだよ……。

 これに関してはちょっと突っ込んでみるか。


「そんな話は聞いてませんが?」

「言ってませんでしたから」

「俺に情報が先にくるもんじゃないんですか?」

「そ、それは……」


 おい、言い訳くらい考えとけよ!

 なんかこっちが悪い事してるみたいじゃん!


「さ、先程依頼がきましたので」


 無難だが…………。


「俺達、今日はずっと一緒ですけど?」

「…………」


 先生、そろそろ助けちゃっていいっすよ。


「あはははっ、それで、どんな仕事なんだいっ」

「神者ギルドを脱退した者の処罰ですね」


 ざ・()り死まり!


「え、捕えればいいだけですよね?」

「いいえ、見つけ次第殺して頂きます」

「……どこの部隊の依頼ですか?」

「第2剣士部隊ですね」

「拘束なら引き受けます。

 殺しの依頼は受けません。

 第2剣士部隊にそう伝えて下さい」

「なっ……」

「第9剣士部隊は殺しはしません。

 もしやるとしても、それは悪人に限ります」

「依頼を断るというのですかっ!?」

「断ってはいないっすよ。

 捕えるだけだったらやりますって」

「断ってるのと同じです」

「はい、そうですね」

「…………っ」

「そもそも、何で殺すんですか?」

「神者ギルドを脱退した者は処罰の対象になる。

 それが決まりです」

「その処罰が「殺害」だと?」

「……そう定義はしてません」


 くそ、この世界の曖昧さがここにきて出てきたかっ!


「では「捕縛」で問題ないですね?」

「しかしそれではアンチ様に――」

「俺達が話をつけます。

 行きますぜ、親分!」

「はーいっ」

「おやぶ……ん?」



 はい、3階の第2剣士部隊室です!

 うまくいけば儲けもん、ダメだったら大人しく引き下がるが、依頼は断るつもりだ。


 ロキの子孫アンチには初の顔見せ!

 あんまりよろしくないファーストコンタクトだが、まぁしょうがない。


 コンコンッ


「誰ですか?」

「第9剣士のドンと副官のデュートです」

「……どうぞ」


 ガチャっとな。


「失礼します」

「……初めまして、アンチです」


 アンチ……ロキはハーフエルフだったそうだが、こいつも近いんじゃないか?

 先祖がエルフとばかりくっついたのかしら?

 男で白髪のロング。

 地面に着くんじゃないかって位長い。

 歳は……400歳から600歳ってとこか。

 人間でいう30歳近くだな。

 白い基調のローブを着てる。

 ところどころに灰色も混ざってるな。

 ローブが地面すれすれだから靴は見えないな。


 顔は……今はニコニコしてるが裏では怖そうな顔しそうな感じだな。

 常時ニコニコにデュークとは違うタイプだろう。

 掘りが深い優男……お兄さん?

 まぁそんな感じだ。


「初めまして、ドンと申します」

「デュートですっ」

「本日は遅ればせながらの挨拶と共に、お話があり伺いました」

「……では、そのお話というのを聞きましょう」

「ありがとうございます。

 ……その話というのは、第9剣士部隊に依頼された仕事に関してなんですが、依頼内容の詳細をアンチさんから直接伺いたく思います」

「あぁ、ジェイドの事ですか……。

 あなた方のお仕事は「彼の神者ギルド脱退に伴い、彼を処罰せよ」でしたね」

「処罰内容は?」

「……そういう事を聞いてくる方は初めてかもしれませんね。

 無論、亡き者にして頂きたい……と言いたいのですが、あなたはどうやらそれを望んでいないみたいですね」

「話が早くて助かります」

「では捕らえ次第私に引き渡して頂く、というのはどうでしょう?」

「……結果が同じになりそうなのでお断りします」

「ではどうするというのです?」

「……脱退しなければ問題ないのでは?」

「面白い事を言う方ですね、先日ジェイドの脱退報告を聞いたのは私ですよ?」

「……やはり下の者は、脱退時の神者ギルドの「対応」を知らないみたいですね」

「その通りです。

 言う必要がありませんからね」


 いやあるだろう。


「それに言ってしまうと、いざ脱退する時に逃げられてしまいますから」

「では彼の意思で神者ギルドに戻ってもらえば問題がないはずです」

「……ほぉ、それが可能だと?」

「人の意思なのでお約束は出来ません」

「ははは、素直な方ですね。

 わかりました……ただし条件があります」

「お聞きします」

「脱退時の対応をジェイドに言ってはなりません。

 これは特定の人物と、副官以上の者しか知らない事ですから」


 わお、難度が上がったぜ。


「もし失敗した場合、この件は第2剣士部隊で処理します。

 そして仕事を放棄した事を、リュウリュウに報告させて頂きます」

「構いません」


 それはミナがもう伝えてるだろうしな。

 根幹的な部分の改善は難しいなぁ……。

 少しいきなり過ぎたが、これを成功させれば、「こういった方法もあるんだぜ?」を皆に示せるからな。

 うん、やる価値はあるだろう。


「いいでしょう……良い報告を期待します」

「はい、では失礼します」









 はい、第9剣士部隊の部隊長室まで戻りましたよ!


「で、どうするんだいっ?」

「……ちょっと考えます」

「あれっ、ドン君にしては珍しいねっ」

「考えてた策が……まぁ策って程でもないですけど、それが塞がれましたからね」

「……私には理解できません」

「殺しに慣れた人には中々わかってもらえないかもしれないですけどね」

「……知っていたのですか」

「俺への勧誘の時、護衛の方からも殺気が漏れてましたからね」

「殺気ですか……気をつけましょう」


 あれは人間なら出ちゃうもんだ。

 もし出さない人がいるなら、それは食事や歯磨きレベルで殺しが日常化してる奴だろう。

 殺気か………………おぉ、これだわ!


「うんっ、それでいこうっ」

「え……?」

「ミナさん、ジェイドさんの居場所を教えてください」

「え、もう行くのですか?」

「ミナさんも行きますか?」

「……も、もちろんです!」







 はい、エヴァンスの町の南東にあるジェイドの家でございます!

 ジェイドの家は小さいながら一軒家でございます。

 少し古めの鉄筋コンクリって感じの縦に細長い家。


 ノッカーをガチャンガチャンとな。


「……はい、どなたですか?」

「神者ギルドのドンでーす♪」

「デュートでーすっ♪」

「…………」

「あ、すぐ開けますっ」


 ガチャっとな。


「こんにちはー」

「こんにちはっ」

「こ、こんにちはです…………ミナさんまで?」


 お、ミナとは知り合いだったか。

 ジェイド……かっこ良い名前だなとか思ってたら、ドワーフの可愛い坊やが出てきたぜ。

 身長130センチ……チャムより小さくて、アクセルより童顔な感じだな。

 薄いピンクの髪で短髪天然パーマ。

 目は青くぱっちり開いててまるで女の子の様なお人形さんの様な……そんな子だ。

 年もかなり若いんじゃなかろうか?

 俺とタメかそれより下か……。

 服は勿論囚人服……だが、服のボーダー部分の色が虹色だわ。


「久しぶりねジェイド君」

「何度かギルド内で見かけましたが、こうやって話すのはギルドに誘って頂いた時以来ですね」

「えぇ、そうね」


 なるへそ、ミナが勧誘したのか。


「あっ、どうぞお入りください」

「「お邪魔しまーすっ」」


 ふむ、カーペットの上にテーブルが置いてある座敷タイプのリビングだな。

 小奇麗に片付いてるし……なんかカーペットもそうだがピンクで花柄が多い部屋だな。

 壁もピンク……だと?

 窓に近い場所にあるソファーもピンクだ……。


「初めまして、ドンといいます」

「デュートですっ」

「えーっと、本日はどの様なご用件です……か?」

「ジェイドさん、本日は神者ギルドに戻って頂きたく伺いました」

「……アンチ様の使いでしょうか?」

「いえ、先日発足した第9剣士部隊です」

「おぉ、新たな隊が出来てたんですね」

「出来たのはほんの1週間前だよっ」


 うーむ、純粋無垢って感じの子だな……。

 しかし、少しアンチにビビってる感じだったな。

 そっちの方から聞いてみるか?


「やはり難しいでしょうか?」

「神者ギルドに戻る事に関しては別に良いんです……でも」

「でも?」

「第2剣士部隊は……その」

「ドン君、ジェイド君はアンチさんが嫌なんだってっ」

「全部言わなくても良いでしょうに」

「あぁ……ぅう……」

「ミナさん、第2剣士部隊は主に何をしてるんです?」

「第2剣士部隊は実動部隊なので、治安を乱す者を成敗します」

「つまり殺しちゃうんですよね?」

「……そうなります」

「悪さの程度によらず皆殺しちゃうんですよね?」

「あぁいうのは……僕っ」


 あらあらまあまあ可愛い坊やだこと。

 うん、俺にそういう属性はないが素直に可愛い男の子だ。

 身長故か上目遣いもパーヘクツだ。


「では転属が出来れば、戻って頂けるという事で良いですかね?」

「そ、そんな事が出来るんですか!?」

「出来るんですか、ミナさん?」

「……前例はありませんね」

「じゃあ通例にする為に前例を作りにいきますか」


 ふむ、作戦が水の泡だぜ。

 いや、「殺気むんむんで神者ギルドに戻らないと死んじゃうんだよって察してもらう大作戦」というチンケな作戦なんですけどね?

 全ての事が予想通りにはいかないって事だな。


「しかし、どうやって認めさせるのですか?」

「アンチさんに、どうやったら認めてくれるのか聞くのが一番早いんじゃないですか?」

「怖い者知らずにも程があります……」


 最恐が身近にいるんだからそれは仕方ないだろう。


「すぐ戻るのでミナさんはここいてください」

「はぁ……」












 とりあえず装備を標準に戻して神者ギルドへ戻りました!


「――と、いう訳なんですけどいかがでしょうか?」

「……本当に面白い方ですね……ふむ、良いでしょう。

 神者ギルドを抜けない限りは損失に繋がる事はない。

 リュウリュウにも話を通しておきます」

「ありがとうございます」

「しかし配属先についてはどちらに?

 あまり大きな声では言えませんが、ジェイドを欲しがる部隊は中々ありませんよ?」


 まぁこれは定番だが仕方ないわな。


「ウチで預かっちゃダメですかね?

 出来たばかりでメンバーも少ないので……」

「それは構いませんが、第9剣士部隊の役割を考えると彼には厳しいと思います」

「なら、彼が出来る事をさせるまでです」

「……では、それを楽しみにしておきます」

「ありがとうございます」

「ところであなた……ドンさんでしたね」

「はい?」

「……いえ、なんでもありません」


 ん、今何か変なフラグ立ったな……?

 へし折れるかしら?


「失礼しました」

「しましたっ」


 バタンッ




「どうしたんだいっ?」


 ドンって名前を確認したんだよな?

 ってなると……。


「デュートさん、俺を拾ってくれた親父(・ ・)の名前って有名ですかね?」

「んー、有名ではないけど、僕達の知り合いが語り継いでる可能性はなくはないかなっ」

「って事は……この中だと……」

「資料室かなっ?」

「ですね、お願い出来ますか?」

「勿論っ♪」



 それ以外は…………。



 あぁ、とりあえずミナをコールしてみるか。


『もしもし……ミナさんですか?』

『はい、いかがでしたか?』

『転属は問題無しです。

 ウチで預かる事になったのでジェイドさんを連れて来てもらえますか?』

『かしこまりました』

『それと調べたい事があるんですけど……資料室の資料って部隊長室の媒体から見れますかね?』

『いいえ、そういった機能はありません』

『そうですか、それじゃあ資料室に行ってみます』


 なら大丈夫か。




 はい、マイルームです!


「お帰りっ」

「もう行って来たんですか?」

「間一髪だったねっ、僕のすぐ後にアンチさんが来たよっ」

「っぶねぇ……で、資料はどうしたんです?」

「ここにあるよっ」

「んー、無くなった事によるフラグが立ちそうだな……」

「ドン君のスン(親友)にお願いしてみようかっ」

「では、同じ時代に書かれた様な精巧な偽物があれば……と」

「うんっ、それじゃ最速で行ってきますっ」

「毎度すみません」

「あはははっ、僕は凄く楽しいよっ」

「そりゃなによりで……」


 ……ふむ、綱渡りも怖いもんだ。

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