第百五話「誕生」
チーン!
《件名:調子にのってんじゃねーぞ?》
《グリードに勝ったからって俺に勝ったわけじゃねーんだからな?
とりあえず今日はクリームパンとイチゴ牛乳、それにバタークッキー買ってこいや!》
砂糖買ってくのが1番早いんじゃないか?
とりあえず陰湿な仕返しを……。
《件名:了解しました!》
《九時頃着きます!
頼まれた物はちゃんと買っていきます!
バタークッキーおいしいっすよね!
冷凍庫で冷やして食べるのが好きです》
チーン!
《件名:ばーか》
《てめぇの好みなんて聞いてねーんだよ!
冷凍庫の発注位、俺の権力なら楽勝なんだよ!》
食いたいならそう言えよ。
《件名:バカで申し訳ありません!》
《自分は新発売のバナナオレを買っていきます!》
チーン!
《件名:それおれにもかってこい》
《》
どんだけ急いだんだよ……。
しかし段々扱いがわかってきたな。
ふふふふ、これがスキル外スキルというやつだ。
はい、神エヴァンス城です!
「おい、お前」
1階でなんか純ドワーフ女に話しかけられたぞ!
パイは……俺の神眼がDだと訴えている。
身長約135センチってとこか。
久しぶりに囚人服をみたかもしれん。
がしかし、かなりダボダボだ。
よれよれの囚人服からちらっと見える谷間がやばいっす。
顔はなんかふわふわした感じだが、この口調ですぐに崩壊してしまったな。
口は「へ」の字で結んでて、天然パーマなのか髪の毛はクリクリのぼさぼさ。
そしてデコ……額より少し上にルーペ付きのゴーグルが…………あれ、この子が宮廷鍛冶か?
年齢は……わからんな。
若いんだろうが、身長が低いせいかドワーフはわかりにくい。
「はい、なんでしょう?」
「お前がドンで合ってるか?」
「そうですね」
「よし付いてこい」
押しが強い女ですこと。
しかし腕章はしてるから神者ギルド内の人間って事には変わりないか。
注意しなくてはな。
はい、地下1階の鍛冶施設でございます!
ほほぉ、なかなかの設備だな?
地下2階が外部に鍛冶師に貸すスペースなのか。
ここは……魔界エルフの里レベルの設備があるんじゃないか?
巨大顕微鏡いいなー、元の時代に戻ったら買いたいもんだ。
そういや話してなかったが、人界のエルフの里はもうないぞ。
魔界には小規模だが残ってるそうだ。
しかし、場所が移動したらしく、発見が困難なんだそうだ。
さて、このドワーフ女は何の用なんだろう?
あらやだ、武器なんて持っちゃってからに。
「これを見ろ」
「見ました」
「中身を見ろって言ってるんだ」
「ルーペ貸してもらえます?」
「……お前本当に鍛冶師か?」
「不慣れですけど、やらせてもらってますね」
「大事な仕事道具を何故持ち歩かないんだ」
「大事だからこそ持ち歩かないんですよ」
「……それも一理あるか。
ほれ、この顕微鏡を使え」
剣はバスタードソードタイプか。
どれどれ……。
「どうだ、見たことがない魔石じゃないか?」
「……どれがっすか?」
「お前、気の達人は使えるんだろ!?
見たことない魔石が入ってるのがわからんのか!?」
「えーっと……特硬化、特抵抗、神力が2つ、神技が2つ、神速が2つに飛行魔石ですね」
「な、何で飛行魔石の事を知ってるんだ!」
あ、やべ。
「む、昔聞いた事があるだけですよ」
「今のは見た事がある様な言い方だったぞ?」
「そうでしたか?」
「ったく、せっかく鍛冶師仲間が出来たから良い物を見せてやろうと思ったのに……」
「あー、そういう事だったんですか……。
わざわざありがとうございます」
「ふん、「どういたしまして」も言えないじゃないか」
「はははは、申し訳ありません。
ところで……あなたは?」
「私を知らないのか!?」
「宮廷鍛冶師だって事はわかります」
「ふん、じゃあ名前くらいすぐに出てくるだろう?」
「出てこないので聞いてます」
「エヴァンスで知らない者はいないと言われてる、神エヴァンス城の宮廷鍛冶師といえば?」
「お名前は?」
「……本当に知らないのか!?」
「帰っていいすかね?」
「まったく……何でこんなのが神者ギルドに入ったんだ?」
「しつれいしましたー」
「わー、待て待て!」
「何ですか?」
「私の名前はチャムだ!」
「ドンです、宜しくお願いします」
「うむ!」
「しつれいしましたー」
「わー、待て待て!」
「俺、ソージさん待たせてるんですよ」
「あんなガキの事なんか待たせておけば良いんだ」
「……他に用が?」
「お、お前の仕事姿が見たいんだ」
「俺、ウェポンエンチャントと簡単な加工しか出来ないっすよ?」
「構わない!」
ったく、何が目的なんだ?
「んじゃいいすよ」
「おぉ、ではこの剣にこの特硬化と特抵抗、神力の魔石の3つをウェポンエンチャントして欲しい」
「それなら、そのルーペとハンマーを貸してください」
「これをか!?」
「えぇ、その頭に付いてるやつです。
他にあるのならそれでもいいですけど?」
「そ、その顕微鏡じゃダメなのか?」
「顕微鏡を使いながら打った事ないんですよ」
「……お前本当に鍛冶師か?」
「帰って良いなら帰りますけど?」
「わ、わかったよ!
…………ほれ!」
「ほんじゃいきまーす」
「うむ」
カーンカーンカーン……。
「…………」
「しつれいしましたー」
「わー、待て待て!」
「見せたでしょう?」
「な、なんでそんなに早く出来るんだ!?」
「戦闘で鍛えた精密さ……それに集中力ですかね?
……じゃ、しつれいしましたー」
「た、頼みがあるんだ!」
「…………」
「私に気脳全開を教えてくれないか!?」
くそっ、強制イベントだったか……。
しかも気脳全開の事は知ってたのか。
「気脳全開は危険な剣技です。
俺に教える事は出来ません」
「し、死んでも構わん!」
「命を粗末にする人には教えられません」
「も、もう死んでも構わなくない!」
デューク並の切り替えの早さだな……。
んー、どうしたもんか。
実際理屈で説明が可能だから教える事は出来るんだけど、気の達人の錬度に関してはそいつしかわからない。
それが修得錬度に達してないと頭がボンッ……ビチャってなっちまうからなぁ。
「な、ならば交換条件だ!」
「交換条件?」
「武器の加工技術と、作成技術をドンに叩きこんでやる!」
「やりましょう」
「お前、切り替えが早過ぎるぞ……」
「ソーデスカネー?」
「互いに弟子であり、互いに師匠というわけだ。
宜しく頼むぞ!」
「――って事があったから遅れました」
「チャムさんが何でてめーなんかに声かけんだよ、ボケが!
とりあえずてめーは――」
「ソージ、ちょっと来てくれ」
「はーい、すぐ行きまーす!」
やはり器用だな?
武器もそれに合わせてるのか。
意外に考えてるんだな。
しかし今何て言おうとしたんだろう?
…………まぁいい、パトロールでもしてくるか。
はい、行ってきました!
え、イベント?
お年寄りの荷物を持ち、この前ソージから助けた女からお礼を言われ、町で暴れてる変なおっちゃんに注意して、苦情の多かった魔物を優先的に討伐してきたぞ。
うーむ……天職かもしれん。
助けた女の子とのフラグ?
ないない。
あの人は人妻らしいぞ。
いや、それを「イイ」ととる人はいるかもしれんがな?
はははは、健全にいこうぜ相棒?
チーン!
……ったく、また奴か?
《件名:ぶっ殺す》
《殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す》
やだ怖い。
一体全体どうしたんじゃろ?
レッドならなんか知ってるかしら?。
《件名:Fw:ソージさんから》
《下記みたいな内容きたんですけど?
殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す
なんか知ってます?》
なんか告げ口みたいで嫌だが、ソージの奴が人格に問題あるって事は知ってるから大丈夫だろう。
チーン!
《件名:ここまでだったか》
《すまない、ドンも第9剣士の候補だということを伝えたのだ。
しかし、ここまで酷かったのか……》
そこまでだったんですよ。
なるほど……って事はこれから悪質な攻撃が始まるわけだな。
……少し早いがボスを呼んでおくか。
《件名:ドンでーす》
《助けてクレスさーん☆》
これでよし。
チーン!
《件名:クレスでーす》
《了解しましたっ!》
次はレッドに…………。
《件名:お話があります》
《今からお時間頂けますか?》
んで一応ソージに仮コードを使って……。
《件名:送信エラー》
《お客様が送信されたメッセージは、不適切な内容が含まれていた為、削除されました。
以降の送信に改善が見られなかった場合、ヒューマンカードの没収、使用禁止の措置がとられる可能性があります。
以後、お気をつけ下さいませ》
うん、これで多分大丈夫だろう。
チーン!
《件名:わかった》
《第6剣士室まで来てくれ》
おーし、順調順調!
チーン!
ったく誰だよ……。
《件名:ドンさんへ》
《殺害致します殺害致します殺害致します殺害致します殺害致します殺害致します殺害致します殺害致します殺害致します》
…………。
きっと必死で考えたんだろうな。
はい、そんなのは放置してレッドの部屋までやって参りました!!
「――って訳で、新人が生意気だとは思うんですが、部下を付けたいと思ってます」
「それは構わないが当てはあるのか?
こう言ってはなんだが、神者ギルドは人手不足でもあるし……新人の部下に付く様な奇特な奴はいないと思うが?」
「新人の勧誘なら問題ないでしょう?」
「ふむ、本来第6剣士部隊は新人勧誘を行わないのだが……。
いいだろう、リュウリュウには私から話を通しておく」
「ありがとうございます」
「ところで……お前程の者が部下に欲しいというのは何という者なのだ?」
えーっと、クレスでは勧誘を返り討ちにしてるから、返り討ちにしてない名前は……。
「デュートという名前ですね」
「あぁ、最近北の国で有名な剣士だな。
急に見かけなくなったと聞いていたが、ドンの知り合いだったのか」
「頼りになりますよ」
「ふふふ、楽しみにしておこう」
まぁ勧誘してきた人は皆死んじゃったから、デュークの顔は割れてないだろう。
顔が割れてたとしても、追及してきた奴が物理的に割れるだけだ。
うん、問題あるが問題ないな。
はい、我が家に狂神がいらっしゃいました!
我が家まで案内する間に一通り説明しました!
「部屋が見つかるまでは狭いですが勝手に使ってください」
「了解しましたっ。
ところで、息子から聞いたけど武器の魔石の……アレが出来るんだってっ?」
「あー、そういや……デュートさんには言って無かったっすね」
「僕の武器で見せてくれるかいっ?」
まぁ普通の部屋ですから用心するのに越した事はないでしょ?
しかしデュークは相変わらず曲刀か。
「あれ……これかなり良い武器っすね」
「あはははっ、ブジン系最強の魔物「コウテイ」から頂いたのさっ」
「って事は……これが「皇帝の剣」っすか」
「そっ、魔石限度数8の良い剣だよっ」
「けど皇帝の剣って曲刀だったんすね」
「ブジンもショーグンもダイショーグンも稀に違う武器を持っているんだよっ」
「へー、そうなんすね」
「そうなんですっ」
「さて、どれどれ………………特硬化、特抵抗……神技、神速に……神力4つ!?」
「うんっ、動きは身体が覚えてたから力を優先させたんだっ」
…………正に天才だな。
俺この人に勝てる気がしねぇわ。
あれー、これって……。
「デュートさん、これ限度数9になってますね」
「あははっ、やっぱりかっ。
そろそろだとは思ってたんだよねっ」
「で、どうします?」
「まずはアレを見せてよっ」
「ういっす、どれいきます?」
「神技と神速でお願いしますっ」
カーンッ…………コロッ
カーンッ…………コロッ
「アハハハハハハハハハハハッ!」
「ちょ、近所迷惑っすよ」
「アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッ!!!」
………………。
「げほっ、げほっ……いやぁドン君はホント退屈しないねっ!」
「ったく、で、また入れなおせば良いんですか?」
「はい、これとこれとこれをお願いしますっ」
「回復に……神力2つっすか!?」
「うん、それが無い状態でも昔より動くと思うからねっ」
「…………」
カーンカーンカーン……。
「……どうぞ」
「あはははっ、良い感じだねっ」
俺は……。
「ドン君はホント凄いなぁ。
あはははははははっ」
俺はとんでもない事をしてしまったのかもしれない……。