第八話「不安」
ダニエルは本当に気の良いやつだった。
町の人からの信頼も厚いみたいだ。
少しスンに驚き、マカオを見てかなりビビってたけど、どいつもこいつもダニエルに挨拶してた。
人望すげーな。
で、なんか変な子がいた。
「はははは、トッテムさんは相変わらずだなぁ」
「ええ、父もダニエル様にお会いしたいと思いますわ」
「うむ、今度エヴァンスまでご挨拶に伺うとしよう」
「はい、父も喜ぶと思います。
美味しい料理を用意してお待ちしますね♪」
誰あの子?
俺の知ってる子じゃない。
キャスカは鼻水垂らしてなんぼだろ。
神速とか言ってみろ?
お?
「あん、背中に大きいのが当たってる〜♪」
「おぉ、すまない、私のは馬並ですぞ!」
「まぁ、素敵♪」
天下の往来で何しゃべってんだこいつらは?
しかし馬並は凄いな。
マカオあげるよ。
キャスカの顔が真っ赤だ。
おい、馬並の下半身をガン見するんじゃねぇ。
まぁいい、キャスカもあげよう。
さて、店主の家に着いた。
もう夕方か……西日が眩しいぜ。
ダニエルが扉を開ける。
「モッヒー、いるかね?」
略せてないあだ名だな。
「おぉ、ダニーじゃねぇか!」
これは普通だな。
あ、店主と目が合った。
「おぉ、坊主じゃねぇか!
なんだ、スライムっ?」
「彼は魔物使いなのだよ」
「へぇ、そりゃすげーな!
で、何の用だ? って……まさか、アレか!?」
そう、アレだ。
カウンターに20センチ程のチャッピーの爪を置いてやった。
「ハッハー、坊主、お前ホントにとんでもないな!
「俺はレウスといいます」
「ハッハッハ、よろしくな、坊主!!」
ほんとにいるんだ、こんな人。
「どれぐらいで出来ますか?」
「んー、9ヶ月ってとこだろうな」
確かに数ヶ月って言ったしな。
数ヶ月は2から9だもんな。
最大数だって文句言わないよ。
最初から9ヶ月って言えよとか思わないよ。
「わかりました、よろしくお願いします」
「出来たらどう連絡する?」
あ、どうしよう。
連絡する人がユグドラシルに来たら、「おったまげたぞ」とか言いそうだしな。
「じゃあ、はなみ……キャスカの家に連絡をお願いします」
「キャスカ?」
「この子です。
エヴァンスの町長の家ですね。
彼女はその娘なんです」
「ほぉ、了解だ」
「よろしく頼むよモッヒー!」
「任せろダニー!」
さて、用事も終わった事だし、帰るか。
「では、屋敷まで案内しよう」
ん?
そんな話、したっけ?
「さすがにキャスカちゃんをそのまま帰す訳にはいかないからね」
キャスカのせいか。
鍛冶屋を出て再度マカオに跨るダニエル。
「あん、おーきい~♪」
死ね。
さて、ダニエルの屋敷とやらに着いた。
デカい……これは馬並どころじゃないな。
チャッピー並だ。
こんな屋敷に招待されて起きるイベントはただ一つだ。
デカい部屋に、デカいテーブルに、無駄な装飾の椅子。
まぁ……基本だよな。
「口に合うかどうかはわからないが、さぁ、遠慮なく食べてくれたまえ」
「いただきます」
「いただきまーすっ♪」
おい、キャスカさんから神速に戻ってるぞ。
「マカオ殿には飼葉で良かったのかね?」
「あぁ、あいつは悪食なんでなんでも食べます」
そうあいつはユグ葉でも、そこら辺の雑草でも、そこら辺の石でもなんでも食う。
威厳は皆無だ。
スンは端で水をレロレロしてる。
「きゅきゅきゅきゅー!」
うまいらしい。
そして可愛い。
「ハッハッハッハ、今日は楽しい日だ」
うん、こんな日も悪くない。
一つの不安が頭から離れないけどな。
食事はゲロうまだった。
肉うま!
前世で行った高級焼き肉店なんか目じゃなかった。
この肉の事を聞いたら、判定レベル64の「松坂頭」という可愛いけどめっちゃ強い牛の魔物だそうだ。
見つけたら絶対ちょんぱしてやる。
まぁ、その日の夜は泊めてもらう事になった。
一つの不安が頭から離れないけどな。
俺とスンが同じ部屋、キャスカは隣の部屋で寝る事になった。
ベッドマジ気持ちいい。
今度町で絶対買おう。
俺はこの10年間、なんで固い土の上で寝てたんだ?
まるで野性児じゃないか!
あぁ、野性児だったわ。
これからは文明を取り入れよう。
むしろ町に住みたいな。
一つの不安が頭から離れないけどな。
で、朝になりました。
「きゅぅぅ……きゅぅぅ……」
スンの寝顔マジ天使。
とりあえずイベントを起こしに行こう。
隣の部屋で眠るキャスカを起こしに行くと、キャスカは既に起きてて着替え中。
これだ。
これがもし本当に起これば、……おもしろいだろ?
行ってくるでアリマス!
「キャスカ、おはよー」
「……」
「……」
「……」
「やっぱ乳でかいな」
あ、泣いた。
てかホントに起きた。
イベント盛りだくさんだな、世界。
サブイベントも期待しよう。
朝からキャスカが口をきいてくれない。
まぁ、そうだろう。
けど俺は気にしない。
問題ない。
問題なのは、昨夜から頭を離れない「不安」の方だ。
帰り際にダニエルが俺にこんな事を聞いてきた。
「そういえばレウス君はトッテム殿の家に住んでいるのかい?」
「いえ、家無しです」
「ん、どういう事かな?」
「聖なる木、ユグドラシルの根元で暮らしてます。
魔物は町には入れないですからね」
「この町であれば歓迎するからね」
「いえ、ありがたい話ですが、おそらく無理でしょう……」
「ん、それは一体?」
「もう一匹いるんですよ……巨大なのが」
「なるほど、では、時間があったらそちらまでご挨拶に伺おう」
「はい、お待ちしてます。
それでは……」
「うむ、気をつけて……。
キャスカちゃん、またね」
「はい、お世話になりました」
キャスカさん登場。
はい、ただいま。
おう……不安的中だぜ。
ユグドラシルの枝の上で、デカい背中が超猫背になってる。
項垂れるっていう単語をそのまま体現してるようだ。
なんか聞こえる。
「我は捨てられた空の支配者チャッピー。
レウスもスンもキャスカもマカオもいない……我一人。
レウスは帰ってくる……帰ってこない……帰ってくる……帰ってこない……帰ってくる……帰ってこない……帰ってくる……帰ってこない……」
聖なる木、ユグドラシルの葉が犬によって毟られていく。
とんでもない量だ。
後で掃除させよう。
全部毟るまで何年かかると思ってるんだこいつは?
「ねぇレウス、チャッピーどうするのよ~?」
「とりあえずほっとく」
「あらそう?」
どうやらオバルスは帰ったようだ。
相乗効果だな。
まぁ、いいや。
「マカオ、ちょっと相手してよ」
「は~い♪」
「スンはキャスカの相手してあげなー」
「きゅ!」
もうチャッピーは俺の存在に気付いてるみたい。
悪いな、今修行中だ。
「レウスは構ってくれる……構ってくれない……構ってくれる……構ってくれない……構ってくれる……構ってくれない……構ってくれる……構ってくれない……」
上から大量の葉が降って来る。
後で掃除させよう。
「はぁ……やっ!」
「こっちよ~♪」
「くっ……だぁっ!!」
「うふふ、アタシを捕まえてごらんなさ~い♪」
今夜は馬刺しだ。
決定事項だ。
ユグドラシルの葉の山が出来ている。
そうだな……一般人100人分くらいの葉の山だな。
後で掃除させよう。
「神速ぅ、神速ぅうう!!」
「きゅきゅ!」
なんだその掛け声は?
神速がスライムにスピード負けしてるぞ。
マカオは俺の攻撃が当たらないギリギリの速度を出してくれる。
うざいけどな。
口うるさいのは悪い事ばかりじゃない。
「ほらほら、その軸足すぐに体重移動させて♪
そう、そしたら右手の剣を左手に持ちかえる♪
そこは斬るより突く♪」
指摘満載だ。
「突かれるのがたまらないのよね♪」
うざいけどな。
ユグドラシルの葉の山がどんどん積ってる。
そうだな……一般人300人分くらいの葉の山だな。
後で掃除させよう。
「は~い、今日はここまでにしましょう♪」
「あざーっす」
スンとキャスカも一段落したようだ。
「ふん、今日はここまでにしといてやるっ」
「きゅきゅーきゅ」
どうみても先生はスンだろう?
スンは優しいなぁ。
「さて、飯にするかー」
「は~い♪」
「きゅー!」
「わ~い♪
ねぇねぇレウス、今日は何!?」
お前さっきまで口きかなかっただろ。
脳内食べ物ばっかじゃねーか。
さて、何食おう……。
判定レベル64の「松坂頭」でも歩いてないかな?
あぁ、でも今日は馬刺しって決めたんだった。
ユグ葉ユグ葉……。
そう、ユグ葉は便利だ。
メモ用紙代わりになる。
町で買った筆で、馬肉の量を書く。
「スン、お使いだ!」
「きゅ!」
「マカオに乗って、エヴァンスでこのお肉買っておいで」
「きゅいー!」
スンは俺の鞄の中の革袋からユグ金貨(1万レンジ)を取り出し、体内に取り込む。
ホント頭の良い子だ。
あぁ、そういえばこの半年の間で、マカオはエヴァンスに入れる様になったんだ。
今では一般人と世間話をする程、あの町に馴染んでる。
この二人……もう「人」でいいよな?
この二人にはちょくちょくお使いを頼む。
文句を言わず買いに行ってくれる。
使ってるつもりはないからね?
けど、これを見たら魔物使いと言われても仕方がない様な気がする。
「行ってきま~す♪」
「きゅきゅー!」
ちなみにマカオは、お使いの時マックスの速度を出す。
エヴァンスまで1分で、帰りも1分だ。
お使いだけなら5分で戻ってくる。
最初スンはそのスピードで気絶しまくりだったが、最近慣れてきたそうだ。
スンは最高速度に耐えられるが、俺には50%くらいが限界だ。
一度最高速度を体感した時、身体に切り傷出来まくりんぐだった。
身体が持たないとはこの事を言うんだろう。
「ごっはん、ごっはん♪」
キャスカは飯時はいつもあんな感じだ。
町長は遅くなったり泊まったりするキャスカを怒る事はない。
寛容すぎるだろ。
こいつ危ない奴等にすぐ連れていかれるぞ?
さて、飯の準備をしなくちゃな。
今はそうだな……一般人1000人分くらいの葉の山だな。
そろそろいいかな。
「チャッピー、そろそろご飯だよー!」
「レ……レウスが……」
「キャスカ耳塞げ」
「ん……こう?」
俺も俺も。
「レウスが構ってくれたぞぉおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!!!!!」
火炎が遥か彼方まで飛んでいった。
耳を塞いでいたキャスカが気絶した。
俺はさすがに大丈夫だったけどな。
ユグドラシルの根元にある水場に魚が沢山浮かんでる。
おぉ、これは新しい狩り方だな。
今度実験しよう。
チャッピーを拗ねさせて復活させるなんて簡単だからな。
酷い奴だろう?
大丈夫だ、あいつの性格も酷いから、どっこいどっこいだ。
マカオとスンが、かなり焦げて帰ってきた。
どうやらクリーンヒットだったらしい。
スンはギリギリで硬化を発動させて防いだらしい。
おい、気を付けろまじで。
俺のせい?
いや、チャッピーのせいだ。
そういう事にしとけ。
「もう、髪が台無しよぅっ」
「きゅきゅきゅ!!」
二人とも犯人はわかっていたみたい。
とりあえずチャッピーは土下座してた。
その日チャッピーは一般人1000人分の葉を食いまくってた。
ちょっと辛そうだったが、自業自得だ。
キャスカを起こして、火炎でまる焦げの馬肉を食った。
すげぇ苦い。
無理だと悟り、仕方なく川に浮かんでる魚を数匹捕って食った。
まる焦げの馬肉は、マカオが超うまそうに食ってた……。
あいつの味覚センスはおかしい……。
キャスカが帰るという事なので、帰りは送ってってやった。
今朝は悪い事をしたからな。
紳士だろ?
キャスカの顔が固まってる。
なんなのこいつ。
「おおおおおおお送ってくれて……その、ありがと……う」
おが多い。
「まー、またいつでも来いやー」
「う、うん……」
顔が真っ赤だ。
変な雰囲気だ。
え、これそういう雰囲気?
おいおい俺まだ10歳だぞ?
キャスカはアレか?
しょうたろうな感じか?
残念、俺レウス。
んー……まぁ、そうだっていう証拠もないからな。
そういう可能性もある。
それだけ頭に入れておこう。
「おやすみー」
「おおおおおおおおおやすみっ」
だからおが多いよ。
で、帰ってきた。
なんかキモイのがいる。
「あぁん、イイッ!
イイわぁっ!
あっ……あん♪
産まれる……産まれるのぉおおおおっ!!!!
そこぉ……そこぉおおおおおおっ!!!」
「おい、何やってんだ糞」
「あぁ、レウスじゃない♪」
スンもドン引きだ。
チャッピーはおなかいっぱいみたいで寝てるぞ。
「何をしてるか聞いてるんだ」
「ほら、もうすぐ産まれそうなのコレ♪」
黄金魔石が金色に光ってる。
まぶい。
なんか黄金魔石がぶれて見える。
いや、ぶれてる。
次第に2つに分身しはじめた。
残像拳だ。
で、止まった。
完全に2つになった。
黄金魔石はネックレスのままで、もう1つは地面に落ちた。
黄緑色の魔石だ。
……見た事ない魔石だな?
今度、一般人に聞いてみよう。
「じゃあ、これはレウスが持ってて♪」
「ういー」
さて、深夜……というわけでもないが、今日はもう寝よう。
「寝る、おやすみ」
「オヤスミ♪」
「きゅきゅー……」
スンマジ天使。