表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/164

第八話「不安」

 ダニエルは本当に気の良いやつだった。

 町の人からの信頼も厚いみたいだ。

 少しスンに驚き、マカオを見てかなりビビってたけど、どいつもこいつもダニエルに挨拶してた。

 人望すげーな。


 で、なんか変な子がいた。


「はははは、トッテムさんは相変わらずだなぁ」

「ええ、父もダニエル様にお会いしたいと思いますわ」

「うむ、今度エヴァンスまでご挨拶に伺うとしよう」

「はい、父も喜ぶと思います。

 美味しい料理を用意してお待ちしますね♪」


 誰あの子?

 俺の知ってる子じゃない。

 キャスカは鼻水垂らしてなんぼだろ。

 神速とか言ってみろ?

 お?


「あん、背中に大きいのが当たってる〜♪」

「おぉ、すまない、私のは馬並ですぞ!」

「まぁ、素敵♪」


 天下の往来で何しゃべってんだこいつらは?

 しかし馬並は凄いな。

 マカオ(そいつ)あげるよ。

 キャスカの顔が真っ赤だ。

 おい、馬並(ダニエル)の下半身をガン見するんじゃねぇ。

 まぁいい、キャスカ(そいつ)もあげよう。


 さて、店主(モヒカン)の家に着いた。

 もう夕方か……西日が眩しいぜ。


 ダニエルが扉を開ける。


「モッヒー、いるかね?」


 略せてないあだ名だな。


「おぉ、ダニーじゃねぇか!」


 これは普通だな。

 あ、店主(モッヒー)と目が合った。


「おぉ、坊主じゃねぇか!

 なんだ、スライムっ?」

「彼は魔物使いなのだよ」

「へぇ、そりゃすげーな!

 で、何の用だ? って……まさか、アレか!?」


 そう、アレだ。

 カウンターに20センチ程のチャッピーの爪を置いてやった。


「ハッハー、坊主、お前ホントにとんでもないな!

「俺はレウスといいます」

「ハッハッハ、よろしくな、坊主!!」


 ほんとにいるんだ、こんな人。


「どれぐらいで出来ますか?」

「んー、9ヶ月ってとこだろうな」


 確かに数ヶ月って言ったしな。

 数ヶ月は2から9だもんな。

 最大数だって文句言わないよ。

 最初から9ヶ月って言えよとか思わないよ。


「わかりました、よろしくお願いします」

「出来たらどう連絡する?」


 あ、どうしよう。

 連絡する人がユグドラシルに来たら、「おったまげたぞ」とか言いそうだしな。


「じゃあ、はなみ……キャスカの家に連絡をお願いします」

「キャスカ?」

「この子です。

 エヴァンスの町長の家ですね。

 彼女はその娘なんです」

「ほぉ、了解だ」

「よろしく頼むよモッヒー!」

「任せろダニー!」


 さて、用事も終わった事だし、帰るか。


「では、屋敷まで案内しよう」


 ん?

 そんな話、したっけ?


「さすがにキャスカちゃんをそのまま帰す訳にはいかないからね」


 キャスカ(こいつ)のせいか。


 鍛冶屋を出て再度マカオに跨るダニエル。


「あん、おーきい~♪」


 死ね。


 さて、ダニエルの屋敷とやらに着いた。

 デカい……これは馬並どころじゃないな。

 チャッピー並だ。


 こんな屋敷に招待されて起きるイベントはただ一つだ。

 デカい部屋に、デカいテーブルに、無駄な装飾の椅子。

 まぁ……基本だよな。


「口に合うかどうかはわからないが、さぁ、遠慮なく食べてくれたまえ」

「いただきます」

「いただきまーすっ♪」


 おい、キャスカさんから神速(はなみず)に戻ってるぞ。


「マカオ殿には飼葉で良かったのかね?」

「あぁ、あいつは悪食なんでなんでも食べます」


 そうあいつはユグ葉でも、そこら辺の雑草でも、そこら辺の石でもなんでも食う。

 威厳は皆無だ。

 スンは端で水をレロレロしてる。


「きゅきゅきゅきゅー!」


 うまいらしい。

 そして可愛い。


「ハッハッハッハ、今日は楽しい日だ」


 うん、こんな日も悪くない。

 一つの不安が頭から離れないけどな。

 食事はゲロうまだった。

 肉うま!

 前世で行った高級焼き肉店なんか目じゃなかった。

 この肉の事を聞いたら、判定レベル64の「松坂頭(まつざかこうべ)」という可愛いけどめっちゃ強い牛の魔物だそうだ。

 見つけたら絶対ちょんぱしてやる。

 まぁ、その日の夜は泊めてもらう事になった。

 一つの不安が頭から離れないけどな。

 俺とスンが同じ部屋、キャスカは隣の部屋で寝る事になった。

 ベッドマジ気持ちいい。

 今度町で絶対買おう。

 俺はこの10年間、なんで固い土の上で寝てたんだ?

 まるで野性児じゃないか!


 あぁ、野性児だったわ。

 これからは文明を取り入れよう。

 むしろ町に住みたいな。

 一つの不安が頭から離れないけどな。


 で、朝になりました。


「きゅぅぅ……きゅぅぅ……」


 スンの寝顔マジ天使。

 とりあえずイベントを起こしに行こう。

 隣の部屋で眠るキャスカを起こしに行くと、キャスカは既に起きてて着替え中。

 これだ。

 これがもし本当に起これば、……おもしろいだろ?

 行ってくるでアリマス!


「キャスカ、おはよー」

「……」

「……」

「……」


「やっぱ乳でかいな」


 あ、泣いた。

 てかホントに起きた。

 イベント盛りだくさんだな、世界。

 サブイベントも期待しよう。



 朝からキャスカが口をきいてくれない。

 まぁ、そうだろう。

 けど俺は気にしない。

 問題ない。

 問題なのは、昨夜から頭を離れない「不安」の方だ。


 帰り際にダニエルが俺にこんな事を聞いてきた。


「そういえばレウス君はトッテム殿の家に住んでいるのかい?」

「いえ、家無しです」

「ん、どういう事かな?」

「聖なる木、ユグドラシルの根元で暮らしてます。

 魔物は町には入れないですからね」

「この町であれば歓迎するからね」

「いえ、ありがたい話ですが、おそらく無理でしょう……」

「ん、それは一体?」

「もう一匹いるんですよ……巨大なのが」

「なるほど、では、時間があったらそちらまでご挨拶に伺おう」

「はい、お待ちしてます。

 それでは……」

「うむ、気をつけて……。

 キャスカちゃん、またね」

「はい、お世話になりました」


 キャスカさん登場。



 はい、ただいま。

 おう……不安的中だぜ。

 ユグドラシルの枝の上で、デカい背中が超猫背になってる。

 項垂(うなだ)れるっていう単語をそのまま体現してるようだ。

 なんか聞こえる。


「我は捨てられた空の支配者チャッピー。

 レウスもスンもキャスカもマカオもいない……我一人。

 レウスは帰ってくる……帰ってこない……帰ってくる……帰ってこない……帰ってくる……帰ってこない……帰ってくる……帰ってこない……」


 聖なる木、ユグドラシルの葉が(チャッピー)によって(むし)られていく。

 とんでもない量だ。

 後で掃除させよう。

 全部毟るまで何年かかると思ってるんだこいつは?


「ねぇレウス、チャッピーどうするのよ~?」

「とりあえずほっとく」

「あらそう?」


 どうやらオバルス(オバサン)は帰ったようだ。

 相乗効果だな。

 まぁ、いいや。


「マカオ、ちょっと相手してよ」

「は~い♪」

「スンはキャスカの相手してあげなー」

「きゅ!」


 もうチャッピーは俺の存在に気付いてるみたい。

 悪いな、今修行中だ。


「レウスは構ってくれる……構ってくれない……構ってくれる……構ってくれない……構ってくれる……構ってくれない……構ってくれる……構ってくれない……」


 上から大量の葉が降って来る。

 後で掃除させよう。


「はぁ……やっ!」

「こっちよ~♪」

「くっ……だぁっ!!」

「うふふ、アタシを捕まえてごらんなさ~い♪」


 今夜は馬刺しだ。

 決定事項だ。

 ユグドラシルの葉の山が出来ている。

 そうだな……一般人(ハチヘイル)100人分くらいの葉の山だな。

 後で掃除させよう。


「神速ぅ、神速ぅうう!!」

「きゅきゅ!」


 なんだその掛け声は?

 神速がスライムにスピード負けしてるぞ。


 マカオは俺の攻撃が当たらないギリギリの速度を出してくれる。

 うざいけどな。

 口うるさいのは悪い事ばかりじゃない。


「ほらほら、その軸足すぐに体重移動させて♪

 そう、そしたら右手の剣を左手に持ちかえる♪

 そこは斬るより突く♪」


 指摘満載だ。


「突かれるのがたまらないのよね♪」


 うざいけどな。


 ユグドラシルの葉の山がどんどん積ってる。

 そうだな……一般人(ハチヘイル)300人分くらいの葉の山だな。

 後で掃除させよう。


「は~い、今日はここまでにしましょう♪」

「あざーっす」


 スンとキャスカも一段落したようだ。


「ふん、今日はここまでにしといてやるっ」

「きゅきゅーきゅ」


 どうみても先生はスンだろう?

 スンは優しいなぁ。


「さて、飯にするかー」

「は~い♪」

「きゅー!」

「わ~い♪

 ねぇねぇレウス、今日は何!?」


 お前さっきまで口きかなかっただろ。

 脳内食べ物ばっかじゃねーか。

 さて、何食おう……。

 判定レベル64の「松坂頭(まつざかこうべ)」でも歩いてないかな?

 あぁ、でも今日は馬刺しって決めたんだった。

 ユグ葉ユグ葉……。

 そう、ユグ葉は便利だ。

 メモ用紙代わりになる。

 町で買った筆で、馬肉の量を書く。


「スン、お使いだ!」

「きゅ!」

「マカオに乗って、エヴァンスでこのお肉買っておいで」

「きゅいー!」


 スンは俺の鞄の中の革袋からユグ金貨(1万レンジ)を取り出し、体内に取り込む。

 ホント頭の良い子だ。

 あぁ、そういえばこの半年の間で、マカオはエヴァンスに入れる様になったんだ。

 今では一般人(ハチヘイル)と世間話をする程、あの町に馴染んでる。

 この二人……もう「人」でいいよな?

 この二人にはちょくちょくお使いを頼む。

 文句を言わず買いに行ってくれる。

 使ってるつもりはないからね?

 けど、これを見たら魔物使いと言われても仕方がない様な気がする。


「行ってきま~す♪」

「きゅきゅー!」


 ちなみにマカオは、お使いの時マックスの速度を出す。

 エヴァンスまで1分で、帰りも1分だ。

 お使いだけなら5分で戻ってくる。

 最初スンはそのスピードで気絶しまくりだったが、最近慣れてきたそうだ。

 スンは最高速度に耐えられるが、俺には50%くらいが限界だ。

 一度最高速度を体感した時、身体に切り傷出来まくりんぐだった。

 身体が持たないとはこの事を言うんだろう。


「ごっはん、ごっはん♪」


 キャスカは飯時はいつもあんな感じだ。

 町長(トッテム)は遅くなったり泊まったりするキャスカを怒る事はない。

 寛容すぎるだろ。

 こいつ危ない奴等にすぐ連れていかれるぞ?


 さて、飯の準備をしなくちゃな。


 今はそうだな……一般人(ハチヘイル)1000人分くらいの葉の山だな。

 そろそろいいかな。


「チャッピー、そろそろご飯だよー!」

「レ……レウスが……」

「キャスカ耳塞げ」

「ん……こう?」


 俺も俺も。


「レウスが構ってくれたぞぉおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!!!!!」


 火炎(ブレス)が遥か彼方まで飛んでいった。

 耳を塞いでいたキャスカが気絶した。

 俺はさすがに大丈夫だったけどな。

 ユグドラシルの根元にある水場に魚が沢山浮かんでる。

 おぉ、これは新しい狩り方だな。

 今度実験しよう。

 チャッピーを拗ねさせて復活させるなんて簡単だからな。

 酷い奴だろう?

 大丈夫だ、あいつの性格も酷いから、どっこいどっこいだ。


 マカオとスンが、かなり焦げて帰ってきた。

 どうやらクリーンヒットだったらしい。

 スンはギリギリで硬化を発動させて防いだらしい。

 おい、気を付けろまじで。

 俺のせい?

 いや、チャッピーのせいだ。

 そういう事にしとけ。


「もう、髪が台無しよぅっ」

「きゅきゅきゅ!!」


 二人とも犯人はわかっていたみたい。

 とりあえずチャッピーは土下座してた。

 その日チャッピーは一般人(ハチヘイル)1000人分の葉を食いまくってた。

 ちょっと辛そうだったが、自業自得だ。


 キャスカを起こして、火炎(ブレス)でまる焦げの馬肉を食った。

 すげぇ苦い。

 無理だと悟り、仕方なく川に浮かんでる魚を数匹捕って食った。

 まる焦げの馬肉は、マカオが超うまそうに食ってた……。

 あいつの味覚センスはおかしい……。


 キャスカが帰るという事なので、帰りは送ってってやった。

 今朝は悪い事をしたからな。

 紳士だろ?

 キャスカの顔が固まってる。

 なんなのこいつ。


「おおおおおおお送ってくれて……その、ありがと……う」


 おが多い。


「まー、またいつでも来いやー」

「う、うん……」


 顔が真っ赤だ。

 変な雰囲気だ。

 え、これそういう雰囲気?

 おいおい俺まだ10歳だぞ?

 キャスカはアレか?

 しょうたろうな感じか?

 残念、俺レウス。


 んー……まぁ、そうだっていう証拠もないからな。

 そういう可能性もある。

 それだけ頭に入れておこう。


「おやすみー」

「おおおおおおおおおやすみっ」


 だからおが多いよ。


 で、帰ってきた。

 なんかキモイのがいる。


「あぁん、イイッ!

 イイわぁっ!

 あっ……あん♪

 産まれる……産まれるのぉおおおおっ!!!!

 そこぉ……そこぉおおおおおおっ!!!」

「おい、何やってんだ(マカオ)

「あぁ、レウスじゃない♪」


 スンもドン引きだ。

 チャッピーはおなかいっぱいみたいで寝てるぞ。


「何をしてるか聞いてるんだ」

「ほら、もうすぐ産まれそうなのコレ♪」


 黄金魔石が金色に光ってる。

 まぶい。

 なんか黄金魔石がぶれて見える。

 いや、ぶれてる。

 次第に2つに分身しはじめた。

 残像拳だ。

 で、止まった。


 完全に2つになった。

 黄金魔石はネックレスのままで、もう1つは地面に落ちた。

 黄緑色の魔石だ。

 ……見た事ない魔石だな?

 今度、一般人(ハチヘイル)に聞いてみよう。


「じゃあ、これはレウスが持ってて♪」

「ういー」


 さて、深夜……というわけでもないが、今日はもう寝よう。


「寝る、おやすみ」

「オヤスミ♪」

「きゅきゅー……」


 スンマジ天使。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
↓連載中です↓

『天才派遣所の秀才異端児 ~天才の能力を全て取り込む、秀才の成り上がり~』
【天才×秀才】全ての天才を呑み込む、秀才の歩み。

『善良なる隣人 ~魔王よ、勇者よ、これが獣だ~』
獣の本当の強さを、我々はまだ知らない。

『半端でハンパないおっさんの吸血鬼生 ~最強を目指す吸血鬼の第三勢力~』
おっさんは、魔王と同じ能力【血鎖の転換】を得て吸血鬼に転生した!
ねじ曲がって一周しちゃうくらい性格が歪んだおっさんの成り上がり!

『使い魔は使い魔使い(完結済)』
召喚士の主人公が召喚した使い魔は召喚士だった!? 熱い現代ファンタジーならこれ!

↓第1~2巻が発売中です↓
『がけっぷち冒険者の魔王体験』
冴えない冒険者と、マントの姿となってしまった魔王の、地獄のブートキャンプ。
がけっぷち冒険者が半ば強制的に強くなっていくさまを是非見てください。

↓原作小説第1~14巻(完結)・コミック1~9巻が発売中です↓
『悠久の愚者アズリーの、賢者のすゝめ』
神薬【悠久の雫】を飲んで不老となったアズリーとポチのドタバタコメディ!
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ