ノアの箱舟
「地球にやさしく」
を合言葉に世界中で環境問題について真剣に語り合い、そしてありとあらゆる取り組みが行われた。しかし人類の努力も空しく地球環境はドンドン悪化していった。万策尽き果てた人類は非科学的なことを認めない学者を説き伏せ
「神」
に相談することにした。
「どうやったら昔のような綺麗な地球に戻すことが出来るのでしょうか? 」
神は答えた。
「そんな事は簡単だ」
翌日、人類の元に神からちっぽけな「箱舟」が届けられた。
「なんだ? この舟は? 」学者は首をひねったがなかなか結論は出なかった。いちぶの信仰心のあつい人々からは
「これは『ノアの箱舟』じゃないのかこれに? 乗れという意味じゃないのか? 」
という意見も出たが
「まさか月に人類が行く時代にそんな事はないだろう? 」
と学者によってその意見は削除された。
そしてその一週間後、突然人類を大洪水が襲った! 地球は一瞬で元通り綺麗な水の惑星になった。その水面をプカプカと木の葉のような”あの”
「箱舟」
が浮かんでいた。その舟には誰が書いたのか小さな文字で
「ノア」
と絶望的に書いてあった。しばらくすると、たったひとり
「箱舟」
に乗ったヒゲヅラの男が窓を開けキョロキョロと外を眺め始めた。
「どうやら助かったのは俺だけのようだな」
男はしばらく海を眺めていたが、やがてションボリと窓を閉めた。
「やれやれ……せっかく『箱舟』をやったのに誰も乗らないとは……」
そう言うとガランとした船内で神はひとりため息をついた。