8,エル・クンバンチェロ
あの練習試合から一度も勝てないまま、夏休みが始まった。
通常、夏休みといえば甲子園出場校も決まって秋の大会に向けて準備するところだが、俺らはひたすらグラウンドの草抜きをしていた。青々と生い茂る雑草。このまま芝生だと言い切って育てればいいのにと思うほどの量だ。
夏の大会にも出場できない、練習試合でも勝てないということでフラストレーションだけがどんどんたまっていく。部内の雰囲気も悪く、練習に集中できないまま不注意で怪我をしたり、うんざりして辞めていく部員が跡を絶たなかった。何十人いた部員も今となっては十何人。ポッカリと穴が開いたように無駄な時間だけが過ぎていく。
秋の新人戦は九月のはじめ。それには出場できるということで、今部長の先生が抽選会に行っているところだ。付近の高校はいわゆる強豪校が多く、俺達が勝ち抜けるような状況ではない。それを知ってか知らずか、秋の新人戦に向けて部員の表情は暗くなるばかりだった。
「集合!」
今日のキャプテンが声を張り上げた。俺らはそれを耳で聴きながらもうその場所に向かって駆け足で歩を進めていた。同級生ばかりの俺らはこの頃、日替わりキャプテン制を利用し、全員が毎日交代でキャプテンを務めることでチームをまとめる勉強をする、ということをしていた。中には明らかに相応しくない奴も居るが、大抵そういう奴はその後すぐに辞めていく。チームの和に溶け込んで信頼される部員か、もしくは辞めきれる勇気がない部員だけが残っていた。
校舎側の端っこの方に居るキャプテンの所まで全力で走ると、そこには部長がいた。抽選会から帰ってきたのだ。これからその結果が発表されるのだろう。
実はこの抽選会の前の週、ある高校に訪問し、練習を見学させていただいた。その高校はこの年も甲子園に出場、その前の年には甲子園の決勝まで駒を進めていた県内屈指の強豪校だ。その時は甲子園メンバーは居なかったのだが、控えの控えの選手たちと合同練習をさせていただいた。その時の技術力とモチベーションには開いた口がふさがらず、こんな選手でも控えなのかと壁の厚さを感じたものである。
その高校だけは新人戦では絶対に当たりたくないと思った。
「えー、抽選会が今日ありまして、先ほどその結果が、分かりました。我が校は――」
部長の言葉が頭の中にずっしりと響き渡る。対戦相手校の名前が脳内でそのまま消化しきれずにずっと残っている。見渡すと部員全員の表情が更に硬くなったのが分かった。まさか、なぜ。そういった言葉がテレパシーで伝わってくる。
新人戦の対戦相手校は、練習を見学させていただいた、あの甲子園常連校だった。