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2,アフリカンシンフォニー

 先生の怒号が響いた後、今度は俺等の自己紹介が始まった。けっこういろんなところから人が集まっているなぁというのが第一印象だった。有名中学から来た奴、クラブチームから鳴り物入りで入った奴、全くの初心者、などなど。さすが同じ志と書いて同志よ。俺みたいな普通の中学から来た奴でもすんなり仲間を作れそうだ。

 その日のミーティングは自己紹介だけで終わった。今後の予定は校内放送で流すそうなので、それを待つだけだという。できれば今度の日程などを知っておきたかったのだが、それはまた後日のお楽しみだな。最後の最後に入部希望用紙を配られ、それに記入している最中、監督がもう一度その場に立ち、全員の注目が集まった。

「ひとつ、言い忘れていた。うちの野球部は全員坊主。毎朝、校内挨拶と掃除からはじめる。来週までに髪をきちんとしておくように」

 その瞬間、場が固まった。いや、凍ったという方が正しいかもしれない。ボールペンが進む音が一気に小さくなったのがよく分かった。俺自身は坊主になるものだと思っていたのでそれほどでもなかったのだが、みんなはそうでもなかったのか。新しく野球部ができるから坊主の風習など無いとでも思っていたのだろうか。甘いな。高校野球をなめてもらっては困る。これこそ元気・勇気・全力疾走の二つ目の勇気を見せるところだろう。書いたらその場に裏返しで置いて帰るよう言われたので、それに従い、俺は会場となっていた教室を出た。

 渡り廊下から玄関口までのひんやりとした空間をゆったりと歩き、校門から外に出る。強い風はいつの間にか心地良い風になっていたし、調度良く桜も散り始めていて綺麗だと素直にその時思った。この風のように柔らかく高校野球人生をスタートさせられると、この時俺は信じていた。

 時間もあることだし、昼下がりの心地良い小春日和は散歩に限ると思い、校舎の裏側に広がるグラウンドを見てみようとそちらに周った。校門から出てすぐ左のきつい坂を登りきり、高校を囲むように続く道路の上からグラウンドを見下ろす。正直、絶句した。

 それは雑草にとって天国だっただろう。グラウンドというより空き地。天然芝でも生えているのかと勘違いするほど無作為にそこら中に生えている雑草。立派なバックネットの設備はまだ真新しいが、黒土でもない硬そうな土のグラウンドにマウンドなどどこにもない。ブルペンもない。さすがにここまでひどいとは思ってもみなかった。通学路からは見えないグラウンド。はじめてのお披露目がこれだとは。まずは整備からと言っていたが、これを部員全員で修復していたらいつ野球を始められるのだろう。ここではじめて俺は、本当に大丈夫かと心配したのだった。

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