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22, どかんと一発

 二塁上の俺に、笑顔の監督からサインが送られる。あんな笑顔始めてみた。それまで全然褒めてくれなかった監督が俺を褒めてくれた気がした。2番の吉野は実はまだ万全の状態ではない。ユニフォームの下にサポーターを付けて出場している。得意の送りバントで俺を三塁まで送ってくれた。

 三番の2年生は凡退し、2アウトで3塁の大チャンス。ここで4番の1年生。4番というのは長打力が期待できるとかそういうイメージが強いが安川高校は別。1番から順に打てそうなメンバーを並べただけである。あまりにも打撃力が低いせいで、誰がどの打順を打っても同じなのである。4番の1年生は1年生ながらバットに当てるのがうまく、怖いもの知らずな性格のため思い切りの良いバッティングが期待できるだろうと思った。結果はそのとおり、バットの根っこで全く芯ではないところで当てたが、思い切り振り切ったおかげで内野の線をギリギリ超えるセンター前ヒットになった。

 安川高校が初回に1点先制することに成功した。


 後攻、脊山高校の攻撃は素人に毛が生えた程度の打力で、部家の遅いストレートに手も足も出ない形で三者凡退。この初回の攻防で、公式戦で初めてリードする展開となった。もしかしたら公式戦で勝てるかもしれない。チームが一つになって公式戦初勝利を意識し始めたのはこのときだった。勢いそのままに2回の攻撃では一気に3得点。特に9番の部家が打って1番の俺が犠牲バントで送り、2番の吉野がスクイズを決めた瞬間はたった三人の3年生による連携プレーであり、応援席も一層盛り上がった。


 その後も部家は相手打線を全く寄せ付けない危なげない投球で、2回も3回も完ぺきな投球。テンポが良いためエラーは出るがいつものように連続エラーはまったくない。3回が終わって4対0。初勝利に近づくに連れて歓声の範囲が球場全体に広がっていくのを感じた。これが球場を味方につけるということなのだろうか。それに連れてなんだかチーム全体が妙な感覚に包まれるようになった。


 4回の表、4点差あるが、緊張感が漂ってきた。4回表の攻撃は重苦しい雰囲気をさらに重たくした。相手のエラーで出塁するも暴走でありえないアウトのなり方をしたり、振り逃げができる場面で走らずにそのまま帰ってきたりと、ボーンヘッドが目立つようになってきた。監督がいつものように檄を飛ばしたり、主将の俺が集合のときに声をかけてもその雰囲気はあまり改善されない。チーム全体が勝利へのプレッシャーに狂い始めたのが目に見えて分かってきた。


 狂い始めた初勝利への道。試合の流れが相手にうつったのは明白だった。部家が先頭の打者に死球を与え、ワイルドピッチと内野手のエラーでいきなり一点を失う。さっきまでの完璧な無失点投球が嘘みたいに乱れ始めた。その後もなかなかストライクが入らない。連続四球で満塁となり、ここで空気を変えるために控えの1年生投手に交代した。部家もよく投げたと思う。ここで俺がもっと頼れる存在だったら、もっと早くすんなり初勝利できたかもしれないのに。そう思うとやるせない気持ちになった。センターから見るマウンドがやけに羨ましかった。変わった1年生はしっかりと投げ、内野ゴロの間に1点失ったものの、後続を切ってリリーフとしてしっかり機能した。先取点を取って流れを持ってきたのも、悪い空気を断ち切ったのも1年生の思い切りの良いプレーだった。俺らが去年体験した夏の大会とは全く違っていた。


 そこから流れはまた俺らに来た。俺もその後はセンター前ヒットと四球により犠牲バント以外は全打席で出塁した。チーム全体の打線も、大きい当たりはないが、連続単打や効果的なバント、意表を突く盗塁にスクイズと、今まで練習してきたことをおさらいするような試合展開。7回の表の攻撃が終わって9対2。裏の相手の攻撃を抑えれば7回7点差でコールドゲームにできる。この裏が勝負ということで、絶対に最終回にするべく7回裏の攻撃の前に全員で声出しして守備位置に向かった。

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