21, 狙い撃ち
7月初週、遂に最後の大会が始まった。対戦相手は脊山高校。廃校寸前の寄せ集めチームだということだった。捕手と内野手の4人以外はすべて他の部からの助っ人。投手はスキー部、外野手は陸上部や囲碁将棋部のやつもいるらしい。そういうチームと当たれるということは、うちが”互角”に戦えるということである。しかし油断は禁物。どんなに弱そうな相手でも、自分たちよりも弱い相手はいないと心得ていないと足元を救われる。常に挑戦者であることを忘れないように、試合前のミーティングで確認しあった。
スターティングメンバーは背番号通り。俺はいつもの位置、つまり1番センターで出場することになった。1回戦であるにも関わらず、うちの応援には保護者以外にも吹奏楽部や他の生徒も応援に駆けつけてくれていた。全校応援ではないが、今日の試合の応援に来る生徒は公欠として欠席扱いされないという通知が出たためだ。中にはクラス全員で見に来ているところもあった。吹奏楽部はOBも含めて大合奏。対する相手の応援の様子はまるで去年の自分たちそっくり。はじめて応援の数で勝る状況を経験することになったが、自然と緊張はしなかった。これまで詰め込み過ぎだと言われるほど練習試合を繰り返したおかげか、試合には慣れていた。
両者がベンチの前に整列し、本塁付近で審判団が合図を出した瞬間、全員で全力疾走で本塁前に整列し、大声で礼をした。最後になるかもしれない試合がはじまった。
先攻の俺らはまず俺の打席から始まる。吹奏楽部によるポパイが球場を巻き込み始める。相手投手はスキー部と聞いていたが、見た感じそれなりに球は速い。俺はバットを短く持ち直し、左打席に入った。左足で位置を決め、右足をそっと土に乗せる。バットをくるくると何回か回転させ、左耳の後ろで寝かせた。
先頭打者はまずしっかり相手の球を研究し、粘ってあわよくば出塁することが大事。初級は見逃して外角に外れるボール。投球練習中にはストレートしか投げなかったが、変化球を持っている可能性はあるので、追い込まれるまではできるだけボールを見ることにした。二球目もストレートだが、これまたボール。今度は顔付近の高めのボール。まだ出だしなので安定しないのか、それとも元々そこまでコントロールは良くないほうなのか、それはまだわからないが、とにかく2ボールはラッキーだ。ここからは振らなくても出塁できるかもしれない。しかし相手も助っ人とはいえ野球部員を差し置いて先発投手になっている。実はうちの今の態度が悪い2年生と同じように野球部をやめただけで実力者なのかもしれない。だとしたら、ストライクを入れることはそう難しく考えていないかもしれない。事実、ここから2球で追い込まれた。
2ストライク2ボールからの投球、ここまでストレートしか投げてきていないということは、次こそ変化球か。しかし来たのはやはりストレートだった。しかもコースはど真ん中。ここで振らないと三新になってしまう。少し振り遅れる形になったが、練習を信じて左手で押し込んだ。
気づけば相手三塁手の頭上に白球が見え、そのまま白線上に勢いよく転がっていった。押し込むような流し打ちによってファウルゾーンに打球が切れず、そのまま転々と左翼手の横を転がっていった。それを目で確認しながら1塁を思い切り蹴り、2塁手前で滑り込んだ。送球はまだレフトから帰ってきていなかった。もうひとついけただろうとベンチから聞こえたような気もしたが、とりあえずそれには耳をふさぎ、塁上でストッキングとユニフォームを直した。実はこれが俺の公式戦初ヒットだった。




