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20, サウスポー

 6月、地方予選まであとひと月。しっかり”野球ができる”チームになってきた安川高校野球部は日々の筋肉痛に耐えながら練習試合を消化していった。3年生としてはあとひと月の高校野球生活。悔いの残らないようにしたい所。

 実際には8月には夏の甲子園があるが、そこまで行けないのは明白だった。公式戦で一回も勝っていないチームが今年に限って甲子園に行けるだなんて、そんな甘い考え方はできない。もしもこのまま1勝も出来ないまま高校野球生活が終わったら。最短ではあと30日ほどで本当に引退することになってしまう。1日でも長く高校野球をするために、ここが踏ん張りどころである。


 練習試合の中で、俺は監督から言われて何度かマウンドに上った。監督は実は居残り練習をしていた俺の存在を職員室から見かけたことがあったらしい。投手を一度はクビになったものの、夏の大会ではもしかすると登板のチャンスがあるかもしれない。これが一番大きな希望となった。

 しかし実際にはこの頃には18.44mは届くようになっていたものの、打者の後ろを通ったりバックネットにあたったり、とにかく今度は届かないのではなく広い範囲に散らばり、捕手が取れないほどになってしまっていた。先発登板しても3連続四球からの4連続死球などで一死も奪えず降板なんてこともあった。調子が良いときに型にはまれば、打者のバットに当たりもせずに全球まっすぐど真ん中でも抑えられるときもあった。しかしそんなのは10試合の中でも1回あるかないかであり、その回を全球空振りにして抑えても次の回にはまた元の四死球地獄に戻っている。改善はされてきているのは自分でも分かる。しかし今のままでは実戦では大博打になってしまう。あと半年あれば。あと半年あれば復活できたのに。


 中旬、いよいよ背番号が発表された。現在残っているのは1年生まで全員で18人。全員がベンチ入りできることになる。しかしだからといって背番号がただの番号だとは思わない。一桁台はレギュラーメンバーという扱いだし、1番はエースナンバーである。入部したての頃は豊田とその番号を競争するつもりだったのに、今ではまったく思わぬ展開となった。まずは俺が1番をとれるか、そこだけが気になっていた。俺にとっては1番以外はどの数字も同列だと思ってた。

 もしも俺がまだ投手としてやっていけると判断されたなら、1番をもらえる可能性はあるかもしれない。イップスさえ克服できれば、他の投手にあらゆる面で負けているとは思っていない。チャンスはまだ有る、そう信じていた。しかし。

「1番……部家」

 監督の最終判断は、”猪田はもう間に合わない”ということだった。もうこれからは自主練で投球練習をする必要もない。バットを振ってチームに貢献すれば良い。そう宣告されたも同じだった。2年半の“投手としての”高校野球は、ここで終わった。


 月末、夏の地方予選の抽選会が行われた。主将として顧問の先生と一緒に会場へ向かい、緊張しながらくじを引いた。

 まずはくじの順番を決めるためのくじを引いていく。100校近いチームが集まるため、会場は常にざわざわしていた。そんな中、多数のカメラに囲まれながらくじを引いた。

「安川高校、90番です」

 俺はマイクの前でそう言うと、そそくさと席に戻った。90番ということは、組み合わせがほぼ決まってからくじをひくことになる。終盤でほとんど注目されない中くじを引けるならまだマシだと思った。

 そして二回目の組み合わせを決めるくじを引くまでに89人がくじを引いた。強豪校同士の対戦、新興勢力同士の対戦、ダークホース候補の行方など注目カードごとにどよめきが起きる会場。対称的に誰も注目していない俺らの抽選。場にも徐々に慣れてきて、落ち着いてくじを引いてマイクに向かった。

「安川高校、36番です」

 学校名が書かれたボードが他校の女子生徒によってトーナメント表に掲げられていく。隣りにあった名前は……脊山高校。初めて聞く名前だった。

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