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17, サンバ・デ・ジャネイロ

 解散からの5ヶ月間、再結成した野球部はグラウンド以外で工夫して練習を行った。野球部としてグラウンドを申請できないので、他の部活動の協力の下少しの空間を譲ってもらうか学校外で自主的に練習するしかない。


 11月、すでにもう寒い中、室内練習ができるわけでもなく、土手のグラウンドに集まってキャッチボールやノックを行うようになった。体育館の一角や廊下など、他の部活に貸してもらって練習できるスペースは限りがあるので、放課後はできるだけ近くの土手で練習を行うことにした。石ころが多く、マウンドもない雑草だらけのグラウンドだが、練習できないよりはマシだ。それほど大きくないので打撃練習をしてしまうと川にボールが落ちてしまう可能性がある。

 それを避けるために、日が落ちるまでは守備練習を行い、日が落ちてからはボールが見えにくくなるので、自転車で10分ほどのバッティングセンターに全員で行き、そこで打撃練習をすることにした。俺らは硬式野球部ではあるが、バッテイングセンターの軟式ボールを打つのは目を慣れさせ、バッティングのフォームを確認するには良い練習になる。ストラックアウトもあるが、打つ方と比べて投げる方は感覚がぜんぜん違うので、俺と部家は守備練習の合間を縫ってキャッチボールをしながらフォームを固めた。


 俺はこれを良い機会だと思い、一から投球フォームを作り直すことにした。イップスで自分の動作がわからなくなっているからこそ、今のうちに全くの0から作り上げていく。夏の大会までには十分間に合うと思った。投手は確かにクビにはなったが、それは前までの話。新生安川高校野球部では、なんとしてでもエースナンバーをつけたい。俺は諦めてはいなかった。


 年末、冬休みに入ると、学校には完全に入れなくなった。廃部している野球部はグラウンド使用許可申請が出来ないため、仕方がない。やはり土手で自主的にマラソン大会を行ったり、スポーツセンターで筋トレをしたり、バッティングセンターで打撃練習を行うようになった。しかしスポーツセンターもバッティングセンターもお金がかかる。お小遣いはあるが、それではどうしても足りないほど出費がかさむようになった。監督になんとかカンパを集めてもらえるようにと全員で頼み込んでみようと画策し、代表として主将の俺が連絡した所、思ってもみない情報を手に入れた。

 部活動をしている生徒は原則としてアルバイトは禁止だが、事実上廃部状態の野球部は部活動をしていない状態であり、3月までならアルバイトをしても良いということだった。それに、高校野球を取り上げるために監督には数名の新聞社の知り合いがおり、連絡してくださるそうだ。しかも今の時期はちょうど年賀状の時期で、郵便局でも仕事ができるらしい。そのことを部員に話すと、全員快く応じてくれた。自分たちが稼いだお金で自分たちの野球のために使う。全ては野球のために。冬休みは練習よりもアルバイトをする時間のほうが徐々に多くなっていった。

 元日、初日の出を見に神社まで行き、そこで新年の挨拶を神社で行い、そのまま神社まで続く長い階段を10往復。その後は各自郵便局や新聞社から自転車で出動し、年賀状や新聞を配った。もうすでに足はパンパンになっているが、坂道の多い地区で自転車を漕ぐだけでも良い下半身トレーニングになっていたと思う。冬休みの終わりにはしっかりとそれぞれ給料をいただき、全員が快く全額を部費に当てた。


 3月になった。監督や顧問と話し合い、顧問全員を野球部に戻す形で部活動として正式に再結成した。3月中旬からは正式にグラウンドで練習することを許可され、一番始めの練習再開日には、初年度と同じように雑草処理と石ころ拾い、グラウンドを耕しラインを引く印をつける所から始めた。初心に帰って最後の夏に挑む。そのために監督は野球の練習の前に、部員全員で校歌を歌うように指示を出した。試合に勝ったときのことを考えながら歌う、一種のイメージトレーニング。他の部活動をしている生徒もいるから正直恥ずかしかったが、監督の気持ちもわかるので、主将として率先して大声を張り上げた。それにつられて、徐々に他の部員も声をだすようになり、3番の歌詞を歌う頃には恥ずかしい気持ちもなくなって、チーム一丸で声を張り上げた。

 この学校に来てからはじめてチームがひとつになったような気がした。

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