表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/25

9,ガラスの十代

 新人戦当日。直前に退部届を出した三人を合わせた合計十五人の俺ら野球部は、会場が近いということもあって行進するように試合会場へと向かっていた。正直重たい荷物を持ってユニフォームで足を合わせてみんなで向かうというのは疲れるしとても恥ずかしい。実際道端でジロジロと見られようものならこちらは挨拶を全力で返さなければならないわけで。近隣住民からはカルト団体のように怪しく見えたかもしれない。

 しかも会場校は長い長い坂の上にある。うちの高校の坂も長いが、景色が変わるだけマシだ。その高校の球場までの道のりは、ずっとただただまっすぐに伸びているだけ。それが精神的に一番きつかった。

 会場までたどり着くと、第一試合の真っ最中だった。野球部専用球場のまわりを一列になって待機場所へと移動してゆく。球場の向こう側では、すでに開催校である相手高が準備運動を始めていた。大会関係者たちにひと通り挨拶を済ませ、すぐに準備体操をはじめた。

 グラウンド内は基本的にかけあしである。試合経過によっては日程をこなすために試合時間が早くなる場合もある。そのため、はやめはやめの準備が必要なのである。第一試合は思いの外早く終了しそうになり、準備運動を早急にこなし、慌ててベンチに入る準備をし、ベンチの横に待機した。

 

 ベンチ入りした俺達は、さっそくダッシュで外野に向かい、一例とランニング、準備体操を始めた。

 はじめての公式戦ということもあり、保護者からの濁った黄色い声援が聞こえてくる。正直恥ずかしかった。それは一生懸命応援してくれているその行為を肯定的にとらえることができず、冷やかしのように聞こえてきたからだった。目に見えて力に差がある相手に対して向かっていくのに、「必勝」は冷笑を誘うだけである。まるで売れない漫才師が苦し紛れにボケをかますようなもので、それは笑わせているのではなく笑われているのである。どうにも気持ちが乗らないが、気持ちの切り替えをしなければと自分に言い聞かせ、無表情を装ってキャッチボールを始めた。

 キャッチボールのあとは試合前ノックが有り、その後集合整列して試合が始まる。試合前ノックは両軍の実力を見るのに良い。情報を手に入れて試合を有利に進めるためにはしっかりと観察をすることが大切である。しかし、僕たちにはそんな余裕はなかった。実力差が現れるノックを見られるのが恥ずかしいという気持ちが大きく、相手チームよりも自分たちがどうにか恥ずかしい失敗をしないように気を引き締めることしかできなかった。

 そして整列。拍手に包まれながら声を出し、ホームベースまで走って向かい、整列した。15人しかいないうちのチームに対して、相手はその倍くらいいるように見える。体格もぜんぜん違う。まるで風車に向かうドンキホーテのような気分だ。不安を抱えたまま、僕たちの少し遅い夏が残暑の残る中、幕を開けた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ