詠唱第二節 ~邂逅~
空を飛ぶって、皆の憧れだよね。
魔法みたいな力を使って、自由自在に空を飛びまわって、良いよなぁ・・・
と言っても、今は普通に出来るんだけどね、風使いなら。
しかも今飛んでるんだけどね。ぶっ飛ばされて。
「そこまで!!勝者、1-D、カナ!!」
「いよっし!!」
審判の先生が宣言すると同時に、俺の対戦相手が飛び跳ねる。そしてそれの着地と同時に俺もゆっくりと地面に着地。ふぅ、おわったおわった。
ここは魔術を教える学園。名前は・・・何だったかな、覚えてねぇ。やたら長いことしかわからねぇ。
「コースフィルト魔術学園高等部だよ。自分の学校の名前くらい覚えとけって」
いつの間にか俺の後ろにいた親友、フィート・ガイラが肩を叩きながら嘆息する。イタイイタイ、お前力つえぇんだからばしばし叩くな
「それにしても面白いくらいの負けっぷりだったな。相手はD組最弱の女子だぞ」
「へぇ、だからあんなに弱・・・いや、喜んでたのか。」
「ちなみにアイツがこの学園で一番弱かったんだ」
「へぇ、じゃあ俺が次から最弱だな」
まぁ俺にとって格付けとか関係ないんだけどな。興味ないし
「まぁあれだ、いざとなったら俺が守ってやるから、遠慮するなよ」
ガイラはA~JまであるランクのうちのB。つまり上位組に入る。確か通り名は『土塊戦士』だったっけ。ちなみに俺はなぜか測定できない。通り名は『存在しない風』だ。
「へいへい、いざとなったら頼むぜ」
「おう、いざとなったら、な」
ガイラはそう言って離れていく。俺もとっとと寮に帰るかな・・・
「あ、そうだ、もう出て来ていいぞ、エルフィー」
「あ、そう??あぁ疲れた~・・・」
俺の髪がひとりでにうごめき、中から小さな精霊が現れる。彼女の名はエルフィー。俺が常に召喚している精霊だ。ちなみにあだ名は『エル』。つまり俺はこいつにある程度の力を割いて、あの戦いに挑んだ。
まぁ、全力だった所で特に変化はない。結局風は操れないんだから。
じゃあ何故俺がこの学園にいられるのか。それは俺も謎だ。学園長の指示らしいが・・・めんどくさいから考えねぇことにする
「さて、今日の模擬戦は終わったし、そろそろ帰って寝るか」
「何言ってんの、まだ昼間よ。今から寝てどうすんのよ」
「夜中に起きる」
「馬鹿なの??」
やかましいわい。
不意に、風がざわめいた
「エル、モンスターだ」
「え、嘘。感知できたの??」
「風がかすかに動いた。場所は中庭、数は3体ほど」
「感知能力だけなら化け物クラスね」
「やかましいわ。いいからいくぞ。」
「はいはい、分かったわよ」
エルフィーはそう言うと俺の肩に乗る。俺はそれを合図にエルフィーと力を共有し、背中に羽を作り上げる
「『精霊の羽』」
この術は翅で空を飛ぶ移動用の魔法だ。レベルが低くても使えることから風使いには重宝されている。ってそんな話はどーでもいい。今は急いで中庭に向かわないと!!
それから少しして中庭についた俺は、最初に驚愕した
「ガイラ・・・」
モンスターにやられたのであろう、背中に深い傷を作り、ピクリとも動かない親友。それを見た俺は即座に物質顕現魔術でお気に入りの二刀を作り上げる
「エル!!」
エルはすぐに風の低級強化魔術『力の風』を俺に使用し、ガイラの治療を開始する。名前を呼んだだけでここまで理解するとは、さすが相棒だぜ
「後は、頼んだ!!」
エルにそう告げてモンスターに向けて疾走する。デカイカマキリみたいなモンスター。マンティスはその厳つい鎌を振り上げ、俺の二刀と切り結ぶ
「だらぁ!!」
力任せに振り抜き、体勢を崩す。ここだ!!
「斬撃の嵐!!」
その場で高速回転し、竜巻のように相手を切り刻む技。立て続けに刻まれた一体は息絶え。そして
「刺突の豪雨!!」
豪雨のような刺突の雨、全てのマンティスが無数の刺突によって貫かれ、息絶える
「だれも見て無くて助かった・・・」
二刀の結合を解き、エルのもとへと戻る
自然魔術を使用しなければこんなもんだ。もっとも、魔術は顕現ぐらいしか使えない上に、風を操れないから魔術学園の生徒としては落第だがな
「傷の具合はどうだ??」
「命に別条はないわ。あと数分もすれば目覚めるでしょ」
「そいじゃここにほっといても平気だな、行くぞエル。ここにいると面倒なことになる」
「隠す必要無いと思うけどねぇ・・・まぁいいわ、行きましょ」
中庭を離れるクラウスとエルフィー。それを、学園の屋根の上から見る者がいた
「あいつ・・・自然魔術を使わずにあれだけの敵を倒したって言うの・・・??」
燃えるような紅髪を風になびかせ、小柄な少女はクラウスを見る
「あいつ・・・まさか・・・」
少女は浮かんだイメージを振り払うように首を振り、虚空を眺める
「アイツなら・・・きっと」
少女の呟きは、風に乗って消えていった
「ん??」
いま、何か聞こえたような気が・・・???
「気のせいじゃないの??」
「人の心を読むな。まぁ周囲に人影もないし気のせいだろうな」
風に乗ってきたから嘘とは言い切れないが、今はどうでもいい
「とりあえず教室に戻るか」
「そうね、行きましょ」
エルが頭に潜り込んだのを確認し、教室へ向かう廊下を進む。と
「あれ??さっきの・・・カナ、だっけ??」
先ほどの対戦相手である、カナ・ラグルだった。
「オイどうした??顔色悪・・・」
ふわっ
そこで意識が一瞬飛び、気付けば俺は、壁を背に横たわっていた。何が・・・起きたんだ!?
カナは・・・いた、って事は俺は50メートル近く吹っ飛ばされたのか!?試合中こんな力は出してこなかったぞ!!・・・つーか、この力、明らかにJクラスの力じゃねぇだろう!!
「エル!!」
「分かってる!!『観察する風』!!」
エルが観察低級魔術を唱える。結果は・・・
「クラウ、あのカナって娘、洗脳上級魔術で操られてるわ。属性は炎。」
「炎??オイオイ、どんだけ上級者だっつの。普通炎で洗脳とかしないんだけどなぁ・・・」
そんなことを呟きつつ、物質顕現魔術で二本のナイフを作り上げる
「援護は??」
「『絶対防御の風壁』だけで十分だ」
こいつの使用魔法は雷。って事はおもに使ってくるのは自分に帯電させて潜在能力を引き出す『塵雷』と雷の特性を最大限活用して放つ『監視者の怒り』の二種類。なら・・・
「『絶対防御の風壁』!!」
エルが術を唱えると同時にカナに向かって駆け、ナイフを十字に切り上げる。
身体能力を増強させているだけあって、簡単にかわされる
「だが、それで終わりじゃないんだなぁ、これが」
瞬時にナイフの結合を解き、再構築。次は2メートル近い大きさの太刀を作り上げる
「それぇ!!」
真横に振り抜く。しかし身体能力が増強されているためか、軽くかわされる。こいつ、実は潜在能力ハンパなく高いんじゃねぇ??
カナはかわした状態から飛び上がり、いつの間にか手にしていたナイフで突いてくる。やベぇ、かわせないぞ!!
「『風の槍』!!」
後ろから声がすると同時に、目の前にいたカナが見えない物に殴られたように吹き飛ぶ。
「ナイスフォローだ!!エル!!」
後ろで魔術を唱え続けているエルにそう言葉を投げかけ、太刀の結合を解く
「これで、終わりだ!!」
結合させて造り上げるは、巨大なハンマー。それでカナを思いっきり吹き飛ばす
~~ピコォォォォォォォン!!!!~
盛大に音を撒き散らしながら吹き飛んで行くカナ。壁にぶち当たり、気絶する。
「あれ・・・死んでないわよね??」
エルが心配そうに眺めている。
「大丈夫だ。これはPIKO☆PIKOハンマーだ」
PIKO☆PIKOハンマーとは、おもにツッコミ用に使われるおもちゃだ。それを巨大化した状態で具現化させ、思いっきりブン殴ったわけ。
「何で洗脳なんかしたのかしら・・・??」
「さあな、本人に聞いた方が早いんじゃねえか??・・・いつまで隠れてるつもりだ。覗き見とか趣味悪いなお前」
廊下の角になっている場所。そこに向かって針を投擲する。
「出て来いよ、かくれんぼはおしまいだぜ」
一瞬の静寂の後、角からゆっくりと顔をのぞかせたのは
「あら、ばれてたの??」
真っ赤な髪をきらめかせた、ちっこい少女だった