第二話 発見!リーゼントの靴
雄鶏も鳴かないうちに、俺は目を覚ましてしまった。
早く学校に行きたくて、寝てなどいられなかったんだろう。いつもなら熟睡して夢もたくさん見るのに、今回はどんな夢だったかさっぱり分からない。
とりあえず学校に行く準備や着替えは済ましたが、朝食が……。
「あ〜腹減ったなぁ……餓死寸前って、こういうことなのか?」
鞄を持って階段を下りてみたが、やはり電気はついておらず、人が起きているようには思えなかった。
今はちょうど五時半をまわったところ。俺の家族は、六時になって初めて母さんが起きるから、この時間帯だと全員熟睡してることだろう。
でも俺はそういうわけには行かない。早く学校に行って、あいつらを待ち伏せしておいて、仲間に入れてもらうんだ!
キッチン内もやはり暗くて、俺は慌てて電気をつけた。
ラッキーなことに、机の上には昨日の晩御飯の残り物があった。――レタスときゅうりを添えただけの、虚しいサラダだけだが……。
「まあ、ないよりはましかな? えーい! こうなったらサラダで十分だっ!」
俺の不良魂を見せてやるぜ!と、言ったところで誰も格好いいなんて思ってくれないだろうけど、俺は心の中で孤独に叫ぶ。
そして次の瞬間には、口いっぱいにレタスときゅうりを詰め込んだ。
*
寒い。
家を出て、まず最初に俺はそう思った。とても率直な感想だ。
しかし現実とは厳しいもので、俺は春を侮ってはいけないと改めて思った。
「くそぉ〜! なんで俺はこんな目ばっかり遭うんだよぉ……怨むぞ、母さん」
人気もなく車の通りも少ない学校への道は、いつも以上に寂しい環境に思えた。
野良猫の一匹すらいないし、玄関前を掃除しているいつもの主婦たちの姿だってありゃしない。これが人の住むところなのだろうか、とさえ思ってしまった。
俺の家から学校までは、そんなに遠いわけではないのだが、この寒さの中だと何千里も歩いたような気分だ。
「ああ、マルコ。お前はこんな気持ちだったんだな……三千里、遠い」
朝から馬鹿げた発言をしたということにも気づかず、俺はただ寒い寒い道のりを進んでいった。
学校につく頃には、近くの家々にも電気は灯り、ある程度賑やかな環境が戻りつつあった。
朝は孤独な気分になるな、と思いながら俺は足早に校門を通った。
「あいつら、ちゃんと玄関から来るのか? もしかすると……窓から直接教室に入ったりするのか!?」
真剣に悩むことでもないのだが、俺はとにかく焦った。こうしている間に、不審人物と思われないだろうか、と思ってしまう。
そもそもあの不良グループは、朝は早いのだろうか?
もしかすると、遅刻してるにも関わらず平気で教室にズカズカと入っていって椅子にドシン。そんな毎日を送っているんじゃあ――。
考えるより早く、俺の足は靴箱の前まで進んでいた。まあ、思った通り上履きしかない――じゃなくて、五つほど下穿きが置かれていた。三年生のところだけではない。
「この靴まさか……あっ、『篠星 竜輝――しのぼし りゅうき――』って書いてあるじゃん」
その篠星 竜輝こそが、あの不良グループのリーダー、俺いわくゴールドリーゼントの名前だった。