プロローグ
あ〜あ。俺、何やってんだろう――。
制服は泥まみれ、靴は片方なし、体中はズキズキと痛む。
そんな悲惨な状況で、今にも泣き出しそうなほどビビっている俺は、達樹 領――たつき りょう――。
何故こんなにも惨めかって? それは、目の前にいる奴らを見れば理解できる。
今時ちょっと珍しいリーゼントで、隅から隅まで金色に染められたその髪は、どう見ても不良。
実はこの集団に入ろうと、俺は中学になって一番頑張った。
勿論バカにされて、この通りボコボコにされたわけだが、諦めてはいない。
絶対に俺は不良グループに入ってやる、と心に決めていたから。絶対に引き下がるわけにはいかない。
口元を流れる真っ赤な血液を、自分の制服の袖で拭うと、俺はまた立ち上がり、一言言った。
「俺も……入れて、くれ」
こんなにも不良グループに入りたい理由は、この放課後という時間から少しさかのぼったところにあった。
いつものように、購買で昼食のパンを買っていた時、見事なまでに俺は財布を盗まれた。目の前にいる不良グループに、だ。
あの鮮やかな盗みは、盗られた悔しさなどよりもただ単に凄いという感想しか出てこなかった。
――格好いい。
結構前から、俺は不良を見るたびに憧れたりもした。
「お願いします!! 俺も、入れてください!! この通りです!」
土下座をする俺を前に、不良グループのリーダーであるリーゼント頭が、一言言う。
「……入りたいって言っても、お前みたいな弱っちーやつはいらねーんだよ。さっさとくたばっちまえこのクソがっ!」
ドスっというような音がして、また俺の腹部を強烈な痛みが襲う。そして、俺の視界から全てのものが消えた――。
*
「リーダー、なんかあいつおかしなやつでしたねぇ?」
「全くだぜ。こん中でまともな不良は――俺様ただ一人なのによ」
「あの方は我々の『戦い』を知らないみたいですから、憧れというものを失うことになるでしょうねぇ」
「ああ――。まっ、これ以上俺たちに仲間は必要ね〜しな」
*
不良たちがぼやいていることなど知らず、俺は結構長い間気絶していた。
気がつくともう真っ暗で、体育館裏で倒れている俺以外、人という生物の気配はなかった。
やっぱり、俺みたいな貧弱なやつは不良になれないのかなぁ……。少しばかり、俺は自分のことがイヤになった。
俺がここまで不良に入りたいのは、ただ単に強くなりたいと思ったからだ。
中学に入って三年も経つのに、俺は今まで先輩や同じクラスのものだけじゃなく、後輩にまでバカにされて命令までされる身だった。
もうそんな馬鹿げた人生は嫌になり、とにかくあの不良グループに入って、今まで俺をバカにしてきたやるらを見返してやりたい!
――が。人生そんなに甘くはなかったらしい。
結局俺は、痛む腹を手で押さえながら家路についた。
しかし、次の日に起こる自分の転機を、この時俺は予想もしていなかった。
初投稿の学園コメディーです。楽しんでいただけたら嬉しいです。