これがオレ様の善意
都心のとなりにある小さな町にパン屋が新しくできた。
小さな町の、小さなパン屋。
けれどもそのパン屋は近所の人から愛される、人気のパン屋になりつつあった。
そもそもその町は都心のすぐそばだというのに人口はすくなく、住んでいる人も働き盛りをすぎたような、年寄りばかりが目立つ──そんな地域だった。
その町にある唯一のパン屋だといってもいいくらい、ほかにはさびれたスーパーと、かろうじて県境に一軒のコンビニがあるくらいで、ほかには何もないのだ。
そんな年老いてゆく町にパン屋ができた。
しかもそのパン屋の主人は、まだ二十代くらいの若者だという。
彼は破格の値段で借りられた店舗に、大きな希望をもってやってきたのだ。
青年はその年齢とはうってかわって優れた技術をもつパン職人だった。
青年がたったひとりで切り盛りするそのパン屋を、周囲に住む老人たちは、毎日買いに行けるほど裕福ではないにしろ、そこそこの頻度でパンを買いに行っていた。
ところがある日、そのパン屋はとつぜん閉店してしまった。
なぜそんなことになったのか、町内では一番のニュースになった。もちろん新聞に載るとかテレビで放送されたとかいうことではなく、公園やら何やらで顔を合わせる老人たちのあいだで、なんであの若者は町を出て行ってしまったんだと大騒ぎになっていた。
その理由はスマホをもっていても、ろくにその機能を使いこなせない老人が多いその町では、気づくことすらできない。
パン屋の主人が店を閉めてしまった理由は、ネットで評判の店を探せるという「口コミサイト」にあった。
そのサイトで町の小さなパン屋がだれかの手によって、★1つの最低評価を付けられてしまったせいだった。
初めて付けられた評価が★1つということもあり、その店は県外からは当然見向きもされず、そのままずっと★1つの評価のまま終わるのは目に見えていた。
そのことに傷ついた若いパン屋の店主は、店をたたんで町から去って行ったのだ。
この話題に一番怒っていたのは、パン屋に足しげく通っていた老人のひとりだった。
「なんだってあの若造は店を閉めていってしまったんだ! せっかくおれがひいきにしてやったというのに! どうせこの町の連中じゃだれもSNSなんてやらんだろうから、善意でおれが評価を入れてやったのに!」
「善意のつもりで」その善意は相手の気持ちを考えたものか、相手に善意として受け取られるものか。
相手に善意だと伝わらなければ、その善意は相手を傷つける場合もある。




