1話 目覚め
森の空気は静かで、時折木々の葉が触れ合う音と、小枝の落ちる微かな音がするだけだった。冷たい風が頬を撫でる感触に、少年は目を覚ました。孤独と不安が胸を押し潰す。どうやら簡易キャンプのようなものの中で木の葉と垂れ下がった布の隙間から微かに、しかし確かに、暖かな陽の光が差し込んでいた。
そんな時、不意に布がはためきひとつの影が現れた。黒髪の少女――背筋を伸ばし、動き一つで森の空気を切り裂くかのような姿。瞳は黒く、鋭いが、優しさを宿すようか暖かみと、救いを求めるような悲しみが宿っているように見えた。
彼女は少年に目を留めると、静かに小さな手で木の葉のような何かを掴んだ。その動きは自然で、まるで森の一部が彼女に従っているかのようだ。
葉は空中で舞い、風に乗って静かに宙を滑る。そして、少年の胸の上に音を立てて落ちた。
「目が覚めたのね。」
冷たいが、決して敵意のない、優しい声だった。
「森の奥で倒れていたのよ。木々が教えてくれた。」
少年は混乱していた。状況が上手く把握できない。なぜ自分がここにいて、自分が何者なのか、全て分からない。恐怖と不安を胸に抱きつつ、目線だけで少女の動きを追った。少女はまるで自分をまったく意に返さないかのように、平然とお茶を入れ始めた。香ばしく豊かな香りが鼻をくすぐる。そこで少年は自分が極度の空腹に襲われていることに気づくと同時に、腹の音がこの静寂を破るように鳴った。
少女は少年を一瞥し、微かに笑った。その笑みは、確かな優しさを秘めていて、少年は、その微かな光から目を離すことが出来なかった。
やがて少女は背を向けたが、たった数秒の間に交錯した視線の中に、確かに自分という存在を見た気がした。




