プロローグ
――2019年8月5日。
今年で母、靖子が亡くなって23年が経つ。母はこの車云生町の港にある防波堤で亡くなった……。私が18歳の時の話だ。
――あれから23年も……。
「23年も経つんや……せやけど、この町並みは変わらへんなぁ……」
口に出すつもりは無かったが、ふいに口から出た言葉に、自分でもちょっとびっくりし、辺りを見渡す。
「そげだけん、この町は時間が止まっちょうけんね……」
「叔父さん!もうっ!おったんかいね!」
「はははっ!春子ちゃんいらっしゃい。待っちょったよ。旦那さんと春樹君は一緒じゃなかったんかいね?」
「そげそげ、先に町を散策してくるって。もう田舎が珍しいみたいで、ずっとはしゃいじょったわ。法事が終わったら連絡してって」
「そげかね。そう言えば法事のついでに、本堂の狐の絵の写真を撮らせて欲しいって夢乃さんからも電話がきちょったわ」
「あぁ、例の先々代の住職さんが祀ってたって言う……」
「そげ。調べたら、あの絵は星見さんの祖父が寄贈した物らしいわ」
「へぇ……叔父さん、星見さんとこの娘さんは元気でやっちょるん?」
「ん?優子ちゃんかね?今朝も墓参りに来ちょったよ。優子ちゃんは、春子ちゃんと小学校は一緒だったんかいね?」
「優子ちゃんは小学校は同じだけど、一回り違うけん。近所で何回か顔を見た事ある程度かな?」
叔父とそんなたわいもない話をし、寺の境内から見える港町を見下ろす。防波堤が港町を囲う様に伸び、湾に沿ってそびえる山裾には住宅が立ち並ぶ。湾内が太陽の光でキラキラと光り、豆粒ほどの大きさに見える車が、湾内を周る様に走って行く。
この小さな港町にも数百人の人が住んでいる……それぞれに生活があり、それぞれに夢があり……それぞれに辛い思いもある。
「優子ちゃんの記事を雑誌で見た時は、涙が止まらんかった……」
私が思い出したかの様にぽつりとその話題に触れる。
「あげだねぇ……。もう3年も前になるかな。星見さんから連絡があって、法事を頼まれた時は驚いたけんね……」
「私にも息子がおるし、あんな悲しい事故はこの世からなくなって欲しい……」
「……」
セミの鳴き声と海風が、右から左へと流れていく。
「春子ちゃん、夢乃さんが来る前に優子ちゃんの娘さんの話をしちょこうか。春子ちゃんは知らんかもしれんけど、今、優子ちゃんの娘さんはね――」
「え?」
叔父さんは港町を見渡しながら、話始めた……。
―白の星見草へ続く―




