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第4話「寝顔とテスト」

「……あ」


寝ちゃってる。


背もたれに腕をのせて、頭を預けるような姿勢。

呼吸は深く、穏やかで、少しだけ開いた唇と、微かに動くまつげ。

午後から仕事だったって言ってたし、きっと疲れてたんだろうな……

そっと椅子を立ち、足音を忍ばせて彼の傍へ。


胸が、ぎゅっと締めつけられる。

さっきまで背中に音を届けていただけだったのに、いま目の前で眠る姿を見ていると、どうしようもなく、触れたくなる。


頬に、指を伸ばしてみたくなって。

髪を、そっと撫でてみたくなって。

さっきまで彼に見つめられていた私が……

今は、見つめる側になっていた。


「……ずるいな、セナ君って」


思わずこぼれた小さな声にも、彼は目を覚まさず、ただ静かに、安心しきった顔で眠っている。

そっと、ソファの隣に膝をついた。

少しだけ、寝顔に寄り添うように。


……この時間が、誰にも見られていませんように。


ステージでも、テレビでも見られない顔。

私だけが知っている、彼の表情。

ずっと見ていたい……そう思った、そのとき。


「……ん」


セナ君のまぶたが、わずかに揺れた。


「……なーに、見てんの」


半分眠ったままの低い声で、ゆっくりと目を開ける。


「っ……!ご、ごめん……起こしちゃっ……」


……ダメだ、この人の不意打ちの色気、本当に心臓に悪い……

慌てて立ち上がろうとした瞬間、セナ君の指が、私の手首をつかんだ。


「やだ。……どこ行くの」


寝ぼけた声なのに、ほんの少しだけ力のこもったその手に、私は動けなくなる。


「……寝てて、いいよ?」


そう言った私の言葉に、セナ君はゆっくり手を引いて、

そのまま、自分の体に誘うようにして、自然に、腕を回してきた。


「……ん、ここにいろ。まだ寝る」


目を閉じた彼の横顔は、ついさっきまで眠っていたとは思えないほど、安らかで。

部屋の静けさのなか、私の心臓の音だけが、やけに大きく響いていた。




月曜の朝。

制服に袖を通して、リビングに戻ると……

セナ君はすでに出かける支度を整えていた。


「じゃ、行ってくるわ。おまえも遅れんなよ」


そう言って、玄関で私の頭をくしゃっと撫でて、おでこにキスをくれた。

……何度か繰り返してきた、もう“慣れた”はずの仕草なのに。

今朝は、なんだか妙に胸が締めつけられる。


「いってらっしゃい」


精一杯、明るく返したつもりだったけど。

見送ったあと、私はそっと自分のコートを羽織って、静かな朝の空気のなかに出ていく。

どこか、まだ身体に彼の体温が残っているような気がした。


学校に着いて、午前中の授業とテストをこなす。

午後には早めの解散。

今日は、もうセナ君の家には帰らない。

さすがに、テスト期間だから。


電車を乗り継いで、自宅の最寄り駅に着き、

マンションの鍵を開けて、自室のドアを引いた瞬間……

あまりにも、静かで。

あまりにも、“自分の部屋”だった。


ベッドに鞄を放り投げて、深く、ひとつため息を吐く。

週末のあの空気が、まるで夢みたいに遠く感じた。

誰もいない部屋。

誰の気配も、声も、ない空間。

スマホを手に取ってみるけれど、セナ君からのLINEは来ていない。


……うん。来るはずがない。

今日は午後から番組の収録って言ってた。

わかってる。

忙しいの、ちゃんと知ってる。


でも……


「……はぁ……なにやってるんだろ、私……」


ぽつりと漏らした声は、誰にも届かず、そのまま部屋に沈んでいく。

やらなきゃいけないピアノの練習も、課題も、テスト勉強も、山ほどあるのに。

それなのに、今はただ、自分がどうしようもなく子供みたいで、ぐちゃぐちゃになりそうだった。


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件名:

【主題歌コンペ】映画『夜に焦がれて』タイアップ楽曲募集のご案内(3/5〆)


本文:

音羽奏 様


いつもお世話になっております。マネージャーの八神です。

このたび、諏訪セナ主演の映画『夜に焦がれて』(2027年春公開予定)における主題歌制作のご相談をさせていただきたく、ご連絡差し上げました。

以下、作品概要と楽曲募集要項をご案内いたします。


【納期】

2027年3月5日(金)15:00まで


【作品概要】

劇場用長編映画『夜に焦がれて』

主演:諏訪セナ(スターライトパレード)

ジャンル:恋愛/ヒューマンドラマ/心理スリラー

原作:朝井あや『夜に焦がれて』(講談社文庫)

監督:篠田光(『密やかな夜』『記憶の家』ほか)


【ストーリー(抜粋)】

「どこにも行かないで。たとえ、私が壊れても……」

静かな町で偶然出会ったふたりの男女。

ほんのささやかな日常のはずが、互いの心の奥に潜む“不安”と“執着”が、次第にふたりの関係を歪めていく。

愛しているからこそ、手放せない。

孤独を知るふたりの、不器用で痛いほど真っ直ぐなラブストーリー。


【主題歌コンセプト】

“愛ゆえの狂気”、“感情の牢獄”を音楽で表現できる一曲を希望しています。

表面的な美しさやロマンティックさよりも、**心の奥に潜む「嫉妬」「独占欲」「赦しと依存」**といった、人間らしい弱さに触れるような歌詞・構成を求めています。


【キーワード例】

「あなたが笑うと怖くなる」

「ひとりでいるなら、いっそふたりで堕ちたい」

「ほどいて、ほどけない」

「選ばれたいの、ちゃんと」

「このままずっと囚われていたい」


【曲調】

ミッドテンポ〜スローバラード(BPM65〜85目安)

ドラムレスまたは重めのビート×エレクトロ+ストリングス基調

無機質なコード感と、情緒的な旋律とのコントラストが好ましい


【提出物】

・メロディ+コード譜(PDFまたは画像形式)

・仮歌入りデモ音源(mp3)

・歌詞(テキスト形式)

・サンプル動画を参考のうえ、物語との親和性を重視してご検討ください

▶︎ 参考映像(限定公開)

※映像内にはセナ主演の一部シーンが含まれます(パスワード:夜焦2026)


【参考楽曲】

「mirror」/Noëlノエル

「vanilla haze」/VALSヴァルス

「きみを壊したくなる夜も」/iris & the crowアイリス・アンド・ザ・クロウ


【歌唱】

センター:諏訪セナ

→ 深みのある声質と低中音域での色気・哀しさを活かした表現が得意です。

→ 地声〜ファルセットの自然な行き来を含む構成も歓迎します。

音域目安:mid1B〜hiC#(要相談)


【備考】

・詞先/曲先どちらでも可

・共作可(事前申告)

・1〜3案まで提出可

・映像とのリンク重視のため、映像を観た上での制作を推奨いたします


感情の揺らぎを抱きしめるような、静かな衝動を届けられる楽曲を心よりお待ちしております。

ご質問等ございましたら、いつでもご連絡くださいませ。

何卒よろしくお願いいたします。


マネージャー 八神

RiseTone Management

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