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スターライトパレード5巻~Prisoner~  作者: 木風


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15/15

第11.5話「初恋と指輪」

※今回はR18描写が含まれます。苦手な方はご注意ください。

『遅くなっても大丈夫なので、セナ君の家で待ってます』


ライブ後、奏から届いた1通のLINE。


明日は奏の誕生日。

もちろん、プレゼントも用意してある。

この4カ月間、奏は学校と勉強に追われ、オレも映画や海外仕事でずっと会えなかった。

やっと会える。

ちゃんと埋め合わせをするつもりだった。


……だったのに。


ライブ後の打ち上げ、今日はいつも以上に偉い人が多くて、なかなか解放されなかった。

その間ずっと、ひとりでオレの部屋にいる奏のことが気にかかって、何度もスマホを見た。


部屋に戻ると、奏が出迎えてくれた。


「ライブ、お疲れさま」


時間はもう、23時を過ぎていた。

こんな時間まで待っててくれるなんて、それだけでライブの疲れが一気に吹き飛ぶ。


「……今、夏休みだろ?明日まではいるだろ?」


抱きしめたかった。

けど、なんとなく距離を感じた。微妙な“壁”みたいなもの。


「あの……その前に、話したいことがあって。いいかな?」

「どした?」


そう言って、奏はソファの隣じゃなく、床に座る。

手には、オレが去年渡した合鍵。


「昨年もらった合鍵……返そうと思って」


キーリングから外そうとする指先。


「……は?」


理解が追いつかなかった。


「キーリングだけは、思い出にもらっておいてもいいかな?」

「……お前、何言ってんのかわかってんの?」


ただの鍵だろ?って、笑える話じゃなかった。

背中が一気に冷えた。


「今のままは良くないと思ったの。今後もみんなの曲は作っていけたらとは思っているけど……」

「受験もあるし、来年までコンペ参加はお預けかも」

「……オレが聞いてんの、そんなことじゃねぇんだけど」


話をすり替えるなよ。

そのどれも、“鍵を返す理由”になんてならない。


「何?お前、オレと別れたいってこと?」

「え……?」


その反応が、余計に腹立たしかった。

たった4カ月で奏の気持ちが離れるようなことがあるなんて理解できるわけがない。


「会ってない4カ月で、オレ以上の男でもいた?」


まさか……レオか?

いや、レオも同じように忙しかったのは知ってる。

それでも、頭の中に浮かんでしまう。


気づけば、感情が暴れていた。

……オレから、離れる?

……他の男のもとに、行く?


そんなの、想像するだけで気が狂いそうだった。


「オレ以外の男の所に行くなんて許さない。 絶対逃さない!

オレがお前手に入れるために、どんだけ我慢してたと思ってんだよ!」


オレなりに、抑えてた。

待ってた。

全部、奏のためだった。


「絶対別れないし、手放してなんかやらない」


そのまま、奏の腕を掴んで、寝室へ向かう。

もう奏の気持ちなんて知るか。我慢なんてしてやる気はもうない。

そのまま寝室に連れて行って、ベッドの上に押し倒す。


「セ……ナ……君……」


ベッドに座り込んだ奏の瞳が、おびえたように揺れている。

いつもなら、こんな顔を見せたら、すぐに謝って機嫌を取る。

でも今は……そんな気持ちすら、打ち砕かれていた。

黙って、シャツを脱いだ。


「こんなんなら、1年前にとっととオレのもんにしとけば良かったわ」


1年前。

このベッドで、オレは奏にピアスの穴を空けた。

……あの時、全部奪っていれば。

こんな不安に、押し潰されなくて済んだのに。


「他の男になんて、絶対にやらない」


シャツを床に落とす。


「そんな……っ」


何かを言いかけた奏の口を、塞いだ。

指が……震えて止まらない。


「セナ君……待って」

「待たない。だってお前、オレのこと捨てようとしてんじゃん」


悲鳴にも似た……初めて口にした懇願するような言葉だった…… 今まで一度だって口にしたことない。

捨てたり捨てられたり。日常茶飯事。そこに傷つくことなんてない

初めて……

“追いかける”ことが、こんなにも苦しいと思った。

諏訪セナらしくない、なんてわかってる。

でも、お前だけは、譲れないんだよ。


「違うよ……私は……セナ君の“ちゃんとした彼女”になりたいんだよ」


……ちゃんとした、彼女?

軽井沢で酔った勢いで言った……


『お前のこと、ちゃんと好きなんだよ。

……いつも、我慢してんの。……今日も、今も』


その後のクリスマス、奏が言った……


『……やだ……』

『……離さないで……』


……それで、てっきり。

オレはもう付き合ってると思ってた。

奏は、オレの“彼女”だと思ってた。


「キスしたり、抱きしめられたりするの、嬉しかったけど……

軽井沢で『好き』って言われたきりで、この関係が何なのか、わからなくて」


……まさか、オレだけだった?

全部、独りよがりだった?

奏を悩ませてたこと、気づいてすらいなかった。


「オレが……お前をどんだけ好きだと思ってんだよ……」

「……だって……」

「オレが奏のこと、どんな目で見てたか、まだわかんねぇの?」


そっと、奏の頬に触れる。

怯えていた顔が、ほんの少しだけ緩んで見えた。


「……セナ君」

「ってかクリスマスから、彼氏になったつもりでいたんだけど」

「え!?」

「はぁぁぁー……くっそだせぇ」


さっき、思いっきり掴んでしまった腕に、指を伸ばす。


「わり……さっき乱暴にした……痛くない?」

「うん……ちょっと驚いたけど」


そのまま、奏の唇に口づける。

ちゃんと伝えなきゃ。

ちゃんと……言葉で、確かめなきゃ。

オレには奏が必要で、奏と、一緒にいたいんだ。


「オレだって……彼氏になりたかったよ。

初めて会ったときから、ずっと、ずーっと、そう思ってた」


頼むから、もう。

あんな別れ話みたいなのは、やめてくれ。


「ごめんなさい……」

「ごめんじゃなくて、他には? オレは奏が好き。……なんだけど?」


一瞬だけ、不安になる。

また拒まれるんじゃないか、って。

こんなにも好きなのに、まだ“ごめん”しか言ってもらえないのかって。


けど。


「……私も、セナ君が……好きです」


あぁ、やっと。やっと、言ってくれた。

届いたんだ。オレの全部が。


「……オレの彼女になってよ」

「……はい」


その“はい”が、世界で一番欲しかった。

こんなにも、たった一言で救われる日がくるなんて思わなかった。

抱きしめた奏は、相変わらず軽くて、儚くて。

でも、その身体から伝わるぬくもりに、確かな“答え”があった。


「我慢してたんだよ、ずっと。

奏が“まだ”だってわかってたから、焦らないようにしてた」


頬に、耳に、唇に。

そっとキスを落としながら、髪を撫でる。

指先が首筋に触れると、奏がわずかに震える。


……もう、我慢できない。


「……脱がすよ。イヤだったら、止めて」


奏が小さく頷く。

その合図を受け取って、シャツのボタンに指をかける。

いっそ破いてしまいたい衝動を抑えながら、ひとつずつ、丁寧に。

熱を帯びた視線でこちらを見る奏に、ごまかすようにからかう。


「……触ってみる?」

「えっ……!?」

「……ウソ。今はオレが触りたい」


……全部、本当。


いつか、触れてもらえたらいい。

でも今は、奏のすべてを、オレが受け止めたい。


「全部、奏のタイミングでいいから」


それは、奏に向けた言葉であると同時に……

自分自身への、抑えきれない気持ちへの制御だった。


「好きだよ、奏。……ずっと、オレだけの“彼女”でいて」


シャツを脱がせ、スカートに指をかける。

初めて見る、奏の下着姿。


あっちぃ……

本当は、もっとゆっくり眺めたい。

でも、抑えが効かない。


「ダメ……そんなに見られたら……恥ずかしくて……」

「……そーなの?これから、もっと恥ずかしいことすんのに?」

「え……!?あっ……」


奏の可愛い下着をずらすと、柔らかな胸が露わになる。

マジで……可愛い。

そっと先端に触れると、奏の腰がびくんと跳ねた。


ゾクッとした。

俺が何を望んでいるのか、わかっていて……それでも応えようとしてくれる、その気持ちが堪らなく愛しい。

指先で優しくなぞれば、奏の唇からかすかに吐息が漏れる。

その声すら独り占めしたくて、キスを重ねながらも、刺激を与え続ける。


「っ……あ……」


どこに触れても、甘く響く。

そっと手を下へ滑らせれば、触れる前から全身が反応しているのがわかる。


「んっ……」


こんなん……溺れずにいられるわけないだろ。

下着の上からでも濡れているのがわかるほどで、思わず口をついて出た。


「……すご……」

「い……言わないで……!」

「え?」

「……だって……もう、ずっと前から……き、キスされたり触られると……こんな感じになっちゃうの……」


顔を腕で隠しながら、絞り出すように言い訳を続ける。


「じ、自分でも身体がおかしくなったみたいで……」


……もう、可愛すぎてヤバい。

混乱しながらも受け入れてくれるその姿が、たまらなくいじらしい。

思わず、頭を撫でた。


「ん、ありがとう。嬉しい」


そっと、下着の中へ指を滑らせる。

反射的に脚を閉じようとした奏を、優しく押しとどめる。


「大丈夫だから」

「~~~~~!!!」


真っ赤な顔のまま、力を抜いてくれた。

湿った音とともに、今までで一番強く、奏の身体が跳ねる。


「……んっ……♡」


少しずつ……ゆっくり……

キスを交えながら、唇を肌に這わせて、やがて最後の1枚を剥がす。


「や……あっ……」


ライトに照らされた奏の肌は、ほんのり汗ばんでいて、赤く火照っていた。


「……キレイだ……」

「……嘘……」


こんな綺麗なものを、自分の手で汚してしまいそうで……

迷っていた俺の気配を、奏が感じ取ったのか。


「……ねぇ、セナ君。1年前、ここでピアス開けてもらったよね」

「ん?あぁ……」

「あの時も言ったよ。痛くても、セナ君となら大丈夫だって。

今も、同じ気持ちだよ?」


その言葉で、もう止まれなくなった。


「……ふーっ」


ジッパーを下ろし、自分も服を脱いで、奏の足の間に身体を滑らせる。


「あ……う……」

「ん?」

「……やっぱり……え……?だって……そんな……」


あぁ、改めてそういう反応されるとちょっと、動揺する。


「さっきの言葉、撤回するなよ?」

「……ゆっくり、お願いね?」


……なんでこの子は、こうも自然に煽ってくるんだよ……


「……今の言葉で、お願い聞けなくなったかも」

「えっ!?」

「大丈夫。きつくなったら言えよ?」


ベッドサイドから銀色の小さな袋を取り出し、躊躇なく、それを口元に運ぶ。

カサ、と音がして……

咥えたまま器用に袋を破いた。

奏がマジマジと見ているのに気が付く……


「どした?」

「……あ……開けるのも、かっこよくて……」


ふっと笑うような吐息。


「……なにそれ。奏ちゃん、ずいぶん余裕じゃね?」


突然の呼び方に、奏の表情が少し緩んだように見えた


「か、奏ちゃんって……なに、それ……」

「オレ、たまに呼びたくなるんだよね。かわいすぎて、我慢できないと」


焦るな、ゆっくり……。


「奏、力、抜いて」

「はっ……んっ……セナ君……キスして……欲しい」

「マジで……お前、どんだけ好きにさせたら気が済むんだよ……」

「んっ……だって……」


白く滑らかな肌に指を這わせる。


「……今から、ここに入るから。オレの形、ちゃんと覚えろよ?」


驚きに目を見開いた奏が、しっかりと頷いた。

深く、ゆっくり。

奏の呼吸に合わせて重ねていく。


汗ばむ肌が重なり、熱が伝わるたびに境界線が溶けていく。

触れたのがどこまでなのか、求めたのがどこまでだったのか……

もう、わからなくなるほどに。


どこまでも。


どこまでも……。




初めて奏を見たのは、オレが15で、奏が11歳だった。


あの時は、あれが恋だなんて思ってなかった。

埋まらない感情を埋めるために、他のぬくもりを求めて、余計に乾いた。


でも、音楽堂で5年ぶりに見つけたあの瞬間。

世界が色づいた。

あの時から、いや、もっと前から奏はオレの人生を動かしている。


強さも、弱さも、全部が愛しい。

誰にも渡したくない。


きっと奏は、これからもっと綺麗になっていく。

もっと色んな世界を知ってそれでも。

それを、ずっと側で見守らせて欲しい。



……マジで、こいつすぐ寝るよな。

シャワーも浴びず、そのままの格好で。いや、オレ的には最高なんだけど。

もったいなくて、寝顔をずっと眺めてた。


そっと、右手の薬指に指輪をつけた。

起きたら、どんな顔するかな。


去年のピアスも、キーリングも、この指輪も。


今まで、こんなプレゼント誰にもあげたことなかった。

お前は軽蔑するだろうけど……

都合が悪ければブロック。

一晩だけの夜なんて、何度もあった。


そんなオレがこんな面倒くさい女の子に、ハマるなんて。

長い睫毛がふるえ、奏がうっすら目を開ける。


「おはよ」

「わっ……!」


一瞬で自分の状況に気づいて、慌てて布団をかぶる。

そういうとこ、全部ツボ。


「……ひょっとして……見た?」

「寝顔、な。他は昨晩じっくり見たし?」

「!!!!意地悪……!」


拗ねたように背を向けた奏が、指輪に気づく。


「……な、に……これ」

「気に入らなかった?」


いつか、永遠を約束する時には、もっとすげーのを用意する。

今日のこれは、ただの誕生日プレゼント。


「これは普通に誕プレ。こっちは空けとけよ」


そう言って、左手の薬指にキスを落とす。


「オレの彼女は可愛いなって」

「……もう……」

「ちゃんと“彼女”って呼んだからな。逃げんなよ?」

「……うん」


ベッドの中でするこんなやり取りが、こんなに幸せだなんて、昔のオレじゃ想像できなかった。


「朝飯にする?それとも、先にシャワー?」

「えっと、シャワー……」


ぱっと起きた奏が、へにょっとベッドに倒れ込む。


「どした?大丈夫か?」

「……」

「奏?」

「あの……足とか、腰とか違和感があって、立てない……」


……昨晩の奏を思い出す。

ああ……そっか、奏、初めてだったもんな。


「わっ……セナ君!?」

「暴れるなって。風呂場まで連れてくから」


布団ごと抱えて脱衣所に運び、そっと降ろす。


「湯船、もう溜まってるから。ゆっくりな」

「あり……がとう……」

「……それとも、一緒に入る?」


一瞬で固まったのがわかった。

ちょっとからかいすぎたか……朝飯にしよっかな。


「……はいる」


……は?

奏さん、1日で進化しすぎじゃない???

二度見してしまった俺を、奏が耳まで真っ赤にして見返してくる。


「ただ、洗い終わるまでは……入ってきちゃダメ」


なるほど、そういうことね。


「わかった。合図あったら行くわ」


湯気に包まれたバスルーム。

ジャグジーが静かに泡を立て、ライトが柔らかく反射している。

先に入っていた奏は、湯船のいちばん端にちょこんと座っていた。


「なんでそんな端っこにいるんだよ」

「だって、濡れてるセナ君って……なんか、すごくて……」

「すごくてって……オレ、アイドルだし?」


奏が眉を下げて困ったように笑う。

言葉にならない気持ちは、きっと俺も同じだ。


「見慣れるまで、毎日入る?」

「無理っ!」


泡の中でゆらゆら揺れる奏を見ていたら、瞼がとろんとして、肩まで湯に沈みそうになる。


「……奏?」

「うん……大丈夫……あったかくて……ねむい」


ふわっと身体の力が抜けたその瞬間、湯の中でそっと身体を引き寄せて、自分の胸に抱き寄せた。


「ったく……ほんと、オレの前ではすぐ寝るな、お前」


腕の中で、奏が微笑んだ気がした。


「……セナ君……」

「ん?」

「……ずっと、こうしてたいかも……」


何気ないその言葉が、胸の奥をじんと打つ。


「……オレも」


静かな水音と、泡の音。


熱い湯と、柔らかな肌と、ぬくもりだけが、今ここにあった。

この時間が終わってほしくないと、心から思った。

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