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サンクチュアリ・バーテンダー・ストーリー①

今日のトレジャーハンター系バーテンダー:ココ(足が速い)


 蕩湯屋。人々を癒し楽しませる様々な施設が詰め込まれた、世界を飛び回る不思議な大船。

 私はそんな蕩湯屋の隅っこにあるバー、サンクチュアリで働いている。

 この蕩湯屋には私を含めて多くのヒトが働いているけど。私達はこの蕩湯屋で働いていると同時に、住んでもいる。

 さっき言った通りこの蕩湯屋は巨大な船だ。ちょっと一旦、『空を飛ぶ巨大な船』というのがどの位の大きさなのか想像してみて欲しい。

 ………………………。

 多分その想像よりずっと大きい。

 何度も言う通り蕩湯屋は空に浮かぶ巨大な船。そしてその中心には、人々を招き癒す施設が数多に存在するメインフロアがある。そしてしかしその下層には、従業員たちが住み暮らす居住フロアが存在しているのだ。

 そしてそれは最早町と呼んでもいい位の規模。私は出勤前、自分の『家』のソファに寝っ転がりながら新聞を読んでいた。


「某大国同士で戦争の兆し……しかしそれをいち早く察知したのか、殺戮の淫魔とも呼ばれる魔人ハーランが異例の声明……『もしもどこかで誰かが戦争を起こしたら関係者を偉い奴順に殺す。命乞い無用』……元気にやってるなあハーランさん」


 ハーランさんに誰かを助けたいという意思は絶対全く無いと断言出来るけど。それでも戦争を阻止しているというのはものすごいコトだ。戦争を止める傍らで自分は好きにヒトを殺す……う~ん、なんとも奇妙なヒトだな、やっぱり。


「オオツキの1人ムカデが新しい研究の被験者を募集……『肉体的精神的両面において強靭であれば種族や年齢は問わない。破格の報酬を約束するが、身心の安全は一切約束しない。報酬の受領者と遺言は事前に慎重に検討しておくことを推奨』……へあ~」


 オオツキ、か。ハーランさんに負けず劣らず……いや、それ以上に名前を聞く人たちだ。

 なんだか凄い人達だって事位は知ってるけど、正直詳しくはない。なんかすごい技術者? 研究者? そんな人達だって話だけど。


「…………あ、そろそろ時間」


 ダラダラタイムも瞬く間に過ぎて。私はサンクチュアリへと赴くのだった。



「おはようございま~す」

「あら、おはようリリィちゃぁん!!! 今日もいい日ね~」


 店に着くと、ママがいつもの様に開店準備をしていた。相も変わらず元気そうだ。


「そうだねママ。今日は他の2人は?」

「バルドちゃんはまだ出てるみたい。まああの子ならそのうちひょっこり帰って来るでしょ」

「犬か猫みたいな扱いだね」

「ココちゃんなら……」

「ココちゃんならここに居ますよ☆」


 バックヤードからひょっこり顔を出したのは、背の低い人間の女の子。ココ。まあ子って言っても子供って訳じゃ無い……でも背が低いしなんかいつもチャカチャカしてるし……つい幼い印象を受けてしまう。私とほぼ同じ時期に働き始めたし、多分歳も近い筈なんだけど。

 ともあれ、ココも元気そうだ。今日もしいたけみたいな目で安心する。


「久しぶりココ。今回のトレジャーハントはどうだった?」

「いや~もうそれがもうすごいもうすごく!!」

「すごく?」

「大外れでした!!!! 大き~~い得体の知れない廃城を突き進んで、どこからともなく湧いてくるアンデッドをドコドコボコバキドンジャカズガーーーン☆ って薙ぎ倒しまくって!! そんで隠された地下室に潜んでいた元城主の大悪霊めいた奴を色々頑張って倒して!! 最終的にソイツが『我が魂を解放してくれて感謝する……』とか言うから『感謝してるならお宝を隠してる場所教えてください☆』って言ったら『我貧乏城主だったからそんなもの無い……さらばだ……』とか言われて!! 結果なんも無しですよ!! 笑っちゃいますよホント☆」

「あはは」

「何笑ってるんですか」

「えぇ……」


 困惑する私に、ココがスッと白い塊を差し出した。妙に大きい。


「お土産です☆」

「なにこれ」

「城主さんのお尻の骨です」

「いらない」

「えー」


 えーじゃないんだよ。


「ほらほら、お土産話もいいけど。2人共ちゃっちゃと準備済ませちゃって! 今日はそこそこお客さんが来る筈よ~、お客さんの入りも盛況だし、団体さんが蕩湯屋にいらっしゃってるらしいわ~」


 ママがパンパンと野太い掌を叩き合わせる。


「ん、そうなんだ。この間は酷かったから今日は稼がないとね」

「全くね!!」

「ほら、ココ。着替えるよ」

「は~い☆」


 私達がバックヤードで準備をしている最中、ココが懲りずに話しかけて来た。


「そういえばリリィさん、この間ここに魔人ハーランが来たってホントですか?」

「え、うん。そうだよ。私が接客した」

「へ~……その、なんていうか。どうでした?」

「どうって?」

「いや~、やっぱ気になるじゃないですか~。私も流石にまだ魔人を接客した事は無いですし☆ あと実は昔、魔人ハーランの大立ち回り……というか殺しを直接視る機会があってぇ……すごかったんでぇ……大丈夫だったのかなぁってぇ……」

「ん~~」


 殺気を向けられたり殺気を返したり、ナイフを投げるギリギリ手前までいったり、結果一緒にお酒を飲んだり。


「楽しいヒトだったよ」

「は~~……」


 ココは私の顔をマジマジと見ながら息を吐いた。


「なに?」

「いえ、その」


 ココはキョロキョロと視線を彷徨わせたかと思うと、私の目を覗き込んだ。


「やっぱり、リリィさんも大概変なヒトだなって☆」

「え、悪口?」

今日の討伐対象:名も無き城主(手が早いせいで刺された)

決まり手:ココちゃんダイナミック鈍器殴打☆

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