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第32話

 広場での戦いが終わってから、いくつもの季節が流れた。


 オルディアとリュオールの国境付近の街『グラノール』。


 夕暮れの灯りが滲む酒場で、オゼットとステイルは並んでジョッキを傾けていた。



「はぁ~……。やっぱり納得がいかねえ」



 カウンターの丸椅子に座ったステイルが不満を漏らす。



「キースとメリーちゃんはわかる! ゲイルとエニスにも納得がいく! けど、なんでクラウスとリリアが俺たちより先にくっ付いちまうんだよ⁉ アイツら男同士だぞ!」



 勢いよく立ち上がった声が店内に響き、数人がこちらを振り返る。



「おい、ステイル……。声がデケぇ……」



 オゼットが肩を押して座らせると、ステイルはカウンターに突っ伏した。



「俺らなんか未だにオーケーもらえてねえのに……。シンクと副隊長さんはさっさと結婚しちまうし、フラットとレミは修行の旅に出ちまうし……。みんなもうバラバラだよ……」



 ジョッキの縁を指でなぞりながら、ステイルは深いため息をつく。



 戦いが終わった(あと)


 キースとメリーは無事に助かり、後遺症もなく復帰した。


 実はあの(あと)、輸血も行われており、キースは第一魔法小隊の魔法使いたちから、メリーは亡くなった直後のギルベルトの遺体から血をいただくことになった。


 そのとき、生徒たちは初めて知る。


 キースとメリーが“血の繋がらない双子”であったことを。


 ティゼルから魔核を移植され、ギルベルトの血を取り込んだメリーは、復活後に魔力量がぐんと跳ね上がった。


 今はキースと一緒に海外の魔法学校に留学している。


 戦いをくぐり抜けた二人は夢に向かって再出発を果たした。



「フラットがルキウス殿下の護衛に選ばれたのは想定内だが、まさかレミまで行っちまうとはな……」



「〝運命の女神〟だか〝恋愛の女神〟だか知んねえけど、魔法使いが聖女様のもとで修行するなんて聞いたことねえよ……」



 ルキウスはこれまで通り世界を巡る旅へ。


 その護衛の一人にフラットが選ばれた。


 エレノアは〝世界の救済〟を掲げて教会を飛び出し、ルキウスに同行。


 レミはエレノアの弟子として修行を積み、帰還後は教会に入る予定だ。



「あのときはさすがに驚いたよな。まさかレミが“神の加護”を二つも持ってたなんて」



 戦いの(のち)に判明した事実。


 レミはエレノアと同じ“神の加護”を授かった少女だった。


 運命の女神と縁結びの神。


 人の運命を変える力と人の繋がりを導く力。


 本人はまったくの無自覚だったが、その潜在能力をエレノアに見い出され、弟子入りを果たしたのである。



「レミの加護のおかげで、ルキウス殿下とエレノア様はよりを戻せた。他のみんなもうまくいってる。だから余計に納得いかねえ」



 ステイルはジョッキを握りしめ、オゼットにぼやく。



「みんなしっかりくっ付いたのに、なんで俺たちだけフリーなんだよ……。ああ~、イレーヌちゃんに早く会いてえ……」



 確かに交際のオーケーはもらえていない


 だが、ステイルとイレーヌの交友関係は今も続いている。


 その事実がどれほどの幸運か、当の本人は気づいていない。



「……ところで、クラウスとリリアはどうすんの? アイツら、このまま結婚すんのか?」



「さあな。本人たちはその気みたいだし、クラウスは元々そういうのをあまり気にしねえタイプだからな。なんだかんだ、うまくやるだろ」



「……夜の生活とかどうしてんの?」



「その辺は大丈夫みたいだぞ。クラウス曰く、リリアが相当なやり手らしい。尻に敷かれるどころか毎日骨抜きにされてる……だとか。俺の嫁は世界一可愛いって、みんなに自慢してやがった」



「……なんか、ちょっと羨ましい」



「……」



「俺なんか、たまに会ったときしか相手にしてもらえねえのに……」



「ぶっ――‼」



 オゼットが思わず酒を噴いた。



「え、何……? お前ら、体の関係持ってんの……?」



「うん。一応……」



「……」



「そういう、お前は?」



「あー、実は俺も……」



 オゼットが苦笑して後頭部をかく。



「……ミレーヌちゃんと?」



「うん」



「……」



「なんだよ! なんだかんだ言って、結局みんなうまくやってんじゃねえか!」



 オゼットは笑いながらステイルの肩をぱしぱし叩く。



「はぁ……。俺は毎日でも会いてえのに……。せっかく国境の警備につけたのに……」



 ステイルの肩は、なおも重い。



「次に会うのはいつだよ?」



「二日後」



「なら、それまでの辛抱だ。今は飲んで、時間のことは忘れろ」



「……ちなみにお前は?」



「四日後」



「最後に会ったのは?」



「えーと、一昨日(おととい)だったかな……」



「お前、それでよく我慢できるな」



 その瞬間、オゼットの動きが止まる。



「おい、ちょっと待て……」



「……?」



「お前が最後にイレーヌちゃんと会ったのは?」



「昨日」



「……は?」



 五秒ほど、オゼットの体内時計が固まる。



「ちなみに、月にどれくらい会ってる?」



「週二」



 オゼットを含む、二人の話に聞き耳を立てていた店員と客が、同じタイミングでひっくり返った。



「「「おいっ――‼」」」



 ステイルは相変わらず沈み顔のまま。


 ため息の数だけテーブルを指で叩いていた。



「ふざけんなっ! 俺なんか週一しか会ってもらってねえんだぞ⁉ 今すぐ俺の心配返せ! つーか今日は、お前が奢れ!」



 オゼットが怒って噛みつく。


 だがステイルは、遠くを見るように呟いた。



「はぁ……。イレーヌちゃん……」



「こんの……!」



 酒場の喧噪に紛れ、オゼットの罵声とステイルの嘆きが夜更けまで続いた。


 これより十数年先。


 彼らは再び戦乱に巻き込まれる。


 しかし、それはまた別のお話。


 戦争終結に尽力した若き英雄たちは、束の間の平和を堪能するのだった。

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