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第31話

「それは本当なのか、エレノア?」



 ルキウスがたずねた。



「はい。――しかし」



 エレノアは続けることを躊躇(ためら)う。


 そこでティゼルが口を開いた。



「迷う必要はない。その方法でいこう」



「っ――⁉」



 彼の言葉に、エレノアは驚く。



「しかし、それでは――」



「わかっている。だが私は、この者たちを命に代えても守ると決めた。誰一人欠けることなく戦いを終えられるなら、安いものだ」



 会話の意味を理解している者は、ほとんどいない。


 二人の間だけで成立していた。



「殿下。一体なんの話を?」



 ヴァネッサが問う。


 ドレッドノートの隊員たちも息を呑んだ。



「私の魔核をメリー・ルークに〝移植〟する」



「「「っ――⁉」」」



「それ以外に彼女を救う手立てがない」



 レミが震える声でたずねた。



「魔核を移植って……。――それじゃあ、シンクは?」



 ティゼルの代わりに、エレノアが答える。



「ティゼル王子の魔核を移植すれば、この()の命は助かります。ですが、その場合……。王子は二度と魔法が使えなくなってしまうのです」



「「「……」」」



 これが、エレノアが言い淀んだ理由だった。



「そんな……。せっかく魔法が使えるようになったのに……」



 レミがうつむく。



「殿下。その選択は王族としてあるまじき行為です」



 ヴァネッサが諫める。



「殿下のお力があれば、この先――何千、何万という民の命を救えます。目先のことだけでなく、未来のこともお考えください」



「……」



 彼女は正しい。


 さらに言えば、ティゼルはただの戦士ではない。


 民を導く王族の一人。


 メリーのためだけに失われてよい戦力ではない。



「案ずるな。確かに魔法は使えなくなるが、魔力そのものを失うわけではない。諸君らの力添えがあれば、私はこれからも戦える」



 ティゼルは、ドレッドノート全員に向けて静かに言い切った。



「それはダメだ、シンク!」



 クラウスが前に出る。



「聖女エレノア! 移植するなら俺の魔核を使ってくれ! メリーを最初にジャガーノートに誘ったのは俺だ! 俺に責任を取らせてくれ!」



「……クラウス」



 彼の目は真剣だった。


 隣のリリアは、思わずその(おとこ)らしさに胸を撃たれる。



「残念ながら、それは不可能だ」



 ティゼルが首を振る。



「これは私の魔核だからこそ、可能なのだ」



「……どういうことだよ?」



「貴君の魔核を取り出した瞬間、貴君は死ぬ」



「っ――⁉」



「貴君は魔法に覚醒してから年月が経ち過ぎた。身体は既に魔力回路に深く浸食されている」



「……」



「だが私は違う。私はまだ魔法に目覚めたばかりだ。身体が魔核を〝異物〟と認識している今だからこそ成り立つ救命措置なのだ」



 ティゼルの言葉に、クラウスは肩を落とした。



「それじゃ俺は……、また何も出来ねえのかよ……」



 あまりの悔しさに、彼の目から涙がこぼれる。



「貴君は、これまでの戦いで上げた成果をわかっていないようだな」



「……?」



「貴君の言葉には、私には持ち得ぬ大きな力がある。此度(こたび)の戦で、貴君の叫びに心を動かされた者は一人や二人ではないはずだ」



 第一魔法小隊に所属する一部の魔法使いたちがうなずいた。



「クラウス。私がこの選択を迷わず選べたのは、貴君のおかげだ。貴君のまっすぐな声を一度でも聞いた大人は、自身に恥じる行いを二度と選べぬであろう」



 個人の力で世界は変えられなくても、自分の生き方は変えられる。


 誰もがそう思った。



「長話が過ぎた。――エレノア殿。魔核の移植を頼む」


「……承知いたしました、ティゼル王子」



 エレノアが術式陣を展開する。


 淡い聖光が広場を満たし、祈りの声が重なる。


 誰もが息をひそめ、ただ成功を願った。


 やがて光が収まる。


 静寂ののち、拍動がひとつ、確かな生命を告げた。


 こうして、彼らの戦いは幕を下ろした。




 ――――――――――――――――――――




「父上。兄上が敗れたようですね」



「ああ、そのようだ……」



 ここはオルディア王国の王宮。


 謁見の間でオルディア王・ギルダートと第二王子のゼノールが向かい合っていた。



「兄上は最強の魔法使いでした。側にはギルベルト殿や第一魔法小隊もいたはず。その兄上が敗れるなんて、一体何をすればそんなことになるのです?」



「ゼノール。貴様は戦いの報告を受けてここに来たのではないのか?」



「詳しくは知りません。私はただ兄上が死んだとしか」



「……リュオールの第二王子が戦いの最中(さなか)、魔法に目覚めたらしい」



 ギルダートの言葉に、ゼノールが眉をひそめる。



「なるほど。噂の第二王子ですか。……それで父上はどうなさるおつもりなのです? まさかこのまま引き下がるなんてこと、ありませんよね?」



「……」



「……はあ。ここでだんまりとは、父上とあろう者が、情けない」



 ゼノールが呆れる。


 しかし、ギルダートにも言い分はあった。



「死んだのはザナトスだけではない。此度(こたび)の戦でギルベルトも力尽き、エレノアも敵の手に落ちた。これ以上、私にどうしろと言うのだ?」



「魔法ばかりに依存しているからそんなことになるのです。今や時代の最先端は我々ではない。これからは魔法の才を科学で補う時代。世間の波に逆らわず、身を任せればいいのです」



 ゼノールの言葉に、ギルダートが首を傾げる。



「……お前の言は矛盾している。先ほどは負けを認めぬと、そう申したばかりではないか?」



「やれやれ。ギルベルト殿は私以外の弟子に恵まれなかったようだ。――目先の勝敗など、どうでもいい。水面下で成果を上げれば、ね」



「……ゼノール。貴様は一体何をするつもりだ?」



「残念ながら、それは父上にもお話できません。私の計画は十年、二十年後に破裂する〝時限魔弾〟みたいなものですから」



「……」



「おそらくリュオールは和平を望むでしょう。そして、今はそれで構わない。最後に勝つのは私か、あるいは私の子どもか。いずれにせよ、オルディアに敗北はない。――私の計画で平和ボケした無能者どもに地獄を見せてやります」



 ゼノールの思考は、ギルダートやザナトスをはるかに上回っている。


 この国でそれを理解できる者は、誰もいない。



「父上。ここで一つ、予言を啓示しておきましょう」



「……?」



「――――カマト。父上はこの一語だけを覚えておいてください」



 そう言ってゼノールは謁見の間を去った。


 部屋にはギルダートだけが残される。


 ――(のち)に、リュオールとオルディアの間で終戦協定が結ばれた。


 戦争は確かに終わった。


 しかし、全ての戦争がこの世からなくなったわけではない。


 戦争の火種は、常に水面下でくすぶり続けている。


 結局のところ、人間とは束の間の平和を楽しむ生き物でしかないのだ。

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