第29話
「ちっ! あの野郎、マジでめんどくせえ!」
ザナトスが舌を打つ。
直後にザナトスはルキウスの放った魔弾の銃の魔弾を回避した。
ルキウスはアイネスヴェルグ城の屋上にいる。
ザナトスは上空からの接近を試みるが、なかなか彼に近づけない。
ルキウスの射撃は恐ろしく正確だった。
ある程度の距離まで近づくのは難しくない。
しかし、肉眼で捉えられる距離になると。
ルキウスはスコープを覗かず正確な射撃を連続で撃ち込んでくる。
そうなると、さすがのザナトスも距離を取らざるを得ない。
遠距離から魔法を放とうにも、ルキウスがその時間を与えない。
彼の強さはザナトスの予想を大きく上回っていた。
「……はあ、もういいや。どうせ最後は捨て駒にするつもりだったし」
そう言ってザナトスは、少し離れた場所で待機していたエレノアを重力魔法で引き寄せる。
彼女の襟首を掴んで自分の盾にした。
「っ――⁉」
ルキウスは明らかに動揺していた。
トリガーにかかった指先がぶるぶると震え出す。
「――はい、おしまい」
ザナトスが空中から強力な攻撃魔法を放つ。
次の瞬間、彼の放った黒い魔弾がアイネスヴェルグ城の屋上を屋根ごと吹き飛ばした。
「エレノアを犠牲にする覚悟があったら勝てたかもしれないのに。所詮は欠陥品か」
ザナトスは、すぐにルキウスという存在から興味を失った。
「さて、広場の方はどうなったかな? アイツら、僕が見てないとすぐに仕事をサボるからな……」
ザナトスはエレノアを連れて広場の方に戻っていった。
――――――――――――――――――――
広場の戦い。
アルゼリウスとギルベルトは空中で激しい攻防を繰り広げていた。
互いに即死級の攻撃を眉一つ動かさず対処している。
「い、一体いつまで続くんだ……。この戦い……」
二人の戦いを見守っている者は大勢いた。
遠くから眺めている彼らの方が、緊張でゲロを吐きそうになっていた。
「何故だ⁉ 何故あなたはこれほどまでに強い⁉」
アルゼリウスがギルベルトのマジック・シールドに魔装の拳の連弾を浴びせる。
「あなたは魔法の全てを知り尽くし、それを極めんがために人道を踏み外した! それなのに何故あなたの心はこれほどまでに燃えている⁉」
「ほっほっほっ。このワシが人道を踏み外したじゃと? 否定はせんが、ワシは心まで闇に染まったわけではない。魔道を極めるため、自らその領域に足を踏み入れたのじゃ」
ギルベルトが闇の衝撃波でアルゼリウスを突き放す。
「光と闇。その両極を知り得た者だけが真の魔道にたどり着く。闇に落ちては長年かけて手に入れた光の魔道が失われてしまうではないか。――凡人の貴様には決して理解が及ばぬ領域よ」
アルゼリウスはギルベルトが放った魔弾の連続攻撃を魔装の拳で撃ち落とした。
「理解はできる。しかし、実際にやろうとは思わない。大切なものを失ってまで自身の趣味に没頭できるほど、私の視野は狭くない」
アルゼリウスの撃ち込んだ拳がシールドに弾かれる。
アルゼリウスは一回転して時計台のてっぺんに着地した。
「ほっほっほっ。だから貴様は何をやっても中途半端なんじゃ」
ギルベルトが言った。
「貴様は王なのか、戦士なのか……。王ならば貴様は決して前線に来るべきではなかった。確かに貴様の視野はワシより広いかもしれぬ。しかし、全ての物事において考えが浅い」
「……」
「貴様は自分の目に映る世界が世の全てだと思っておるのか? この世には目に映らぬ存在や知識の方がはるかに多い。貴様は王としてワシの前に姿を現したが、貴様が動くことによって周りの者たちがどれだけ振り回されているか、少しは考えたことがあるのか?」
ギルベルトが折れた杖の先をアルゼリウスに差し向ける。
「……私の考えが間違っていると?」
「正誤の話ではない。貴様はこの場においてもワシの言葉一つに惑わされておる。人道にして王道を歩みながら、未だに己の信念すら信じきれていない」
「……」
「その迷いが半端な覚悟を生み、半端な覚悟が迷いを生む。貴様は自分自身の立ち位置すら見定められておらん。――だから貴様はいつまでもこのワシに勝てぬのじゃ!」
ギルベルトが攻撃魔法を放ち、アルゼリウスは素早く時計台から飛び退いた。
直後に時計台が魔弾によって破壊される。
「改めて問おう、アルゼリウス」
ギルベルトがアルゼリウスの魔装の拳をかわし、続けて飛んできたハイキックも宙返りで回避する。
「貴様は王なのか、戦士なのか。いずれにせよ今の貴様ではこのワシは倒せぬぞ」
アルゼリウスの攻撃が空振りに終わり、彼は一旦地面に着地した。
だが再び攻撃を仕掛ける気配はない。
「父上……」
ティゼルがアルゼリウスの心配をする。
「私は王としてここへやって来た。あなたを止めなければ、この戦いに勝利はない。そう確信したからだ」
「……」
「現状、あなたとまともに渡り合えるのは私だけ。しかし、王のままではあなたには勝てない。私も一度原点に戻る必要がありそうだ」
そう言って彼はティゼルの方を見た。
「ティゼル。ギルベルト殿を止めるには、私も全力を費やさねばならない。全軍の指揮は現時点をもって再びお前の手に委ねる。例えこの身が朽ち果てようとも決して歩みを止めるな」
アルゼリウスはティゼルが何かを言う前に、再び戦地に舞い戻った。
「うおおおおおおぉぉぉぉっっ――――‼」
アルゼリウスの動きが空中で急加速する。
全体重を乗せた拳がギルベルトのマジック・シールドを打ち砕いた。
そこからさらに接近。
「速い……!」
反撃の暇を与えず、至近距離から拳を連打。
「ぐぉっ!」
左右の連撃の後に後ろ回し蹴りを繰り出し、ギルベルトをぶっ飛ばした。
アルゼリウスの攻撃が初めてクリーンヒットし、ギルベルトは背中から建物の壁に突っ込んだ。
「ギルベルト様!」
二人の戦いを見守っていた魔法使いが叫んだ。
アルゼリウスの攻撃が何故いきなり当たるようになったのか。
理由は簡単。
彼が回避や防御を捨て、攻撃のみに集中するようになったからだ。
今の彼は王としての立場を捨て、ギルベルトを倒すために文字通り命を懸けている。
「……やってくれるわい」
建物の壁が崩れ、その中からギルベルトが姿を現した。
「ようやく腹が決まったか……。これでワシも心置きなく戦える……」
まるで今までが本気でなかったかのような口ぶりだ。
「とりあえず――」
「っ――⁉」
その瞬間、アルゼリウスはギルベルトの姿を見失った。
気づいたときには、魔法で強化されたギルベルトの拳に顔面を殴り飛ばされていた。
「一発殴り返しておこうかの」
「くっ――!」
アルゼリウスは建物の壁に対して垂直に着地する。
「このジジイ……」
アルゼリウスはすぐにギルベルトに向かって飛び出した。
「いい加減にくたばれ! この死にぞこない!」
ギルベルトがアルゼリウスの拳をひらりとかわす。
「ほっほっほっ。それが一度は師と崇めた相手に言う言葉か?」
「黙れっ! 技の一つも伝授しないで何が師匠だ! アンタからもらったのは負けの記憶と無駄に長い説経だけだ!」
ギルベルトの姿が再び消える。
アルゼリウスの回し蹴りは空振りに終わった。
「貴様はその敗北から何を学んだ? 貴様はワシの説経に一度でも耳を貸したことがあったか?」
アルゼリウスの背後にギルベルトが出現。
「ちぃぃっ――!」
アルゼリウスはギルベルトに背中を取られた。
ギルベルトが至近距離から衝撃波を放ち、アルゼリウスは振り向きざまにガードする。
「魔法を使えない無能者に魔法を学ばせてなんになる⁉ そうやってアンタはいつもこの私を見下していた!」
衝撃波に吹き飛ばされたアルゼリウスが空中で体勢を立て直す。
そして真正面からギルベルトに突っ込んでいった。
「これでもワシは貴様を評価しておったのだぞ。貴様にとって魔法を知ることは、敵を知ることに他ならぬ」
ギルベルトも自ら前に出る。
アルゼリウスの右ストレートを斜めに回転しながら回避し、仰向きの体勢から足を真上に振り上げた。
「ごあぁっ――!」
ギルベルトの足の甲がアルゼリウスの顔面を捉える。
アルゼリウスはギルベルトが蹴りを最後まで振り抜く前に、両手でその足にしがみついた。
「っ――⁉」
「……ようやく捕まえたぞ、ジジイ!」
アルゼリウスは関節技でギルベルトの足首をグキリとへし折った。
「うぬぅぅ……!」
ギルベルトがアルゼリウスの腹に折れた杖を押し当て――――爆発させる。
「がはぁっ――!」
アルゼリウスが口から血を吐き出した。
「父上っ――‼」
地上でティゼルが叫ぶ。
アルゼリウスは腹部の激痛をグッと堪え、ギルベルトの顔面を思いきり蹴り上げた。
「ぶぉっ――‼」
ギルベルトの体が大きく吹き飛んだ。
マジック・シールドで直撃は防いだものの、衝撃が脳にまで伝わる。
「少しは効いたか、ジジイ⁉」
「くっ……。この年にして寿命がさらに縮んだわい……」
アルゼリウスが魔装の拳に全魔力を注ぎ込む。
彼の全身から魔力のオーラが溢れ出した。
「お迎えの時間だ――――ジジイ」
アルゼリウスが拳を振りかぶり、ギルベルトの懐まで一気に潜り込んだ。
「勝負を急ぎおったな、若造が!」
そう言ってギルベルトが折れた杖を復元させ、そして構える。
「やかましいんだよ、くそジジイがぁぁぁぁ――――‼」
ギルベルトが咄嗟に展開したカウンター・マジックに向かって、アルゼリウスが全力で拳を叩きつけた。
「「っ――‼」」
アルゼリウスの拳をギルベルトがカウンター・マジックで跳ね返す。
アルゼリウスが気合でさらにそれを押し返した。
「うおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉっっ――――‼」
「ぐぬぬぬぬぬぬぬぅぅぅぅっっ――――‼」
両者の魔力がせめぎ合っている。
そして二人が放った最後の攻撃は、両者の間で大爆発を起こした。
「「「っ――⁉」」」
広場内に爆風が吹き荒れる。
すると爆煙の中から、全身が黒コゲになったアルゼリウスが落ちてきた。
「父上――‼」
ティゼルが地面に落下したアルゼリウスのもとに駆け寄っていく。
アルゼリウスは意識を保っていたものの、もはや戦闘は不可能だった。
「はあ……。はあ……。はあ……」
ギルベルトもかなりのダメージを負っていたものの、未だ健在だった。
しっかりと意識を保ち、空中に浮かび続けている。
「思い知ったか、若造が……。貴様がこのワシに歯向かおうなど百万年早い……」
この戦いの勝利者はギルベルトだった。
つまり今回の戦争の結果は、リュオールの敗北である。
「父上! しっかりしてください!」
「ぐっ……、ああ……」
アルゼリウスは全身のやけどの他に数えきれないほどのケガを負っていた。
この状態で生きているのが不思議なくらいだ。
「ティゼル……。すまん……」
瀕死のアルゼリウスがティゼルに向かって謝罪の言葉を口にする。
「私一人の力では……、あの方を止めることが出来なかった……」
「父上……」
何もできなかったのはティゼルも同じだ。
アルゼリウスは彼と同じ無能者であるにもかかわらず、あの伝説の魔導師を敗北寸前にまで追い詰めた。
アルゼリウスの敗北を責められる者など誰もいない。
「ほっほっほっ。以前に比べて少しは成長したようだが、まだまだじゃ」
ギルベルトが地上に降りてくる。
「ここでワシに敗北したことに感謝するがいい。ザナトス殿下はワシよりも強く、はるかに残虐じゃからな」
この戦争の勝敗を二人の戦いに委ね、犠牲者の数を限りなく減らすことができた。
本当ならもっと多くの人間がこの戦争で死んでいたはずだ。
「ギルベルト殿……。やはりあなたはすごいお方です……」
アルゼリウスが賞賛の言葉をギルベルトに贈った。
「当然じゃわい。このワシを誰だと思っている?」
ギルベルトは謙虚な姿勢を見せることなく、大きく胸を張った。
「……じゃが、さすがのワシも少し疲れたわい。――そこのお前さん。このご老体に肩を貸してくれ」
ギルベルトが近くにいた魔法使いに言った。
「はい、ギルベルト様」
その魔法使いだけでなく、彼以外の魔法使いたちもギルベルトの側まで移動し始めた。
「二百年続いたリュオールの歴史を私の代で終わらせてしまった……。まったく情けない話だ……」
アルゼリウスががっくりと肩を落とす。
「今は命があったことだけでも感謝しましょう。父上が生きていれさえすれば、我々は必ず新たな道を開ける」
ティゼルが言った。
「あのザナトスが我々にそれを許してくれるか……」
アルゼリウスがそう言った瞬間――――
「……ギルベルト様?」
ギルベルトに肩を貸していた魔法使いが言った。
「そんな……。――――今すぐ蘇生の準備に入れ!」
様子がおかしい。
先ほどまであれほど元気だったギルベルトが死人のようにぐったりしていたのだ。
「オルディアの魔法使いたちよ。一体何があった?」
ティゼルが魔法使いたちの側まで駆け寄った。
「ギルベルト様が……」
「っ――⁉」
ギルベルトは地面に仰向けに寝かされていた。
彼はとても安らかな笑顔で眠っている。
「心臓が……」
ティゼルがギルベルトの胸に耳を押し当てながら言った。
「老衰……。父上との戦いで力を使い果たしたのか……」
「「「……」」」
「これでは一時的に心拍を取り戻すことができたとしても……」
ティゼルは、その先の言葉が続かない。
その瞬間、第一魔法小隊の魔法使いたちは一斉に涙を流し始めた。
「ティゼル……。一体どうしたと言うのだ?」
その場に足を引きずったアルゼリウスがやって来る。
「父上……。ギルベルト殿が……」
「……」
アルゼリウスはすぐにその状況を察した。
「そうか……。ギルベルト殿が……」
アルゼリウスが地面にひざを着き、ギルベルトの死に顔を見つめた。
「勝ち逃げ……、されてしまったな……」
アルゼリウスが言った。
「私は最後までギルベルト殿の壁を越えることができなかった……」
ギルベルトを慕っていた魔法使いたちは涙を流している。
誰一人として言葉も出ない様子だ。
「……」
それをアルゼリウスが地面から立ち上がり、場に宣言した。
「オルディアの魔法使いたちよ! 今こそ勝鬨を上げるときだ!」
「「「っ――⁉」」」
「これはギルベルト殿が命を賭してもたらした勝利である! ギルベルト殿は諸君らに別れの涙など望んではいない!」
そう言ってアルゼリウスは拳を天に突き上げた。
「故ギルベルト殿に栄光あれ! 今宵は別れの宴でなく、勝利の宴だ! ありったけの酒を飲み、肉を食らい、ギルベルト殿の墓前にて此度の勝利に酔いしれるのだ!」
「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉっっ――――‼‼」」」
アルゼリウスの言葉に触発された魔法使いたちが一斉に吠え上がった。
涙を流しながら笑った。
それはドレッドノートの隊員とて同じである。
敵ながら見事な死に様であったと。
「……なんだ、この騒ぎは?」
バラバラに散らばっていた王立魔法学院の生徒たち。
ドレッドノートの隊員。
そして彼らとの戦いに生き残った魔法使いたちが広場に戻ってきた。
彼らは広場の騒ぎに驚いている。
「ティゼル殿下。これは一体……」
「フラットか」
フラットやレミたちがティゼルの前に姿を現す。
「すまない。我々はオルディアとの戦いに敗北した」
「え?」
「過去の因縁に決着をつけるため、父上がギルベルト殿に勝負を挑んだ。両者の戦いは熾烈を極め、その結果、父上はギルベルト殿の前に敗れてしまった。ギルベルト殿は戦いに勝利すると同時に力尽き、伝説の宮廷魔導士の名に相応しい見事な最期を遂げられた」
王の敗北は国の敗北も同じ。
フラットはすぐに状況を察した。
「この私も含め、その場に立ち会った者たちは誰もがこの結果に納得している。ギルベルト殿の死に様に泥を塗るわけにはいかぬからな」
ティゼルから一部始終を聞かされた生徒たちは、言葉も出ない様子だ。
「殿下はそれでよろしいのですか?」
「……」
「副隊長殿の件についても、これからだというのに……」
「それが天意ならば致し方あるまい。世界が我々の滅びを望むというなら、私はそれに従うまでだ」
アイネスヴェルグがオルディアに占領されれば、リュオールの王族たちはザナトスの手で始末されてしまう。
ティゼルもオルディア王家の者たちを皆殺しにするつもりだったのだ。
例えそうなったとしても文句は言えない。
―――そのときである。
「っ――⁉」
ティゼルは何かに気づいた様子で、素早くその場から退避した。
――が、ティゼルは左足を何者かの攻撃魔法で撃ち抜かれてしまった。
「がぁっ――!」
「殿下!」
フラットが慌てて地面に倒れたティゼルを守ろうとする。
「来るなっ!」
「っ――⁉」
「私ではない! 父上をお守りしろ!」
フラットがハッとした表情を浮かべる。
そして彼は近くに見えるアルゼリウスのもとに向かって走った。
アルゼリウスは逆に、ティゼルの方へ向かって走り出そうとしていた。
「陛下!」
フラットはアルゼリウスを地面に押し倒し、直後に襲ってきた攻撃魔法をマジック・シールドで防いだ。
ドレッドノートの隊員たちがアルゼリウスを守るために肉壁を張り巡らせる。
「ジャガーノートの副隊長! よく陛下の身を守ってくれた!」
「そのまま陛下の側から離れないでくれ!」
隊員たちがフラットに言った。
「――何を勝手に話を進めちゃってくれてるのかな?」
「「「っ――⁉」」」
広場にいた者たちが上空を見上げる。
そこにはティゼルたちを狙撃した犯人であるザナトスの姿があった。
「何があったのか知らないけど、俺はお前たちの降伏なんか認めた覚えはない」
「ザナトス……!」
ティゼルが撃ち抜かれた左足を押さえながら、ザナトスをにらみつける。
「っていうか、ギルベルトは何をしていたの? ガキどもの始末がまだ終わってないじゃない」
するとギルベルトに肩を貸していた魔法使いが言った。
「ギルベルト様は一騎打ちの末に国王アルゼリウスを破り、我が軍に勝利をもたらしました」
「……それで?」
「しかし、その戦いにおいて全ての力を使い果たし、ご臨終を……」
ザナトスが地面に倒れているギルベルトの遺体を見た。
「一応の結果は遺したか。――でも、それで死んじゃったらなんの意味もないじゃない。しかも肝心の相手はまだ生きてるし」
そう言って今度はアルゼリウスの方を見た。
「くそ、あのサイコ野郎が……」
「ギルベルト様が命懸けでもたらした勝利にケチをつけるのか……」
地上にいた魔法使いたちがぶつぶつと文句を言い始めた。
ギルベルトは無能者の視点から見れば最悪な男だが、魔法使いたちの部下たちからは非常に慕われていた。
しかし、ザナトスに関しては同じオルディアの魔法使いからも嫌われていた。
「仕方ない。残りは俺の手で始末する。お前たちは下がれ」
ザナトスが第一魔法小隊の魔法使いたちに命令を下した。
「……」
そのとき、ティゼルがあることに気づき、ザナトスに質問をした。
「兄上はどうした?」
「……」
ザナトスがティゼルの方を見る。
「ルキウスなら死んだよ」
「「「っ――⁉」」」
ティゼルやアルゼリウスを含む王立魔法学院の生徒たちが、ザナトスの言葉に絶句した。
「僕が殺した。かなり面倒な相手だったけど、エレノアを盾にしたらいきなりザコに成り下がったよ」
そう言ってザナトスはティゼルに向かって嫌な笑顔を浮かべた。
「ザナトス……。貴様は……、貴様だけは――‼」
ティゼルが殺意に満ちた目をザナトスに向ける。
「はあ……。やっぱりお前は不愉快だ、ティゼル王子……」
そう言ってザナトスはティゼルに向かって右手を差し向けた。
「今のうちに死んでおけ」
その瞬間にザナトスの右手からビームのような攻撃魔法が発射される。
それは一直線にティゼルの方へと向かっていった。
「殿下、危ないっ!」
その瞬間、近くにいたキースが走り出す。
ティゼルは左脚のケガが原因で思うように動けない。
キースは右手を伸ばしてティゼルの体を遠くに突き飛ばした。
――が、代わりに彼自身がザナトスの攻撃魔法に胴体を貫かれてしまった。
「っ――!」
キースは勢いよく地面に倒れ、そのまま動かなくなってしまう。
体の下からじわじわと血があふれてきた。
「キース様っ――!」
メリーが慌ててその場から飛び出した。
「ああ、もう――邪魔すんなよ」
ザナトスの目にはその光景がとてもうざったく見えたようだ。
「あうぅぅっ――‼」
「「「っ――⁉」」」
キースに続き、メリーまでもザナトスのビーム攻撃の餌食となってしまった。
彼女はキースのもとにたどり着く前に地面に倒れ、体を痙攣させる。
「メリーっ‼」
「メリーちゃんっ‼」
生徒たちが一斉に叫んだ。
「き、キース様……」
メリーは地面を這いずってキースのところまでたどり着く。
そして彼の手を力強く握り締めた。
「キース様……。私はいつまでもあなた様のお側に……」
メリーは、その場で意識を失った。
ティゼルは仲間が倒れる瞬間を目の当たりにし、愕然とする。
「いい加減うんざりだ。この後も仕事が山ほど残ってるっていうのに」
ザナトスが言った。
ティゼルや生徒たちはあまりにショックが大き過ぎて――――何もできない。
「んじゃ、今度こそさよならだ」
ザナトスが攻撃魔法の照準をティゼルに再設定。
――そして、放った。




