表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

49/64

第25話

「くそっ! コイツら、しつけえぇ――!」



 箒で低空を走るクラウスとリリアは、第一魔法小隊の追跡から必死に逃げていた。



「クラウス、アンタ男でしょ⁉ 早くなんとかしてよ!」



「ムチャ言うな! 数も質も向こうが上だ。攻撃に回ったら一瞬で追いつかれる!」



「こういうときは男が体張って女の子を助けるもんでしょっ⁉」



「こういうとき“だけ”か弱いフリすんな! そんなに言うなら、てめえが――」



「ちょっ、クラウス! アンタ、よそ見――――」



「ああ?」



 前方に、国王アルゼリウスの巨大な石像。


 クラウスはすぐにマジック・シールドを張る。


 そして、そのまま突っ込んだ。



「いっ――⁉」



 衝撃で弾かれ、クラウスは地上に落下。


 石像の足元が崩れ、その巨体が追跡隊の方へゆっくり傾いた。



「「「っ――⁉」」」



 魔法使い三人が下敷きになり、同じく地面に叩きつけられる。



「クラウス! アンタ、大丈夫なの⁉」



 Uターンしたリリアが戻ってくる。



「ああ、なんとか……。シールドがギリギリ間に合った……」



「じゃあ、早く逃げるわよ! どうせ向こうもシールドで防いでる。だから――――」



「……そうしたのはやまやまなんだが」



 クラウスが倒れた石像の方に目をやる。


 リリアは彼の視線を辿り――さっきまで彼が使っていた箒が、無残に折れているのを見た。



「どうすんのよ⁉ これじゃ逃げらんないじゃない!」



「……」



 地に伏していた魔法使いたちが起き上がる。



「リリア。オレが言いてえこと……、わかるよな?」



「っ――⁉」



「早く行け。今ならまだ間に合う。他の班と合流すりゃ、お前だけでも助かる」



 やがて、後続の追跡隊が追いついてくる。



「そんなの、できるわけないでしょ!」



「おい、リリア――」



「うるさいっ! アンタが私に命令すんなっ!」



 リリアが息を乱し、彼女の肩が上下する。


 リリアの気持ちが、クラウスには痛いほどわかった。



「ここは戦場だ。もうガキの遊びじゃ済まされねえ」



 クラウスがリリアに杖を向け――――



「え――――――――きゃあっ⁉」



 彼の放った風魔法がリリアを遠くに吹き飛ばした。



「行けっ、リリア!」



「く、クラウス……」



「いけええええええええぇぇぇっっ――――‼‼」



 リリアは風に押される形で急加速し、飛行魔法でその場を離脱。


 地上の落ちた魔法使い――三人は残り、後続の部隊はリリアの追跡へ舵を切った。



「(誰でもいい……。早く助けを呼ばなきゃ……!)」



 リリアは涙をにじませながら、他の仲間を探す。



「……仲間だけでも逃がしたか。賢明だな」



 クラウスは三人の魔法使いに囲まれた。



「名は?」



「……クラウス・フォードリアム」



「覚えておく。仲間のために勇敢だったぞ。その魂に誇りを持て」



 三人が杖を向け、クラウスは目を閉じる。


 ――――そのときだった。



「ちょっと、アンタら! 人ん()の前でギャーギャー騒がないでくれるかな?」



 すぐ側の建物から、少年がひょいと顔を出した。



「……何者だ?」



「俺はここの地下に住んでる、ただの〝天才〟鍛冶職人だよ。昨日の残業でせっかく休みをもらえたのに、爆発音がうるさくて眠れやしない」



「自分で天才って言いやがった、コイツ……」



 クラウスがぼそりとつぶやく。



「……今は戦闘中だ。巻き込まれたくなければ下がれ」



「街中で戦闘? ティゼルのヤツ、一体何考えてやがんだ……」



 自他ともに認める天才鍛冶職人のカマトは、ぼりぼりと頭をかいた。



「戦争に一般常識は通じない。弱肉強食の世界を生き延びるには、他国との背比べに勝ち続けるしかないのだ」



「……言いたいことはわかるけどよ。世界の言いなりになってるアンタら見てると、無性に腹が立つ」



「子どものお前はそれでいい。世界の業を背負い、泥をかぶるのは我々大人の役目だ」



「……けど、ソイツもまだ子どもだぜ?」



「こやつはただの子どもではない。仲間のために命を投げうった勇敢な戦士だ。この少年は今も死の恐怖と戦い続けている」



「(意外と暑苦しいな、この人……)」



 クラウスが魔法使いの〝おじさん〟を見る。



「全ては愛する女性(ひと)のため。彼はこの戦いで一人前の男となった。同じ男として情けをかけられるものか」



 何故か他の二人もうんうん頷く。



「あの~、ちょっと誤解が……」



「何だ、クラウス少年?」



 クラウスはしっかりと名前を覚えられた。



「――――――――リリアは“男”ッスよ」



「「「…………………………………………は?」」」



 これにはさすがの作者(おれ)も驚いた。




 ――――――――――――――――――――




 時は少し遡る。



「(誰でもいい……。早く助けを呼ばなきゃ……!)」



 リリアはジャガーノートでも一番可愛らしい容姿。


 なのに、何故か〝彼女〟の周りに男の影はない。



「なあ。今のリリアじゃね?」



 路地の陰にいたオゼットとステイルの前をリリアが高速で通り過ぎる。



「追われてるな。あれがイレーヌちゃんたちの言ってた敵か」



 オゼットが言った。



「すぐみんなに知らせよう」



「……俺はリリアを追う。三分後に信号弾を飛ばすから、すぐに来てくれ」



「わかった」



 二人は分かれ、ステイルは路地の奥へ。


 オゼットは箒でリリアの後を追った。




 ――――――――――――――――――――




 リリアはクラウスが一番可愛いと認める女子である。


 なのに誰も彼女を口説こうとしなかった。


 それはオゼットやステイルも然り。


 答えは簡単。


 みんなリリアが男だと知っていたからだ。


 リリアは男の体で生まれたが、心は女の子。


 決して偽っているわけではない。


 (ゆえ)にリリアのことは、これからも〝彼女〟と呼ばせてもらう。



「く、クラウス少年……。それは本当なのか……?」



「ああ、最初はみんな同じ反応だ。今じゃ俺たちも普通に女の子として接してるし」



 リリアが男であることを忘れてしまうほどに、だ。



「あ、あんなに可愛いのに?」



「女の子としての作法も完璧。その辺は親御さんたちの理解もあったみたいで、今の姿が許されたとかなんとか……」



「おじさん。今回の戦いで“子どもを皆殺しにしろ”って言われたときよりもショックだったぞ……」



「ははっ。わかるぜ、その気持ち。俺も初めて知ったときは頭をハンマーで殴られたような衝撃だった」



「「「……」」」



 妙な共感が生まれ、三人はとどめを刺す気分を失った。



「……同胞たちよ。この始末をどうつける?」



「い、いきなり俺たちに聞くなよ……」



「そもそもお前が最初に勘違いするから――」



「じゃあ、お前さんたちは一発で見抜けたのか?」



 妙な言い争いが始まる。


 そこにカマトが口を挟んだ。



「それじゃあ、ソイツはひとまず捕虜にしたらどうだ? それでアンタらの上司の前まで連れていけ。そうすりゃアンタたちも腹が決まるだろ。ソイツの仲間が途中で助けに来たら、ソイツを解放してもう一度正々堂々やり直せ。これならどの結末でもお互い納得して死ねるはずだ」



「「「……」」」



 魔法使いたちは少しだけ考える。



「……確かに。それが一番スッキリする」



「でも、バレたらあとでお仕置きが――」



「じゃあ、お前が()るか?」



「いや、それは無理……」



「なら、決まりだ。――クラウス少年、大人しく我々の捕虜となれ。仲間が助けに来ることを神に祈るんだな」


 

 クラウスが苦笑する。



「……おっちゃんたち、良い人すぎ。絶対転職した方がいいよ」




 ――――――――――――――――――――




「(そろそろだな……)」



 追跡隊の背後を取ったオゼットは、杖を上空に向ける。


 そして信号弾が放たれた。



「「「っ――⁉」」」



 五人の追跡組のうち、二人が急制動。


 オゼットの背後に回った。


 後方から攻撃魔法が連発される。


 オゼットは進行方向を維持したまま、上下左右へ細かく軌道をずらし――――狙いを散らした。



「(さすがの命中精度……。このままじゃ長く持たない……)」



 オゼットが反撃を決意する。


 杖を振るい、空中に煙幕を展開させた。


 さらに動き回って煙の範囲を広げる。



「くっ、煙幕か!」



「小賢しいマネを!」



 魔法使いたちが風魔法で一気に吹き飛ばす。


 ――が、そこで異変に気づいた。



「いない――⁉」



「違う、よく見ろ! ――鏡だ!」



 煙の外側に半透明の氷板がいくつも張られていた。


 反射した光が視界を反転させ、万華鏡のような世界が広がっている。


 魔法使いたちは方向感覚が狂い、隙が生じた。


 すると次の瞬間――――



「食らえっ――‼」



 上空からオゼットが急降下。


 氷板に体当たりする。


 氷板がくるりと回転し、氷板同士がぶつかり合う。


 そこ巻き込まれた二人は、そのまま地面に落下していった。



「よっしゃあ――‼」



 格上の相手とまともにやり合う必要はない。


 そしてこのような〝イタズラ〟は悪ノリコンビの得意分野。


 足止めさえできれば十分だった。


 オゼットは急加速し、再びリリアの後を追った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ