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第24話

 ザナトスとエレノアが移動を開始する。


 ギルベルトは一息つき、下の広場を見下ろした。



「ティゼル・オーギュスト・アイネスヴェルグ……。我がオルディアの魔法使いを脅かす危険分子の一人……」



 ギルベルトが右手を掲げ、第一魔法小隊に命じる。



「地上を這いずる虫けら共を一掃せよ! 今こそ我らが第一魔法小隊の威信を示すときじゃ!」



 魔法使いたちが再び攻撃準備に入った。



「各員、一斉掃射ののち――速やかに降下! 誰一人として逃してはならん!」



 地上戦は第一魔法小隊に不利だ。


 地上には対魔法使い戦に特化したドレッドノートがいる。


 だが、生徒たちを逃がさないためには踏み切るしかない。



「来るぞ! 各員、攻撃に備えよ!」



 ティゼルがドレッドノートの隊員に指示を飛ばす。


 隊員たちは戦闘用のマジック・アイテムを構えた。



「砲撃、開始!」



 第一魔法小隊が一斉に魔法を放つ。


 上空から降り注ぐ光弾と雷撃。


 ドレッドノートの隊員は武器を振るって魔法を弾き返した。


 地上へ落ちた魔法が地面を穿ち、砂塵と石つぶてが舞い上がる。



「突撃じゃ!」



 ギルベルトの号令。


 魔法使いたちが降下しながら次々と魔法を撃ち込んだ。



「崩れた足場に気をつけろ! 奴らは我々の足元を狙ってくる! 決して動きを止めるな! ――――散開!」


 ドレッドノートはティゼルの指示で一斉に動いた。


 彼らは複数の魔導具を併用できるよう鍛え上げられている。


 右手に近距離用の魔刃の剣(アルス・ブレード)魔刃の戟(アルス・グレイブ)


 左手で中・遠距離用の魔弾の銃(アルス・ガンナー)を扱う、トリッキーかつ高度な戦法だ。



「攻撃隊と追跡隊の二手に分かれよ! 攻撃隊は奴らの足場を突き崩せ! 追跡隊は広場の外へ(のが)れた生徒どもを皆殺しにするのじゃ!」



 第一魔法小隊が素早く二手に分かれる。


 追跡隊は広場の外へ走る生徒たちを追った。


 その瞬間、ティゼルが新たな指示を出す。



「ラース! ジン! 戦場を掻き乱せ! 乱戦に持ち込めばこちらが有利だ!」



 第一魔法小隊の戦力は分散している。


 反撃するなら今だ。



「他の者は二人の援護に回れ! 私はギルベルトを抑える!」



 ラースとジン、この二人はティゼルと同じく近距離用の戦闘武器(マジック・アイテム)しか持たない。


 地上近くまで降りた魔法使いたちが広場を旋回し、ドレッドノートに向かって魔法を連射する。



「ジン、頼んだ!」



 敵の魔法を回避しながらラースが叫んだ。


 ジンは魔刃の鎌(アルス・サイズ)を大きく振りかぶる。


 人の背丈を超える大鎌。


 その刃は他と同じく緑に輝く。


 ジンは横回転で勢いをつけ、魔刃の鎌(アルス・サイズ)をブーメランのように投擲した。



「うわっ――⁉」



 魔法使いの一人が慌てて回避。


 陣形に綻びが生じる。


 回転する鎌は軌道を変え、別の魔法使いに襲いかかった。



「うおっ――!」



 二人目も辛くも回避。


 陣形はさらに乱れる。


 そして三人目は――――



「ぐぅぅ――!」



 マジック・シールドで受け止められたものの――――命中。


 魔法使いは反動で体が弾かれ、近くの味方と衝突する。



「ぬあっ――⁉」



 シールド同士がぶつかり、二人は反発力で大きく吹き飛んだ。


 ――以後は連鎖だった。


 第一魔法小隊の陣形は瞬く間に崩壊する。



「ナイスだ、ジン!」



 ラースが援護の隊員を率いて敵陣に飛び込み、空中で魔刃の戟(アルス・グレイブ)を一閃。


 魔法使いたちが一気に薙ぎ倒された。


 他の魔法使いたちが魔法を放つ瞬間、後衛の隊員が魔弾の銃(アルス・ガンナー)で牽制。


 詠唱を寸断する。



「おのれ、虫けらども……。無能者の分際で我が第一魔法小隊に牙を立てるか……」



 ギルベルトが加勢に向かう。


 だが、それを阻む影があった。



「ぬっ――⁉」



 ティゼルが超速で突っ込む。


 不意を突かれ、ギルベルトは重い一撃を受けた。


 しかし、マジック・シールドにヒビが入っただけでダメージは通らない。



(くっ……。一撃では不意打ちでも砕けぬか……)



 ティゼルは着地し、即座に剣を構え直した。



「アルゼリウスの(せがれ)……。瞬発力は若かりし日のあやつより上か……」



 ギルベルトがつぶやく。



「……父上をご存じなのですか?」



 ティゼルは思わず素の声を漏らした。



「ほっほっほっ。あの若造が全盛を迎える前の話だ。あやつは生意気にも、敵であるこのワシを戦いの師と仰ぎ、戦場で顔を合わせるたびに勝負を挑んできおった」



「……」



「ワシは無能者を嫌悪しておるが、あやつとの戦いだけは特別だった。――――願わくば、この身が朽ちる前にもう一度あやつと戦いたかった」



 まるで遺言のような響きだ。


 今の彼は曾孫(ひまご)がいてもおかしくない齢。


 ギルベルトは今回の戦を自身の死に場所と定めているのかもしれない。



「――――では、その願いを叶えて進ぜよう」



「「っ――⁉」」



 二人が同時に声の方角を振り向く。



「お久しぶりにございます、ギルベルト殿」



「父上!」



「貴様……!」



 広場の時計台。


 そのてっぺんに立つ――――アルゼリウスの姿があった。


 ギルベルトはティゼルを視界から外し、同じ高度まで上昇する。



「アルゼリウス。このワシを上から見下ろすとは、ずいぶん偉くなったものじゃの?」



「お言葉ですが、今の私はこの国の正当なる王。立場だけなら、既にあなたより上です」



「ほっほっほっ、確かにの……。じゃが、一国の王が自ら前線に立つなど愚かしいにもほどがある。――――今の貴様に王を名乗る資格はない」



「まことに耳が痛い……。しかし、相手があなたとなれば話は別。本気のあなたを止められるのは、私しかいない」



「貴様がこのワシを止めるじゃと……? ずいぶんと低く見られたものよ」



「……」



「確かに貴様は強くなった。――――じゃが、貴様がこのワシに一度でも勝てたためしがあったか?」



「……昔の話です。それに私は死にかけのジジイに敗れた覚えなどない」



「ほっほっ、言うてくれる……。貴様のおかげで、久しく血が騒いできおったわい」



「――――決着をつけましょう、ギルベルト殿。私は今日を境に、あなたの名を越えてみせる」



「来い、若造! その伸びに伸びた長っ鼻、このワシがへし折ってくれる!」



 ギルベルトが杖先を向ける。



「参る!」



 アルゼリウスが両腕の魔装の拳(アルス・グローブ)を起動。


 両拳が緑光に包まれ、時計台の上から躍り出た。


 ギルベルトは後方に下がりながら黒い魔弾を連射。


 アルゼリウスは拳で弾きつつ接近し、右ストレートをシールドに叩き込んだ。


 ギルベルトのマジック・シールドがガラスのように砕け散る。



「ちぃぃ――!」



 至近距離からの魔弾。


 アルゼリウスは頬をわずかに傾けてかわす。


 直後、空中で急加速――左アッパーでギルベルトの顔面を狙う。


 ギルベルトは体を反らして回避し、間合いを取り直した。


 アルゼリウスが再び〝何か〟を足場にして空を駆ける。


 右のミドルキックで張り直したシールドごとギルベルトを吹き飛ばした。



「くっ……! 相変わらず駆け引きもクソもない力任せの戦い方じゃ……」



 ギルベルトが空中で体勢を整える。



「あなたには考える隙すら与えない」



 距離を詰めたアルゼリウスの右が再び炸裂。


 ギルベルトのシールドが砕ける。



「頭の回るあなたを相手にするなら、これが一番有効だ!」



 叫びと共に左のミドル。


 ギルベルトは杖でガードし、直撃を防ぐ。


 ――――が、彼の杖は無惨にへし折れた。



「っ――――舐めるな、小僧っ!」



 ギルベルトの全身から目に見えない衝撃波が放たれる。


 アルゼリウスは後方へ吹き飛ばされた。


 空中で一回転して体勢を戻し――――急加速。


 再びアルゼリウスの拳が走った。



「すごい……。なんて戦いだ……」



「飛行魔法も使わず、なぜ空中であれほど動ける……」



 第一魔法小隊とドレッドノートの隊員は、二人の戦いに見入っていた。


 ――――それはティゼルも同じだ。



(あれはマジック・シールドを足場にしているのか……)



 アルゼリウスは靴底に仕込んだ魔導具で小型シールドを展開し、それを踏み台にして移動している。


 若き日の彼はギルベルトを倒すため、あらゆる魔導具を試した。


 試行錯誤の果てに辿り着いたのが今の戦闘様式だ。


 ティゼルはリュオール最強の魔刀使い(アルス・ブレーダー)であるが、それは己の武の道を魔刃の剣(アルス・ブレード)一本に絞った帰結である。


 互いに魔剣の刃(アルス・ブレード)を用いれば、アルゼリウスを上回る


 しかし、他武器を含めた総合戦では足元にも及ばない。


 魔装の拳(アルス・グローブ)を纏ったアルゼリウスに挑めば、魔剣の刃(アルス・ブレード)を用いても勝機は薄い。



(これが魔法全盛の時代を生き抜いた者たちの戦い……。私はこの先も本気の父上には勝てぬやもしれん……)



 ティゼルは自然と笑みを浮かべた。


 二人の戦いは、戦争の悲しみを一時的に忘れさせてくれる。



「ドレッドノート及び、第一魔法小隊の各員に告ぐ!」



 二人の戦いを見守っていた両陣営が、ティゼルの声に耳を傾ける。



「私はリュオール王国第一王子――――ティゼル・オーギュスト・アイネスヴェルグ! 私は此度(こたび)の戦いの全てを、我が父――――アルゼリウス・オーギュスト・アイネスヴェルグに委ねる!」


 彼の意図は明白だった。


「この神聖なる決闘に水を差す者は、私が断じて許さぬ! 戦道を歩む者として、この至高の一戦に心が震えている! 私の意思に同調する者は、直ちに武器を下ろせ! 共に魔道と武の極みに達した先駆者たちの戦いを見届けようぞ!」



 ティゼルは魔剣の刃(アルス・ブレード)の可動を停止し、懐に納めた。


 戦意を収め、腕を組んで堂々と二人の戦いを見守る。


 彼に続き、ドレッドノートの隊員たちが武器を納めた


 魔法使いたちも次々と杖を下ろしていく。


 今は勝敗など瑣末。


 この戦い――――誰もが一瞬たりとも見逃したくないのだ。



「うおおおおおおあああぁぁぁっ――――‼」

「ぬおおおおおおあああぁぁぁっ――――‼」



 アルゼリウスの魔拳とギルベルトの魔法がゼロ距離でぶつかる。


 二人の魔力が強く干渉し、空に凄まじい爆発が咲いた。

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