相談所
私はスノー、魔王様の側近だ。ある日、私は魔王様に呼び出しを受けていた。
スノー「大変お待たせしました。ご用は何でしょうか?」
???「スノー!やっと来たか!待ちくたびれたぞ!」
この女の子が魔王ライン・コード様だ。この方は代々魔王の家系であったハードル家の1人で壊滅させ魔王となった。言い方は悪いが化け物である。
ライン「おぬしは今から人間の国に赴き、人間たちの感情というものを探るのだ!」
スノー「感情ですか…我々魔族も感情がありますが…人間は違うとお考えなのでしょうか?」
ライン「その通りだ。片っ端から今までの魔族の敗北の歴史を読み漁ったところ、勇者が怒りにより覚醒し魔王、またはそれに準ずる魔族を倒したと記されているものが多い。ここから導き出される可能性は勇者の感情は魔族とは違う可能性が高いということだ。」
スノー「そうなのですか。それはわかりましたが、では人間ではなく現勇者の感情のみを調べればよいのでは?」
ライン「スノー、おぬしは甘いな。勇者だけがその感情を持っているとは限らないだろう。もし、勇者だけだと思い油断し、他の人間も覚醒しては元も子もない。勇者を含める全人類、否、知能を持つ全生命体の感情を知るのが大切なのだ。だからおぬしに人間の感情を探らせるのだ。」
スノー「ですが、どのようにいたしましょうか」
ライン「おぬしは他者の相談事を聞くのが上手い。その技術を使い人間の心を掌握し感情をむき出しにさせるのだ。感情による覚醒を魔族も使えるようになれば人間など敵ではない。」
スノー「わかりました。では今から準備をしてまいります。」
ライン「待て、ここからは魔王としてではなく、一人の魔族の女として話すぞ・・・行かないでよー」
ライン様は目に涙を浮かべそんなことを言ってくる。
スノー「魔王様が決めたことでしょう」
ライン「じゃあ、私のお世話は誰がしてくれるのー」
スノー「レックやクラナがいるではありませんか」
ライン「いーやーだー。レックは適当だし、クラナは厳しい!それにあの二人の仲の悪さはスノーも知ってるでしょ!」
スノー「はいはい。そうですね」
これが魔王様の本性である。魔王様は圧倒的な力があるだけの女の子なのだ。だが魔王という立場にいる以上女の子として生きることは禁じられているようなもの…そのため魔王様は信頼した相手にしか本性をさらけ出せないのだ。その1人が私なわけなのだが。
スノー「私はどのみち明日には出立いたします。それにいざとなればレインが作った水晶型の遠隔通話アーティファクトがあるではないですか。」
ライン「うー…それもそうなのだが…」
スノー「はぁ…任務が終わり次第いくらでも話し相手になりますし、なんでもいうことを聞くので…」
ライン「なんでも!?」
魔王様はそれに反応するとどんどん顔が赤く染まっていく。
スノー「魔王様?熱でもあるのですか?」
ライン「…なんでもってのはいくつまで聞いてくれるの?」
スノー「?何個でも大丈夫ですよ」
何を言っているんだ、この魔王様は。私は魔王様の部下、魔王様の命令なら数や難易度問わずやり遂げて当たり前だ。
ライン「…わかった。覚悟しておけよ。」
スノー「はい、わかりました」
なんのことか分からないが顔が赤くなるほど怒っているのだろう。それを考えると結構きつい命令をされることだろう。私は少し怖くなりながらも人間の国に行く準備をした。
・・・
人間の国には意外とすんなり侵入できた。まあ、国籍も作っていたし。テレポートで魔族領土から人間の領土に入る瞬間は誰にも見られていないから当たり前なのだが。私は早速店を建て、宣伝をした。店を建てるのに人間は数か月かけることがあるらしい、大規模な建築となれば一年以上かかるそうだ。だが魔族、それも上位に存在する私にかかれば人間の建築など10秒で仕上げることができる。そして宣伝に関してもチラシを数人に渡す程度にした。後は連れてきた魔族に噂を流すように命令すれば完成だ。店の中は相談者が入る部屋と私が入る部屋が用意されている。防音魔法も使い個人情報は完璧に保護されている。人間が考えた贖罪部屋というものをまねて作った。人間は新しいものを欲するくせにすぐには飛びつかない。だから人間のある程度が見慣れた形式がいいと考えた結果の中身だ。
・・・
先ほども言ったが人間は新しいものにすぐに飛びつかない。だから立てたばかりの私の店には誰も来なかった。そして時間は経ち夜、魔族には睡眠は必要ないとは言え、このまま続ければ怪しまれる。そう思い、店を閉めようと思ったとき、ガチャっと扉が開く音がした。
???「あのー、まだ、やってますか?」
入ってきたのは人間の女だ。こちらからも相手からも顔はほとんど見えない。しかも私はフードを深くかぶっている。向こうは私が女なのか男なのかすらわかっていないだろう。
スノー「やっていますよ。」
???「よかったぁ…今日、ここの噂を聞いてきたんです。教会はこの時間だとしまっちゃうので」
スノー「そうですか…では、お名前を伺ってもよろしいですか?偽名でも構いません。名前の方が話しやすいので」
???「そういうものなんですね。教会では聞かれないので、驚きました。えーと、じゃあ、私のことはハクと呼んでください」
スノー「ハクさんですね。では、今日の相談は何でしょうか?」
ハク「はい。私、来月から魔法の学校に通うことになったんです。でも私は魔法がそんなに得意ではなくって…不安で」
この話は人間に限った話ではない。魔族でも魔法が得意じゃないため緊張したり、臆病になる者が多い。だが…
スノー「それは悪いことではありませんよ」
ハク「え?」
スノー「魔法に自信がない。それを私は悪いことだとは思いません。自信があるものはその自信が身を亡ぼすときが多い。私もそういう人物をたくさん見てきました。」
これは事実だ。魔族で魔王様に決闘を挑んだものは少なくない。そのほとんどは自身の力に絶対的な何かを感じていたからだ。故に油断し魔王様に殺される。そんなものどもよりかは自信がない方が幾分かマシだ。
スノー「自信とは力の表れです。自信がある者は強い者が多く、自信のない者は弱い者が多い。だがしかし、自信がある故に相手から警戒され対策されるのです。逆に自信のない者は油断されやすく、相手の意表を狩ることができる。自信がないことは短所ではなく長所です。それに自信がないと慎重になるでしょう。慎重とは生きる上で大切なものです。覚えておきなさい。相手が自分より上であると考え行動しなさい。自信がないことを誇りなさい。」
顔は見えないが、ハクさんが泣いているのが分かる。何故泣いているのかわからない。体調でも悪いのだろうか?
スノー「どうしました?具合でも悪いのですか?」
ハク「いえ…今まで、そのように言われたことがなかったので。自信を持て。お前はできる子だ。胸を張れ。そんな言葉ばかり。耳が痛くなるほど聞きました。でも、私にはそれがほんとに重要なのか分からないでいました。すっきりしました!」
ハクさんはそういうと椅子から立ち上がり、再び扉を開ける。
ハク「また来ます!次来るときは学園に入学した頃にします!ありがとうございました。」
そう言ってハクさんはお金を用意した箱に入れ、立ち去った。
スノー「ふぅ、初めての仕事にしては頑張った方なのではないでしょうか…」
私は彼女をいくつか騙していた。自信がある者と自信がない者では自信がない者の方が強いように聞こえる言葉を並べたが実際、上に立つ者のほとんどは自信がある者たちだ。それほど自信というものは大切なのだ。それに彼女もいつか気づくだろう。そう思いながら私は店を閉じた。