いらないこ
あなたの幸せが最高の形で成就するのに、私がいらない
夜の闇が重くのしかかる。
缶チューハイ片手に現実に背を向けて逃げるだけの私を、街灯の作り出す影が嘲笑う。
春先の湿った空気が、懐かしい田舎の風景を思い出させて反吐が出そうになる。
薬品臭い酒をぐっと呷って、少しでも感覚がマヒしてくれればと願う。
……その日は不幸なことに、夜空が良く見えた。
あたしが世界で一番きれいよと嘯く星が、きれいじゃない私を世界の片隅へと追いやる。
ごめんなさいと言うことしかできない私は、顔を上げることを諦めた。
幸せそうに微笑むあなたの顔を思い出す。
眩しすぎる光景はただただ私をみじめにさせるだけだった。
自販機に群がる虫に自らを重ねて、小さくうめく。
身の程なんてとうにわきまえていたはずなのに、涙が出てくる。
私の中にいるまだ小さな少女が心の内側で泣き喚いている。
私の一番嫌いな女のように、その少女に冷たい言葉を放って黙らせる。
夢を見たいの。夢を見せてよ。少女が嘆く。
白馬の王子さまなんていない。少なくとも、私のところには来てくれない。
そんなの、誰よりも私がわかっているわ。
そうでしょう。少女の髪を掴み上げて、平手打ちにした。
物わかりの悪い少女に、憎悪が募っていく。
望むな。愛するな。お前は報われない。
お面のように化粧を塗りたくった母が、あの時私に呪いをかけたの。
はやく、帰らなきゃ。
帰路はまだ長く、明日はまだ遠い。
はやく、帰らなきゃ。
このままだと私、きっと夜に押しつぶされてしまう。
ねぇ、はやく。
ぽとぽとと涙をこぼしながら、おいしくもない酒を飲む。
頭の片隅で、明日の仕事のために目を腫らさない処置を考える。
仕事なんて。思わず笑ってしまう。
どうでもいいじゃない。
明日なんてなければいい。
これで終わりにしてしまえばいい。
けど、こんな何もないまま終わらせてしまうことが、ひどく馬鹿げていて、
結局私には終わらせることなんてできない。
だから、ね。
誰か私を、一番だと言ってちょうだい。
愛されたらきっと私、幸せになれると思うの。
そうじゃないと、わたし。ねえ、はやく。
やっとのことで家に帰れた私は、クスリを酒で流し込む。
浮遊感に包まれる。
世界が崩壊して、私の足元が崩れて、深淵へと堕ちていく。
この瞬間、私は望んでいたものをちょっとだけ手に入れる。
くだらない香水の匂いのするベッドが、いつかのつまらない男のように私を向かい入れてくれる。
堕ちるだけの私に、翼はいらない……。