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アナテマ・メサイア  作者: 明星ナル
第一章「罪ノ神、邂逅」
9/20

第九話「懐かしい友達」

軍帽と重いロングコートをその辺のゴミ箱に投げ捨てた。蛍光色の

黄緑色のメッシュが入った髪。彼はさらに袖をめくった。


「まだ持ってたんだ」

「意外と気に入ってるんだぜ、これ。久しぶりだな、ジーク。十年ぐらい

経ってるか?」

「良かった。で、フルネームは覚えてるんだよね?ゼノ」


ゼノ・トリプレット、軍の士官学校に進学して今も軍人として働いている

はず…そう思っていたのだが何やら事情があるようだ。互いが敵ではない

ということを明確にしてから話を聞く。どうやら彼もアローゼ・グリフィンを

独自に捜査していたらしい。中学から完全に進路が分かれて、長く

会っていなかった。三年間、士官学校に通っていたゼノ。銃や剣術、

軍人として必要なことを学ぶ日々。


「えっと…ジーク…ジーク…」

「え、まさか」

「まさか。ジークリンデ・ナイトレイ。忘れるわけないだろ」


二人の雰囲気を見て、二人が幼馴染であるとすぐに理解したミッシェルは

傍観していた。ゼノはミッシェルの方に手を出した。


「さっきはごめん。俺はゼノ・トリプレット、よろしく」

「良かった。ずっと空気として扱われるのかと思ったわ。私はミッシェル、

ミッシェル・レインウォーターよ。ボーイフレンドさん」


そう言われるとゼノは目を点にすると後で苦笑いする。


「友達以上恋人未満な。…お前たち、誰かから狙われてるんだろ」

「さっきも狙撃されそうになったものね。ジーク、お手柄だわ」


遠距離の狙撃、中々気付くのは難しい。それに相手はまだ一発も撃っていない。

そんな状況で狙撃手の存在に気付いた。話を聞いて、ゼノは感心する。


「相変わらず未来予知みたいなことするのな。お前の直感と目があると

敵対する奴は面倒だろうな」

「いつでも自由に発動するようなものじゃないけど、咄嗟の閃きと

判断力って奴かな?」


本題に戻る。ジークリンデはウォーダンという老人とサロメア・キュルイア、

その二人について伝えた。ゼノはスラーコーポレーションに身を置いていた。

軍人として働いていなかったのか、そこには何やら陰謀と彼独自の考えが

あるらしい。


「サロメアって人は会社にいたぜ」

「過去形?退職したの?」

「…強姦」


ゼノの返答にジークリンデは、うえぇ…と気色悪いものを見た時の顔をした。

強姦、レイプによる精神的苦痛から自殺したという。ミッシェルは

ウォーダンという老人から預かっていた手鏡をギュッと握りしめる。

ジークリンデは性的な話題を好まない。気分が優れない様だ。彼女の背中を

そっとゼノは摩る。


「悪いな。こういう話、お前は好きじゃなかったって忘れてたよ」

「気にしないで。でも、どうしよう…」

「さらにお前たちの話を遮って悪いんだが、スラーコーポレーションは、

というよりもエラン・クレスウェルはどうやらお前を狙ってるらしいぞ。

ジークリンデ」


ゼノはエランからジークリンデの暗殺を指示された。他にも様々な人間に

指示を出していることも聞いている。


「お前の本当の生まれはデウス・ウルト作戦にて焼き払われた町、

オルビスだろ。戸籍上、連邦にはもうお前しかオルビスの出身者は

いないんだ」

「そうなの?生まれはオルビスだけど、育ちは違うって人…たくさん

いても良いはず」

「あの町は元より過疎化が進み続けていた。いないんだよ、今も

生きてる人間が、ほとんどね」


エランから情報を引き出すだけ引き出して、こうして逃走をしたらしい。

勝てない勝負はしない主義。但し、相手から弱点や情報を引き出せるだけ

引き出して逃げ出すというのがゼノである。引き際を見極める力が彼は

抜群に飛び抜けている。


「生き残りって…ジーク。貴方は十八歳でしょ?生まれたばっかりって…」

「いや、ジークは俺と同い年の二十歳だろ。な?」

「あ、うん。二十歳だね。今年の一月で。だから今は十九歳」


オルビスの出身者が今やジークリンデのみ。だが生き残りがそんなに

重要だろうか。


「オルビスにあるメシアの碑文。それに隠された秘密を解き明かすのに

お前が必要なんだと。詳しくは俺も分からない」

「そっか…。ホント、色々引っ張り出したんだねゼノ」

「ただでは引かないのが俺だからな」


ここで明確に国の政治家から命が狙われていることを知る。そうなると

彼らの狙いがジークリンデの家族に向く可能性も否定できない。そう

考えると彼女の中に不安が急激に膨れ上がる。察したミッシェルとゼノは

彼女にそっと近寄る。


「最悪を想定するのも大事だけど、狙いが分かってるならどうにか

出来るわよ」

「重く考えなくて良い。一人で抱えるなよ。俺もいるし、ミッシェルも。

俺たち、友達だろ?お前に頼られるなら、本望だ」


二人が彼女を鼓舞する。激励を受けて、ジークリンデは元気を取り戻す。


「ありがとう。今は、この依頼にどうやってケリをつけるか考えよう。

手鏡を返す相手は亡くなっている。サロメアさんの墓場とか、場所

分かる?」


ミッシェルは勿論知らない。潜入していたゼノですら分からない様だ。

彼女の墓場を探す必要がありそうだ。



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