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アナテマ・メサイア  作者: 明星ナル
第一章「罪ノ神、邂逅」
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第八話「奪うならば」

「それにしても依頼人も、依頼人の探す女性もいない人だなんてね…」

「いない、というかどっちかが偽名なのかもしれない」


ミッシェルとジークリンデはマゼラン市の飲食店にて昼食をとっていた。

まだサロメア・キュルイアという名前を出しての調査はしていない。

この店は長いこと、この場所で営業している老舗のようだ。店員も

開店時からずっと働いている。料理を運んできた老いた店員を

呼び止めた。


「あの、サロメア・キュルイアという女性をご存じありませんか?」

「サロメア…?あぁ、彼女かね。よく名前を耳にするよ」

「耳にする?知っているわけでは無い、と」


長くやっていれば常連も来る。長くやっていれば顔なじみの客も

いるようだ。居酒屋のように店員と客が話すこともあるらしく、度々

名前を聞いていたらしい。


「スラーコーポレーションが独立する前は、あそこはオリュンポス社の

支所だったんだ。高嶺の花だったらしい」


社長秘書、それに美人、頭も良い、人も良い。ただあまりに地位が高いので

近寄れない。それがサロメア・キュルイアという女性。どうやら彼女は

既に結婚したという話があるらしい。


「社内結婚ですか?」

「スラーコーポレーションには悪い噂もあるからな…。そんなものだよ、

企業って」

「何処の企業も、って訳じゃないだろうけど…あらぁ?」


複数人の白衣集団が揃ってやって来た。幸いにも今、店内にはほとんど

人がいない。


「お嬢さんたち、外へ」

「どういうことですか」

「良いから!マゼラン市に住んでるわけじゃないんだろ!説明してる場合じゃない。

匿ってやれんぞ」


何やら切羽詰まったような表情で訴えてくる。只事では無いようだ。

女子トイレの中へ隠れるように入っていく二人。その後、扉に張り付くように

立ち、聞き耳を立てる。


「いらっしゃいませ」

「今日は食事ではない。仕事だ。ここに、二人組が来なかったか」


藍色の髪の娘と占い師を自称する女。その情報、そして顔写真が提示された。


「むっ、自称じゃないもん!」

「ミッシェル!ステイ、ステイ!」


トイレの中で喚くミッシェルを宥めるジークリンデ。ここの店員は度々

こういった場面に出くわすらしい。外から来た客がスラーコーポレーションの

社員たちに連れていかれる瞬間を。噂の一つにオリュンポス社が彼の企業を

切り捨てたという話がある。経営方針で対立し、喧嘩して、そして

分裂した。研究の仕方、追求方法が非人道的行為になり始めた。危機を察知し、

オリュンポス社が切り離すことを決断した。

知らないとシラを切った店員、他の少数の客。次に聞こえたのは彼らの悲鳴と

銃声。ジークリンデとミッシェルは顔を見合わせる。


「―次は殺すぞ。良いか?嘘は吐くな」


銃口が火を噴こうとした瞬間。全く違う方向から銃声が聞こえた。弾け飛んだのは

白衣を脱ぎ棄て武装を露わにした男の銃。彼の銃を弾丸が貫通し、穴をあけた。

アイソレススタイルで構えていたジークリンデ。彼女の手には銃が握られていた。

その銃はオリュンポス社が試作品として制作した武器の一つ。

試作品一号。名前は咄嗟に今、付けた。


「お前、なぜ試作品を持っている!?オリュンポス社の試作品一号を…」

「何のこと?これは私が大切な人から譲り受けた銃、名をジャウハラ。適当な

事を言わないで」

「貴方、これを見てオリュンポス社の試作品一号と言ったわね。良いのかしら?

それって、オリュンポス社を退社するときに契約を交わしてるんじゃないの?」


三叉槍を取り出し、ミッシェルは構える。ジークリンデが譲り受けた銃、

試作品一号ことジャウハラは二つで一つのセットである二丁拳銃だ。


「来るわよ!」

「合点!」


一斉に飛び掛かってくるスラーの構成員たち。それなりに戦える者たちらしいが、

ジークリンデとミッシェルは上手く立ち回る。武装解除させて、無力化。

可能な限り傷は付けない、そのやり方を徹底している。暫く応戦していると

もう一人がやって来た。真っ白いロングコートを翻し、ここにやって来たのは

青年だ。


「こんな場所で乱闘騒ぎなんて起こすなよ。会社の看板に泥を塗りたいのか」


軍帽にはスラーコーポレーションの紋章が付けられている。彼は肩に

槍を担いでいる。


「ぬぅ…調子に乗るなよ、エラン様の威を借るキツネがッ!我らにはエラン様が

いるのだからな!エラン様からの指示なのだ、この小娘どもを捕まえるのも―」


青年は人差し指を口元に当てた。


「良いのか?目の前にいる彼女たちはただの一般人じゃないぜ?なぁ」


促される。彼はジークリンデたちが何の対策も無しに動いているわけが無いと

確信していたらしい。ジークリンデは片手をポケットから出す。片手に握る

ボイスレコーダーも一緒に取り出していた。普通のものより小型にされた

特殊なものだ。それにはしっかり先ほどの言葉が録音されている。


「…って、事だから。これ、あちこちに匿名で流しておくよ。血を流す戦いや

拷問、殺し合いより、よっぽど貴方達には効くだろうからさ。奪うなら、命では

無く名誉と栄誉よ」

「あーあ、解雇と損害賠償は間違いないな…っと」


槍による一突き。床を壁を天井を抉る。ジークリンデとミッシェルは互いに

反対へ避けた。二人の目の前を突風が駆けた。大きな穴が開いた店内。青年は

外へ出るように促す。ゆっくりと歩き、ジークリンデに耳打ちする。


「もうあいつ等はお前たちを追うことが出来ない。ついて来い」

「ッ!?」


聞き覚えのある声だ。軍帽を目深に被りながら、ジークリンデにウインクする青年。



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