第十五話「切れ者の遺品?」
アクネストと瓜二つの星、この二つの星は別なのだろうか。
とんでもない仮説がある。実はアクネストとその星は表裏一体なのではないか。
または同一なのではないか、と。共に広大な宇宙空間を漂う星を観測することで
何か新たな発見があるはずだ。人の為になるかと聞かれれば実感が湧かないが
しかしその仕事は世界に存在する誰もが無視してしまうような、投げ捨てて
しまうような謎を紐解く仕事である。
スラーコーポレーションの独立。そしてオリュンポス社に異変が
起こっていた。
『皆さん、見えますでしょうか!?オリュンポス社は火災当時、創立記念日として
休日となっていたため全社員が会社にいませんでした―』
真っ黒に焼け焦げた会社の瓦礫が未だ残されていた。そう、これもまた
何時しか歴史に残るだろう。オリュンポス火災事故。事故として、この
出来事は処理されたがネット上では数多の特定班が動き出していた。
報道特集もされ、何人もの専門家に加えて現場を調査した警察も姿を
現して疑問を抱いていた。
『隈なく捜査してますが、火元は全て問題ありませんでした』
テレビに釘付けになっていたジークリンデたち。不安になったミッシェルが
早々に電源を切る。無理もない話だ。生存者、社長の姿、そのことは何も
報道されていなかった。ここはジークリンデが継いだ事務所である。
彼女の自宅とはまた別の場所。
「大丈夫か?ミッシェル」
ゼノは彼女のことを心配して、声を掛けた。
「えぇ…一応、ね」
「まだ社長が死んだっていう話は出てない。信じて待っていよう」
ミッシェルに勇気づける一言を口にしたジークリンデ。少しだけミッシェルの
表情が明るくなった。まるで見計らったかのようにインターホンが押され、
ジークリンデが応答する。そこには依頼人ではなくスーツ姿の男だ。
弁護士を名乗る眼帯の男だ。
「どうも、弁護士のガウトです」
「ガウト…弁護士?」
「あ、誤解なさらないでください。貴方を訴えるわけではありません。
とりあえず、中に上がっても?」
ガウトと名乗った男からは単刀直入に孫であるミッシェル宛てに
話があるという。アリア・ローゼンクロイツは会社を手放し、社長の座を
降りる。彼女が抱えていた会社の財産をそれぞれに分配する話。
「じゃあ、おばあ様は…」
「生存か否か、実は当職は口止めされていますので申し訳ありませんが…。
この話は三日前に聞いたものですので。それと、こちらを」
「私?」
ジークリンデ・ナイトレイに、とある資料の入ったUSBメモリを手渡す。アリアから
ミッシェルへは財産分与に関する資料。ゼノは傍から話を耳にしていた。
彼はアリアとは特に関わりが無い。部外者と言える立場なのだ。とはいえ、彼は
弁護士をジッと見据えていた。帰ろうとする彼をゼノが呼び止めた。
「何処かで、会ったこと…ありませんか」
「?弁護の依頼をしてくださったことがありますかね?」
ガウトが首を傾げた。彼の反応を見て、ふと表情を緩め首を振る。勘違いだった、と。
「確信した。きっとアリアさんは生きてるよ」
「そうよね?だって、死んでしまったのなら隠す必要も無さそうだし!」
ゼノは彼女たちの希望的観測を批判することは無かった。批判するには
決め手に欠ける。それに、こんな準備を三日前にしている人間が死ぬとは
思えなかった。アリア・ローゼンクロイツが重篤な病を抱えているという話も
聞いたことが無い。
気になったのはジークリンデに向けて渡されたUSBメモリの内容だ。
「アリアさんが抱えてたものだよね。幾つかあるんだけど、それぞれ違う
データが入ってるみたい。ミッシェル、どれが何の資料か分かる?」
「私、あまり社長としてのおばあ様と触れ合ったことが無いのよ」
「…アリアさんは相当な切れ者としてビジネスの世界では有名だよ。これだけ
大きな企業を守る立場の人間が部外者であるジークリンデにわざわざこんな
資料を手渡すってことは、お前、相当気に入られてるんだな」
ゼノはジークリンデの隣に腰を下ろし、USBメモリを摘まんだ。それを立ち上げた
パソコンに差し込む。
「確認してみようぜ。俺たちの目的は国主アローゼ・グリフィンを見つけること。
依頼主が持ってきた資料なんだから、役立つかもよ」
そうだ。最終的な目標はアローゼ・グリフィンを見つけ出すことだ。それにつながる
ヒントがあるかもしれない。そのヒントも然りだが、今回ゼノが手にしたものには
別の資料が入っていた。
「これは…」
オリュンポス社が早々に凍結させた計画。名前だけは知っていた。ステュークス計画に
まつわる資料だった。




