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CLOSE THE GATE~"獣魔使い"ネロの魔王討伐譚~  作者: 夜月沙羅
第1章 水の少年と炎の少女
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第一話 少年は出会う

「例の彼のことを聞いたかい?」

 王宮の一室。ただ書類を捲り、サインをする音だけがしていた部屋で、ふとその静寂を破る声がした。

「はい、討伐隊から正式な報告も来ていたと」

「港町で結構な大物を一人でやったらしいね。彼と相棒を狩人に承認した身としては喜ばしい。ところで」

 近くに控える騎士に向けて手近な地図と手にしていた書類を向けた男は、何かを企むときのような表情をしている。

「この進み方だと、彼女と出会う可能性もありそうじゃないか?」

 その言葉に、騎士は何度かまばたきをした後、書類――とある女性の成果についての報告に視線を落とした。指が地図をなぞる。

「……方角は確かに合いますけど、確信を持てる距離ではないのでは……? あるのでしょうか、そんな偶然」

 首をかしげる騎士に、男は悪戯っ子の表情で、それはそうだよ、と返した。

「確率はかなり低いだろうね。けれど、もしそうなったら、なかなか面白いことになりそうじゃないか」

 今度は人の悪い笑みに変わる主に、騎士は一つため息をついて、

「だからって、あえて引っ掻き回そうとはしないでくださいね」

とだけ告げた。

「暑っ……」

 季節外れのローブを纏った少年はフードの端をパタパタさせながら港町から続く森を歩いていた。木で日光は多少遮られるとはいえ、暑いものは暑い。

『なら脱げばいい』

 ふいに低い声が響く。その周囲には、一人と一匹しかいないにも関わらず。

「嫌だ。何度も言ったろ。一応これは狩人の制服だぞ」

『ネロはそんなことを気にする人間ではないだろう』

 そして少年――ネロは、そのことに何も戸惑うことなくそう返した。見上げてくる大型犬の頭を撫で、続けられた言葉に俯く。左側のフードを頬に寄せた。

「……これ(、、)を見られたらマズイってのは、充分分かったからな。あの人の忠告を聞かなかったせいであの時――」

 トーンを下げながら紡いでいた思考が不意に途切れた。頭上に不自然に影が落ちる。同時に、鳥が羽ばたくときの音がやたら大きく響き――。

「離れて!」

 空から女の子が降ってきた。

「は――」

『怪鳥、魔物だな』

 くすんだ緑色の、ネロの三倍はある巨大な鳥。それがその少女に鋭い嘴を向け襲い掛かっていた。

泡の(バブル)――」

『待て』

 腰の剣に手をかけた少年を、低い声が止めた。

『巻き込まれる』

 彼らの視線の先で、少女は姿勢を整え直すと、華奢な剣の切っ先を鳥へと向ける。

 彼女が身に纏うのは少年と同じ黒のローブ。

炎天(えんてん)!」

 高い声が響き――鳥を焼く。

(あつ)っ!?」

 飛び出した炎が辺りを包み込んでいた。少女は宙でニ、三回跳ね、自ら鳥へ向かっていく。

「無茶苦茶な……!」

 剣を下に向け、鳥の上部を飛びながら切りつける。

 戦い慣れた動きだったが、その間に、いくらかの火の粉が木へと燃え移った。――このままでは火事になる。

「――っ!」

 少年は今度こそ剣を抜いた。

 横に薙いだその先から、いくつもの巨大な泡が浮かぶ。

「――泡の剣舞(バブル・ソードダンス)!」

 それらが一斉に広がり、木々を包み込んだ。そのままその内部で火が一気に沈静化していく。

 ふわりと遅い速度で落下する少女はまた態勢を変え、空中で身を翻すと一気に上昇した。

『――飛翔魔法か』

 少女の剣が怪鳥の腹を貫いた。ふらりと傾く。

 そのまま少女はゆっくりとネロたちから離れた位置に着地し、魔物はその後ろでドスンという音を立てた。落下地点は恐らく凹んでいるだろう。

 彼女はローブを払う仕草をするときょろきょろと辺りを見渡す。そのままネロに気が付くと、軽く地面を蹴った。

 その一蹴りで、彼女はネロの目の前に辿り着く。

「うえっ!?」

「ごめんなさい!」

 そのことに肩を跳ねさせた少年の前で、少女は勢いよく頭を下げる。綺麗な金色の髪がパサリと落ちた。

「巻き込んじゃって……。これ消火してくれたの、あなた、ですよね……?」

「そ、そうだけど……。」

「そうですよね。やっぱこの声だよね。うん。……本当にごめんなさい」

 あの鮮烈な戦いぶりを見せた少女は、そのわりに落ち込んでいるらしい。肩を落としている少女にとりあえず頭を上げてもらうと、その翡翠のような眼が少年を捉えた。

「改めて、火を消してくれてありがとうございます。私は――とりあえずフォティアとでも呼んでくれれば。あなたも狩人?」

「ああ。俺はネロ。よろしく」

 自分のローブを引っ張って確認するフォティアと名乗った少女に、ネロも頷き返す。

 改めて見れば、少女は少年より背が高い。裾を短く詰めた淡い桃色のワンピースの下に白い軍服のようなズボンとロングブーツという格好で、全体的な凛とした雰囲気は狩人より騎士団に居そうな人物だった。

「よろしくお願いします。――と言いたいところだけど」

 そしてその雰囲気のまま、そして声色まで引き締められ――カニスの方へ視線を向けた。

「さっきその犬……喋っていませんでした?」

「っ!」

 反射的にネロはその場を飛び退く。そうすれば、カニスも従うように退がった。

「普通の生物は喋らない――魔物では?」

 少女の眼が彼らを貫く。

 ネロは息を呑んだ。

 瞬間頭に浮かんだのは、怪鳥を仕留めたあの力が、自分たちを殺す光景だった。

とりあえず本編スタートです。

英語とかギリシャ語とかラテン語とか色々混ざっていますがお気になさらず。

今後ともよろしくお願いいたします。

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