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明日の未来

作者: 春川

 考えてみれば顔の美しさなんてものは、くだらない。

 生まれながら、ただの偶然に与えられるものなのだから。それでも世界は美しいことを讃え、醜さには顔をしかめる。そんな時代が長いこと続いた。

 しかし、どんな事にも永遠はない。理不尽な常識も打ち砕かれる時代が到来する。


 遥か昔、顔を美しくすることを美容整形と呼んでいたそうだ。そしてそれは大衆には好意的にとらえられていなかったと聞く。

 美しくあろうと努力することは推奨されるくせに、整形は行き過ぎだといった風潮。物事の境目はいつも曖昧だ。そしてその線引きは支持の多い価値観が勝者となる。

 しかし、時代が移ろうことで支持の多い価値観が今までと反対になることもある。


 平等や差別のない社会という大義名分と、科学技術の進歩によって人類は新しい時代に突入した。


 どこかの国の聖職者は

「生まれながらに与えられるものに優劣をつけるなど、あってはならない。肌の色や目の色、髪の毛、目鼻立ち。それらが不平等や争いを生むのなら、覆い隠し平等になるべきだ」

 と主張していた。

 この声が新しい時代への起源だとしたら、人類の道徳観も捨てたものではない。だが残念ながら、そのような考えが時代を開いたのではない。


 顔の美しさの優劣うんぬんというより、時代は顔を隠すことが必要になったのだ。科学の進歩は目覚ましく、顔は大切な個人情報の一つとなっていた。顔あるいは、瞳から認証される情報、紐付けられる個人。 顔を無防備に晒していくことに限界が訪れ、守るべき必要性に駆られた。


 そして人類は顔を覆う生活を始める。その副産物のような形で、顔の優劣からの解放が誕生したというわけだ。 しかし、顔という視覚の認識を捨ててしまうと、人と人との間では個人の判別が難しくなる。

 そこで人類は、科学の力を存分に駆使する。

 顔を覆うものをヘルメットのようなものに統一し、ヘルメット内に様々なプログラムを組み込み、視界を液晶モニターとした。外部の情報は全てモニターを通して認識できるようになった。

 これは画期的だった。安全で便利を知った人類は更に向上を目指す。


 顔だけとはいわず体も覆ってみてはどうか。外的から身を守れ、温度管理もできれば暑さも寒さも怖くない。大きなボディスーツで体も覆うこととした。

 そして人類は皆、外部から守られた。最初こそ自宅では昔のように、皮膚をさらけ出したが、飲食も清潔さも睡眠もヘルメットとボディースーツを着用したままできるよう、内部を形成するテクノロジーは、どんどん進化した。


 すると社会は安全かつ快適になった。

 世界は平和になった。人が外的なものから命を落とすことが減った。平穏な時代の訪れ。皆幸せに暮らした。

 それから少しの歳月が流れた。


 ある晴れた日。大きなヘルメットをかぶり、ボディスーツに身を包んだ人が静まり返る街を通る。足元にあるローラーが、その人を立派な建物の中へ運ぶ。建物は人を察知し、大きな機械たちが動き出す。動き出したベルトコンベアのような床がその人を、大きな炉の中に入れる。頑丈な炉の中で炎が轟々燃える。


 炉の横のモニターには数字が映し出され、その数は1から0に変わる。

 そして機械たちは、もう二度と人を察知する必要がないと組み込まれたプログラムにより、ブォンとその役目を終える。同時にその情報が世界中の機械に届き、爆発が起こる。

 世界は炎に包まれる。遥か昔、世界が誕生したときと同じように。


 快適に囲まれた個の中で、人々の繁殖は望めない。

 世界の終わりはそうして訪れたのだった。

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