第七話:『下積みのデバフ』
あの後ノムは幾つかの弱体の付与された武器を持って来て
どういうセットにするかを相談してきた。
「本来ならどちらも同じ弱体にするのがいいかもしれませんが
アルさんの場合だと別々もありかもしれません」
「確かに、自身の技能で付与するほうがメインになるなら
手数を増やすために別の方がいいか…」
「元々魔物は付与されずらい種もいるが、千兆も倍増されたら
元は小さい効果でも良いでしょうしね」
「となれば弱体のシナジーを狙いたいところです、一部の魔物は
幾つかの弱体を掛け合わせてさらに強力にする知恵を持っていますし」
「そんな事ができる魔物が…」
アルは技能の出力に頼らないやり方を知り感動したが、同時に
魔物という存在が改めて猛獣などの可愛いレベルではないと感じていた。
「と言っても、ウチで出来るシナジーとなると
石化からの外殻破壊ですかね」
「石化はなんとなくわかるけど…外殻破壊?」
「強靭な皮膚に鎧や甲殻など魔物が持ち合わせる身を守るモノを一時的に劣化させるのです
無論魔力での防御にも対応してますが、元が弱い方が効果も高くなる
故に石化させたうえで脆い石材へと変質させて始末する、そういうシナジーです」
想像以上に恐ろしい方法だったが、確かにシナジーだ。
「ちなみに、そのシナジーを行う魔物はアシッドバジリクスという魔物です
そうそう相手する機会はないと思いますが、お気を付けてください」
「もし出た時は僕が受けるしかなさそうだな~…」
「仕方ない、むしろ知らないシナジーを持っている魔物がいる方が
私は怖いかも」
「という事で、組み合わせとしては石化を付与された長剣『諸岩の剣』と
外殻破壊を行える短剣『砕き刃』が良いかと」
「効いておきたいんですが、それらの試作品はどういう?」
「諸岩は斬りつけるとお互いに石化が起きる事、砕き刃は純粋に耐久性に欠けます
前者は自身以外に管理させず、後者は定期的に持ち込んでいただければメンテナンスします」
「…コレは純粋な疑問なんですが」
メリナが声を出した、アルは既に振るいたいという顔だが
拭いきれない違和感があった。
「ノムさんは何処でこのような武器の製作技術を?
魔法武具などは知識にありますし、先程ギルドで見ましたが
弱体付与に関しては一般的なものではないように存じます」
アルの事もあり、弱体への感覚がマヒしてはいるが
そもそもの弱体はその大部分が魔物の技能であり
メリナの魔法の魔法のようにメジャーではない。
「…う~ん、私の故郷だと普通にありましたから
確かにコッチに来てから全然認知されてなくて驚きましたがね」
「…………わかりました、アルはその二振りでいいですか?」
「勿論!」
アルがアルの技能を活かせるならそれに越したことはない
それはそれとして、メリナには調べるべきことが人知れず増えていたのだった。
「では今度は防具の方も…」
今度は弱体に無関係の普通の防具が並べられたのだった。
「これらを付けて…支払いはこうですね」
「これくらいの支払でいいんですか?」
「売買だけでなく、データ収集がありますので」
旅狼の半分程度で済んだ為、流石に不安が残ったが
情報の重みも考えて納得させた。
「では、ご武運を」
ノムは真剣さを前面に出しそう言った
元気な感じだった気がするが、コロコロ変わる程度にしかアルは見ていなかった。
「じゃあ後は図鑑と…宿かな」
「そうですね」
二人は立派になった装備で街を歩き出した
その背をノムはずっと眺めていた…。
■
書店は基本的にギルド管理である
偽りの情報や大して価値のない本が販売されるのを防ぐためである。
「魔物や場所の情報は高くて確かなものが基本、だったっけ」
実際噓を信じ込み死ぬようなことがあれば責任問題に困る面もあるのだ。
「ここら辺の地域の本は安めにされてるからマシかな」
「確かに、二割くらい安い」
今の予算でも問題ない値段だが…
「弱体とかの本もないのかな?」
「う~ん…探してみるのは良いと思う」
とは言ったものの、やはりそれらしいものはなかった
魔物や技能のついでで収録されてるようだ。
「……………やはり無いですね
アル?そっちはどうです?」
「おお~…カッコイイ」
「何読んでるんですか?」
アルは既に別の関係ない本に手を出していた
その本はどうやら――
「『魔剣工房』だってさ」
「それに何の関係が…?」
中身は魔剣の伝説に関するものらしく
12本の魔剣について纏められていた。
「いやさ、これ今日買った武器みたいに色んな効果付けてるんだってさ
いいな~って思わない?」
「………………ふむ」
関わったものすべて死ぬ物や、斬ったものの時に干渉する魔剣など
凄まじい効果だが、流石に伝説のそれだろう
信憑性のある本だけしかないというのはそこにある全てが真実というわけでは無く
伝承などが歴史ある物なのだと証明しているだけのモノもある。
「わはは、流石にただの伝承かな~…」
「……ん、アル?この紙は?」
その書には謎の紙が挟まれていた
内容は『13番目 深紅と血の魔剣 必ず』。
「………………いたずら、かなぁ?」
「どうでしょうかね、聞いておきましょう
ここの店員に」
いたずらされていた本を持って行くものの
意外にも帰ってきた答えは。
「………? その本はうちのモノではないですが」
「え…?」
結局どこの本かも分からず、図鑑を買って『魔剣工房』は持ち帰りになった
「………ふむ」
それを見ている者もまた、一人
■
「宿はすぐ決まったな~」
「新人向けの安い場所があるのは僥倖でした
壁が薄いそうですが騒ぐ必要性はないですからね」
一息ついている二人、後は依頼の対象を決めて遂行するだけだ。
「そんで、どうしたものか」
「石化を使うなら、ストーンキャットは除外ですね
ワイバーンも飛んでますからあまり………」
となれば、討伐は血濡熊だけ、採取ならハチミツ草とアークマンドラゴラだけである。
「………実質血濡熊かアークマンドラゴラですね」
「どっちが良い?」
「アークマンドラゴラは多分罠ですよね」
「だろうね、引き抜いた時のソレが原種のマンドラゴラの『恐慌断末魔』以上に危険
『大恐慌断末魔』って、直球だけどヤバいのがわかる」
マンドラゴラとは引き抜いたときに悲鳴を上げる植物魔物であり
薬や錬金に使われるが、その特徴から忌み嫌われており希少性が高い
アークマンドラゴラともなればさらに希少だ。
「もし叫ばれたら訳の分からない内に他の魔物が引き寄せられて……だもん」
「でも『弱体識者』ならば、それかその武器なら…」
「最初くらいド派手に行きたいし」
「アークマンドラゴラ、行きますか」
二人は年相応の顔をして計画を立てているのだった…
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『魔剣工房』
1:原始の一振り
2:久遠の三剣
3:龍牙
4:彩光剣
5:折れた長剣
6:ガイアバスター
7:首落とし なまくら
8:願い星メテオラ
9:フォトン雷砲
10:勇壮の剣
11:マテリアル
12:暗闇潜り
13:深紅と血
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