第三話:『アホすぎるデバフ』
事故多発、そしてご意見ご評価いただけると幸いです。
冒険者、その目的は各々によって違ってくるが
命の保証や金の保証がない分この世界でも一番自由な存在である。
「確か、アル君は研究目的でしたよね」
「そうですね、僕は……」
冒険者となれば一般的には一攫千金や名声獲得
或いは武道を極めるといった目的が多い、しかし研究もそれなりに多くはあった。
「『次元魔術』の研究がしたいんです」
しかし、アルのような夢想を追い求めるのは現代では希少であろう。
「次元魔術かぁ…昔から好きよね、アルは」
「カッコイイだろ?もし本当に使えたら」
噓である、憧れや実用が目的ではなく。
(………別れの言葉一つ言ってないからなぁ)
元の世界を、未だに想い続けていたのだった。
■
「だからさ、あのボス倒すなら防御ダウン馬鹿盛りだって!」
MMORPGをつけっぱなしにしたPCの前で通話している青年は
笑いながら話し続けていた。
「ホントデバフ戦法好きだよな~お前」
「そりゃそうだ!前のレイドの鉄板戦法も俺考案だぞ!?」
朱に染まった頬と机に散乱する空き缶が彼の酔いを知らしめている
既に浮かれ切ってる彼には更に深い隈がこびりついてる。
「わはは、今回も俺が全部考えてやらぁ!」
「でもお前今何徹だよ」
「5徹でちゅ」
「寝ろよお前!!??死ぬぞ!!??」
「セーフセーフ、酔いながらやれば無効無効!」
……これはアルの最期の記憶だ
覚えていないが大方この後不摂生が祟り死んだ
言うまでもなく、この下らない死に様をアルは後悔していたが
ある日御伽噺にあったこの一文を知って以来アルは冒険者を目指していた。
『暗き者達来たれり、賢者アリアハンは異界の門開き別世の戦士と共に
光を世に知らしめ常世に平和を約束し、その戦士達は記憶と共に還らん』
曖昧かつ御伽噺でしかないが、確かに別世界の話がそこにあった
いつか本当に手にしたのなら、絶対に家族に恩師にそして………
通話中に死んで驚かせた友人に謝罪すると決めていたのだ。
■
「………とりあえず、今はまず冒険者になることを目標にしないとな」
「となると、この村からの移動が必要ね」
冒険者には登録を通すことでライセンスを作る必要がある
自由にかこつけて不正を働くものをすぐさま叩きのめす事や
重要な案件において有力者にすぐさま話を通す為にも管理を整理必要があるのだ。
「ライセンス関係の連絡は私が入れておきます、この村からだと……
森を超えた先にある街の『デベリン』に行けば登録できますね」
「ウチは親に前から言ってたし、すぐにでも行けるな」
「すいません職員さん、私もお願いできますか?」
「……メリナも冒険者に?」
「勿論いいけど、親御さんにも……」
「ウチも問題ありません、前から言ってますので」
「へぇ……メリナにも冒険者としての目指してるものがあるのか
そういうの教えてくれなかったもんな、ずっとさ~」
「まぁね」
真顔で言いきっているが、実のところ幼馴染のアルが心配な面も大きい
何が起きるかわからないスキルを抱えていては、色々苦労するだろう、と。
「じゃあ……一週間改めて確認して予定建てしてそして出発、それでいいかな?」
「ええ、問題ない」
「よーし、スキルの研究くらいはしとかないとな~」
「えっそれは……」
やはり心配な動きばかりすると、改めて感じさせる幼馴染なのであった。
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「ぐえー!!」
火の粉が舞う鍛冶場、アルは火達磨になっていた
その火は鍛冶場など比にならぬドラゴンの業火に等しいものだった。
「消火しなきゃ…『母なる水よ、惑う子を鎮めよ』!」
なお、この消火でアルから鍛冶場が浸水するレベルの水が溢れた。
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「ぬふう!」
試しにスライムとぶつかり合った結果スライム塗れになったアル
やはり増えてるとしか思えない増幅だった。
「………『神々の閃光、愚かな獣を打ち破れ』!」
「ぬわーっ!!」
晴れた昼間、大きな落雷が草原にクレーターを残していった……。
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「街までは問題ない、それは確かだけど…その」
「過剰すぎる増幅がネック、だよなぁ…」
出発を明日に控えた中、二人は頭を悩ませていた
アルの増幅率は余りにも大きく、故に周りへの被害が甚大では無いのだ。
「火の粉はまぁわかる、スライムもまぁ、でも……
水一滴で濁流や静電気で落雷、ここまでくると大問題だ」
千兆%、耐性によってそのダメージや影響はごくごく僅かであろうと
増幅に伴う火や魔力などの拡大は外に漏れるのだ。
「冒険者になる意思は揺らがないだろうし…これを制御することはアルの第一目標
わかってくれるよね?」
「勿論、これでメリナ傷つけたら大変だ」
「というか、鍛冶場での大炎上みたいなのが起きたら私以外も危ない
ある街では火山地帯故に火の粉が当たり前な場所もあるらしいからね」
そんな街に今行けばアルは常に超高温の火達磨状態、太陽も顔負けだろう。
「………派生技能、考えとかないとなぁ
とはいえ、まずは明日の森だな」
アルとメリナは静かに日の出を眺めつつ鞄を背負うのだった