第二話:『理解するデバフ』
立派な石造りの神殿を赤く染める血の炸裂
美しいブロンドの彼女はそれを眺めていた。
「アルの奴…何しでかしたのかしらコレ…?」
彼女はメリナ、アルより数か月先に生まれた少女であり
あまり若者のいないこの村では自然とアルと親しい関係になっていた。
「取り敢えずほおっておくのは悪いですね…」
彼女は溜息を漏らしつつも慎重に血濡れの神殿に歩みを始めた…。
■
「気絶してるだけかぁ…しかし、だとしてもこの惨状…
親に迷惑掛けるのは勘弁なんだがどうしようコレ…」
血濡れの部屋でアルは悩んでいた、それもそのはず
この大惨状は全て自身の…
「『弱体識者』かぁ…」
弱体効果への耐性と増幅を抱え込む天命技能によるものなのだから。
「千兆ってどういうこっちゃなんだが…
そういえば、この宝玉は採血したらスキルの確認もできるって言ってたし
黙って使うのは悪いけどちょっと改めて確認させてもらおう」
謝罪を呟きながら宝玉に触れると、光とともにアルの頭の中に
弱体識者の詳細が流れ込む。
[『弱体識者』
・自身への弱体効果を全てほぼ無効化する
・弱体率が9999999999999999%となる
・弱体効果を記憶して常に確認可能]
「ふぅん…なんだこの…何?」
余りにも馬鹿げた数値故にアルは訳が分からなかったが
規格外の出血とそれに対して特に問題の無い肉体を鑑みて効果を直感的に把握していた。
「弱体効果を受け付けないがその効果は規格外に増幅するって感じか…
さっきの出血も増幅の結果ってとこだろーな」
予想外とはいえ効果を先に見ていた以上何とか判断できたのだ
後は今の惨状を解決出来ればいいのだが…。
「アル、これ貴方が原因なのかしら?」
「メリナ!そうだそうだそっちの天命技能聞きたかったんだ!」
「否定しないのか…私は『自由構築詠唱』よ」
「いいな~…こっちなんか『弱体識者』だぞ、ダサい!」
「名前なんて関係ないですよ、肝心なのは効果ですし…
どういう理屈でこうなったんですか?」
「ああ~…うん、聞いてくれよこれさ~…」
アルは不満げに原因たるこの技能の事を語り始めた
アホみたいな数値の弱体率を。
「………………いや、うん…
まぁ、そう考えるしかないものね、コレ」
「そうなんだよな~…メリナはどういう技能なんだ?」
「私の『自由構築詠唱』はイメージで構築した魔法を
自由な詠唱でその場で発生させられる技能よ、雑にやるとうまく出来ないけど」
「でも大分便利じゃん、事前に魔術媒体とかに記載しなくていいんだろ?」
「まぁね、今回の騒動も……」
メリナの足元が淡く輝いて魔力を収束させる
その光は青く変わり水魔術の媒体へと変質していく。
「『水の精霊よ、その清き力をもってこの地を倉を浄化したもう』!
これでいける……はず!」
青い光は瞬く間に水の膜となり神殿を包んでいく
浄化の力を持つ流れがこびりつきかけた血を洗い元の美しい神殿へと戻していった。
「う~ん、便利だな…」
「その分詠唱必須なのよ、普段使いする魔法は用意しておくのは
やっぱり必要そうね」
清め終えてなお美しく包む水の膜は静かに消えた
神殿は作り立てのように輝いているように見える
「しかし、その体質はコッチと違って便利不便の問題ですらないわね
派生技能はどうなの?」
「派生技能?」
「天命技能から派生する力よ
私なら使った詠唱を再使用できる技能とか、単語レベルに詠唱を圧縮できるとかね
鍛錬とか経験がないと使えないけど色々あるわよ」
「………………あの宝玉見てみる」
首を傾げながらもう一度宝玉を輝かせると
確かに派生技能の項目があった。
「なんかあんのかな……?」
殆どが所謂文字化け状態だったが
『弱体保管庫』と『弱体変質』など
詳細はわからないものの幾つかのスキル?らしい物が書かれていた。
「多分なんかあった」
「曖昧すぎるけど良かったわね」
「………う~ん…ヴァンピールの襲撃……ハッ
……アル君と、メリナさん?」
やっと目覚めた職員によってさっきの事案はなかったことになり
アルは自身の抱えた技能のアレコレを説明し、ここから先の目的との摺り合わせが始まったのだ。
「まぁ…私は応援するよ、冒険者の道も」
「我ながら滅茶苦茶なスキルですけど…」
「でも使えないこともないからね、弱体ってのは思った以上にメジャーで
いろんな魔物の技や技能になってるんだから」
「私も賛成、普通の仕事の方が悪影響ありそうだし」
「……それもそっか、頑張るしかないな『弱体識者』」
アル少年は改めてこの世界の旅路への決意を固めてつつ
自分のその技能を呟いていたのだった…。
アホみてぇな数値だなコレ、そしてご意見ご評価いただけると幸いです。