4 【 魔王復活 ④ 】
ダンジョンはギルドの地下に存在している。
ギルド内にあるダンジョンに向かうエレベーターに地下30階まで降りると、出た先には大きな門が建てられていた。
「この門は大昔にダンジョンへ逃げ込んだ魔物達を閉じ込める為に建てられたと伝えられています。 しかし、私達人類にはこのような大きな門を何度も開けたり閉めたりとすることが出来ないので私達は門の下に作った人間サイズが入れる扉でダンジョン内に出入りするようにしているのでーす!」
ギルド職員であり亜人の女性先ほどと変わらない笑顔で説明をしてくれるが、イサムと目が合う度に獲物を捕らえた獣のような視線を向けているのは気のせいではない。
「確か動物型の亜人に対して耳や尻尾の話や触れる事はセクハラに入るってどっかの本で読んだ事があるな。」
「そういうのはもっと早くに教えて欲しかった・・。」
イサムの右頬には見事な手のひらの跡が刻まれて少し膨れて腫れていた。
「いや、それでも女性に対してあの直球な聞き方はないな。」
イサムはぐうの音も出す事ができず、しばらく亜人の職員さんと目を合わせないようにアルの背後に隠れていた。
そうこうしていると人間サイズの扉に到着したイサム達はダンジョンに入る前の注意事項を再確認された後、ダンジョンの内側から扉を開けて1人の男性が出てきた。
すると、見学に来た上位5人の新人とその家族達が動揺と歓喜の声を漏らす。
イサムは何事かと周りを見ていると普段はクールなアルまでも目を見開いて驚いている事に気が付いた。
「な、なぁアル? あの人って有名人なの?」
「バカ。 お前本当にバカ。」
アルが深い溜息を吐くと亜人の職員さんがパンパンッと手を2回叩く。
「ハイハ~イ! 驚くのは無理もないと思いますが聞いてくださ~い! 今回、貴方達のダンジョン見学の付き添いをしていただくハンターランクトリプルS、バン・シュエリーさんで~す!」
ハンターには魔物討伐を行うクエストを発注する前にそれぞれランクという物を確認される。
ランクは最初Fランクから始まり成績と討伐数を増やせば討伐できる魔物の強さとダンジョンに潜るフロア数も伸びていく。
その中でも最強と呼ばれるランクがトリプルSランク。
世界でも3人しかいないとされている生きる伝説ランクだ。
そして、そんな最強ランクを持つハンターが今回の付き添いハンターであれば誰でも驚く事だ。
一連の話を聞いたイサムも顎が外れたように口を開けて目を真ん丸にしている。
「それではシュエリーさん! 今後期待される新人ハンターさん達に何か一言お願いしま~す!」
目の間に深い傷があり、見られただけで威圧される迫力ある顔つきであるのに、慣れているせいか亜人の職員さんは相も変わらず笑顔で声をかける。
話を振られた最強ランクのシュエリーは何も言わずに見学に来た新人ハンターを1人ずつ視線だけを送る。
「・・今回、君達の付き添いを任されたシュエリーだ。 どうかよろしく。」
気迫ある見た目に反して、口から出た声はとても優しい男性の声だった。
そんな優しい声を聞いたせいか、さっきまでの緊張感ある雰囲気が一瞬で薄れた。
「それでは早速だが、今からこの扉をくぐってダンジョンに潜る。 万が一魔物に鉢合わせても私が君達を守るので安心してほしい。 それじゃ、行こうか。」
そう言ってシュエリーは先頭立って先に扉をくぐって行った。
「ハイハーイ! それでは皆々様! 遅れないようにシュエリーさんの跡についていってくださーい! 私はここで皆様の帰りをお待ちしておりまーす!」
先に入って行ったシュエリーに続き、見学者の新人ハンターとその連れ添い達が入って行く。
アルの跡に続いて入ろうとした時、イサムが未だに口を開けて動かない事に気が付いた。
「おい、イサム。 もう皆入って行ったぞ。 俺達も行かないと。」
「・・・」
「? おい、イサム?」
反応しないイサムに近づく。
目の前で手を振ったり体を突いてみたりしたが、反応を見せない。
「こいつ・・立ったまま気絶してる・・。」
憧れのハンターで、しかも生きる伝説と言われるほどの実力を持つ最強ハンターであると知った瞬間にイサムの処理能力が追い付かず立ったまま気絶する事になった。
その後、亜人職員さんに往復ビンタをされたイサムは目を覚まし、リスのように顔を腫らしてダンジョンに入って行った。