09話 捜索3
「お、おまっ、何したんだよ」
「何って、ただ周囲の気温を下げただけよ。ほら、これ着て」
リザが予備のローブを俺に投げる。
「はぁあ、あったか……じゃなくて。そもそも魔力の消費量が多いから探知魔法を使いたくなかったとか言ってなかったか?」
「あぁ、それね。大丈夫よ。そもそもこの魔法は空気中の魔力に干渉して気温を下げてるだけだから見た目ほど魔力を消費してないわ。だけど流石に範囲が広すぎるから思ったより疲れるわね」
「無茶苦茶な奴だな……」
「まぁその無茶のお陰で特定できたかもしれないわ」
「ま、まじか」
「ここから少し距離は離れてるけど、複数の熱源が集中してる箇所があったわ。おそらくそこに盗賊団が隠れていると思う」
「す、すげえな」
「ふふん、そうでしょ。それにしても久しぶりに全力でぶっ放したから解放された気分よ」
リザが指を鳴らすと周囲の気温が上がっていく。
「お前、すげえな……」
「そう? 私自身じゃよく分からないのよ。今まで自分と比べてきた相手は師匠だけだったし、私じゃ全然歯が立たなかったし」
「……師匠はどんだけ化物なんだよ」
「実際すごい人だったわ。魔導書の知識量も半端じゃなかったし。お陰で色々な魔法を会得できたわけだし」
リザは師匠の事を自分の事のように自慢げに語る。
おそらくそれだけの信頼関係が築けていたのだろう。
「見つかったとはいえ、うかうかはしてられないわね。もしかしたら私が空気中の魔力に干渉したことを気づいてるかもしれないし」
「そうだな、……というかどれくらい離れてるんだ?」
「ただ遠いとしか……、でも一応その場所にチェックはつけてるから大丈夫よ」
リザはそう言うと再びローブの中から一枚の紙を取り出す。するとそこから鳥の形をした光が飛び出す。
「後はこの子がチェックした所まで案内してくれるから」
「何て言うか、ほんとに魔法みたいだな」
「……あんたは今まで何見てきたのよ」
******
鳥の光が案内した先は崖の中腹にある洞窟だった。見上げて辛うじてそこに洞窟があると分かる程度で、普通に探していれば確実に見落としていた場所だった。
「ど、どんな場所にいるんだよ……」
「逆に言えばそういう所を選んだってのはあると思うけど。雨風は凌げそうだし、野生動物もあそこまでは行きそうにないわね」
「そうだな……というかあそこまでどうやって行くんだ?」
「あれじゃない?」
リザが指した先には洞窟から垂れる一本の綱。
大人どころか子供一人分も支えられそうにないほど頼りない太さだ。
「あ、あれか……」
「ちょっと待って」
リザはそう言って綱の近くに寄る。そして、
「この綱、魔法でコーティングされているわ。それに……」
リザが綱に手を触れるとリザの体が宙に浮く。
「ジップラインみたいだな、それ」
「じっぷらいん?」
「あぁ。俺の世界にはロープを滑車を使って滑る移動方法があるんだよ」
「すごく原始的な世界だったのね」
「流石にそれが主流ってわけじゃねえぞ!」
「そんな必死にならなくてもいいでしょ。それよりもこのまま突っ込んで行って大丈夫だと思う?」
「そんなこと聞かれてもなぁ……。でもこの綱を見るにもしかすると相手側に魔法の心得がある可能性も考えられるな」
「そうなってくると今までの前提を一端白紙にした方がいいかもしれないわね」
「……てか、ひとついいか?」
「何かしら?」
「お前があの綱触った時点で気づかれてるって可能性は……」
リザが手を打つ。
「確かに……っ⁉」
「なっ……」
突然空を見上げたリザが俺の腕を掴み、その場から離れる。そして、俺たちがいた場所には数人の男たちが立っていた。それぞれ顔に布を巻いているためその表情は分からない。ただ、その格好が何者かを示していた。