06話 依頼
豪邸は側だけでなく、当然、内装も豪邸だった。
テレビで紹介される高級ホテルのような赤い絨毯が続く廊下。
壁には所々絵画が飾られており、こうして客室に案内されている間に、何人もの召使らしき人とすれ違った。
召使には全員、獣耳が生えていた。リザ曰く、獣人は公式に認められた奴隷のような種族らしい。過去に人類との間に取引があったそうだが、話が長くなるそうなので、今回は割愛してもらった。
「こ、こちらになります」
ロリの案内された部屋に入ると、テーブルの向こう側の椅子に一人の男性が座っていた。日ごろから良いものを食べているのだろう、随分と恰幅の良い姿だ。
「やぁやぁ、よく来てくれたね。まぁ座り給え」
男性に促され、目の前の椅子に座る。めっちゃふかふかして座り心地がいい。
テーブル越しに向かい合うと、男性が口を開く。
「まずは自己紹介としようか。僕はデルイ。学院を卒業し、この街で魔導書の収集をさせてもらってる。こちらは弟子のノノだ」
突然自分のことが話題に上がってびっくりしたのか、体を少し強張らせながらロリ、もといノノが会釈をする。
威風堂々とした佇まいデルイと少しオドオドとしたノノ。
学院とは凄い所なのだろう。隣から流れる黒いオーラから何となく察する。
「私はリゼ。で、こちらが助手のユウトです」
「助手? まぁいいか、では依頼についての話を進めていこうか」
「そうですね。……その前に何点か質問よろしいですか?」
「ん? なんだね?」
「まず、依頼の内容の確認なのですが、魔導書狩りを捕まえるということでよろしいでしょうか」
「あぁ、そうだね。いやぁ、彼等には困ったものだよ。僕が図書館から借りた魔導書をどんどん奪っていくものだから、これを解決しないことには本は貸せないと言われてしまってね」
「あぁ、そういう事情が……。ところで、失礼だとは思いますがどうしてご自身で解決なさらないんですか? 学院と言えば、三大学院の一つ、相当魔法の腕は確かなはずだと」
「いや、仰る通りで。本来ならば僕が解決したいところなんだが、これでもそれなりの身分を持っているからね、もしものことがあるといけないからね。まぁ、僕の我儘と言ったらそこまでの話になってしまうよ。そういう意味もあって報酬は結構出させてもらってるよ」
「なるほど。ではもう一つ。本来、依頼を受けた人間が依頼主に会う必要は無いと聞きましたが、どうしてこのように話し合いの場を設けなさったのですか?」
「それも僕の我儘と言ってしまうとそれまでの話になるんだけど、それなりの報酬金を渡すわけだから人となりを見たいと思ってね。それと、どうしても危険な任務だ。今まで3組がこの依頼を受けたんだが、みんな失敗してしている。だから、こうして実際話して、任せられるかどうかを試させてもらってるんだ」
「……なるほど。だから、なんですね?」
リザが指を鳴らすと座っている椅子から文字が浮かび出し、燃えるように消えていく。
「これがどんな魔法かは知りませんが、これに気づくかどうかも試しているというわけですね」
「そ、そうだね……、いや、驚いたよ。これに気づいたのは君が初めてだ」
「あぁ、そうだったんですね。魔力が駄々洩れだったので、気になってたんですよ。これで私はこの依頼を受けるにふさわしい人物であると認めてもらえるでしょうか?」
「も、勿論だよ。では早速取り掛かってくれるかな」
「えぇ」
リザは立ち上がる。
「ユウト、行くわよ」
「お、おう」
「あ、あの、出口まで案内します」
来た時と同じように、ノノが先頭に立ち、豪邸を出る。
「また終わったら報告に来るって伝えといてくれるかしら?」
「は、はい」
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「というかお前、よく気づけたな」
「あの魔法のこと? あんなもん気づいて当然でしょ。隠蔽魔法もかかってないんだから」
「でもお前が初めてって言ってたぞ」
「そんなわけないと思うのだけどね。というかあんなちんけな魔法を使ってる人物が学院を出てるなんて到底信じがたいけど」
「試すって言ってたし、わざとなんだろ」
「そうだと言いのだけど。もし、あれが全力の魔法だったら、あの子が不憫で仕方ない」
「あの子? あぁ、ノノのことか」
「そうそう。私の方がよっぽど教えてあげられるわ」
「で、これからどうするんだ?」
「早速やっていきたいところなのだけど……」
リザが空を見上げる。
デルイの許へ向かう時は青かった空もいつの間にかオレンジに染まり始めている。
「明日から本格的にした方がよさげだな」
「そうね。……でもどうしようかしら、お金が無いのよね」
「とりあえずギルドに相談してみたらどうだ? 俺らと似たようなパターンの人とかそれなりにいそうだし」
「そうしてみましょうか」