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02話 とある一日

 その日はリゼの衝撃的な一言から一日が始まった。


「もうお金がないの」


 宿を出る支度の最中、リゼは思い出したかのように呟く。


「えっ?」

「いや、だからもうお金がほとんどないの」


 ほら、と言ってリゼが財布にしている布袋の中を見せてくる。単位とかよく分からないが、それでもお金がないなぁというのが分かるコインの量だ。


「どうしてこういきなり言うんだよ。こういうことはもっと早く教えてくれ」

「知らないわよ。久々に見たら無いんだもの」

「そういうのは毎日確認するんだよ!」

「へぇー」


 リゼは心底興味無さそうな表情をする。


「……ま、まぁ無いものは仕方ない。それでどうするんだ?」

「さぁ?」

「さ、さぁって」

「というかさ、元はと言えばあんたのせいで食事、寝床、行くところ全てで2倍の料金を取られてるの。だから実質あんたが悪い」

「うっ……」


 とんでもない暴論には違いないが、全て負担してもらっているのも事実だ。実質ヒモの俺に発言権はない。


「まぁこれを見て」


 そう言ってリゼはベッドの上に地図を開く。


「いま私たちがいるここ。で、道を辿って……、ここ。確かここに依頼を受けて報酬が貰える場所があるらしいのよ」

「ギルドみたいなものか」

「えぇ、それよそれ」

「でもそれって部外者の俺たちができるのか?」

「少し審査もあるらしいけど大丈夫みたい」


 少し違うような気もするが派遣のバイトみたいなものだろう。


「……でもそこ、少し遠くないか?」

「そうね。頑張ってもどこかで一泊する必要があるわね」

「もう一泊分のお金はあるのか?」

「それは心配する必要ないわ。私に妙案があるから」


 リゼは自信満々に親指を立てる。俺には全く分からないが、おそらくこの世界のやり方というものがあるのだろう。


「じゃあこの件に関しては任せるよ」

「了解。じゃあちゃっちゃと行きましょう」

「おう」


******


 次の宿に向かう道中、妙案の内容が気になり、リゼに尋ねる。


「で、結局その妙案ってのは何だよ?」

「えっ?」

「いや、だからどうするのかっていう」

「……や、宿に着いてからのお楽しみだから」


 リゼはそう言って早足になる。

 直感が叫ぶ。碌でもない考えである、と。

 危険を感じた俺は、先へ先へ進むリゼの背中を追いかける。


「ちょっと待て」


 リゼの肩を掴む。


「な、なに?」

「なに? じゃねえよ。どうせ碌でもねえ考えなんだろ」

「な、何の話よ」

「妙案の中身だよ」

「……ぴゅーぴゅー」


 リゼは目を逸らし、口笛を鳴らす。

 お世辞にも上手とは言えなかった。というより、異世界でも誤魔化す際に口笛を吹くのか。何とも不思議な気分になる。


「……」

「分かったわよ。話せばいいんでしょ、話せば」

「あぁ、そうだ」

「だったらとりあえず手離して」

「お、おう」


 肩から手を離す。ーーその瞬間、


「油断を見せたわね」


 振り返ったリゼは勝ち誇った笑みを浮かべていた。 


「なっ……」


 足元に魔法陣が浮かび上がる。


「なにを……」

「少しだけ黙ってもらおうと思って」


 その言葉を最後に、意識がぷつりと途切れた。


******


「はっ!」

「ようやく気が付いたのね」

「リゼ、お前何を……てかここは?」

「もう今日の目的地に着いたわよ。さっきのは意識を飛ばしただけ。まぁ運ぶのは面倒くさかったから歩いてもらったけど」

「……」

「いきなり魔法をかけたのは謝るから。ほら、それよりあそこ、あそこを本日の宿にしようと思います」


 そう言ってリゼが指した先にあったのは、少し豪華な装飾が施された建物だった。


「……リゼ、お前金が無いって言ってたよな。あんな所泊まれるのか?」

「えぇ。ちゃんと料金は確認済みよ。それに逆を言えばあそこにしか二人で泊まる方法はないわね」

「そうなのか」


 案外見た目が豪華なだけで、宿泊費自体は安いのかもしれない。


「ところでいくらなんだ?」

「これくらいよ」

「……はっ?」


 リゼが示した金額は今まで泊まった宿泊費の1.5倍ほどの金額だった。


「お前……まさか計算苦手なのか?」

「違うわよ。高いのは分かってる。でもギリギリ何とかなりそうなの」

「はぁ……」


 理解ができない。周りを見渡すとリゼが指した宿より安そうな宿がいくらでもある。


「どういう魂胆なんだよ」

「いやね、あの宿だけが使い魔用の部屋があって、しかも一人分の料金で使い魔一匹分の宿泊費が無料になるの」

「はぁ……うん?」

「だから1.5人分の金額で2人泊まれるのよ。凄くない」


 リゼは目を輝かせながら言う。


「いや、でもそれって使い魔が、って話だろ」

「えっ?」

「何だよ、その。何を今更って反応は」

「だってあなたは私が召喚したし……実質使い魔みたいなところあるでしょ」

「ねぇよ。てか使い魔とかよく知らないけど、見た目で一発アウト喰らうに決まってるだろ」

「それなら何も問題ないわ」


 リゼが指を鳴らす。本日二度目の魔法陣が足元に浮かぶ。


「おまっ……」

「さっきのとは違うものよ。これはあくまであんたを見た人間の認識を変える魔法。つまり、あんたは今、周りの人からスライムに見えているの」

「えっ?」


 全てを察する。しかし、少し遅かったようだ。


「ほら、じゃあ行くわよ」


 リゼが歩き始める。体がその背中を追いかけ始める。


「なっ……」

「あ、そうそう。その認識阻害の中にもう一つだけ魔法を加えてるから」

「……てめぇ」

「じゃあ行きましょう」


 ルンルンな気持ちが言葉の節々に現れているリゼ。


 ……あぁ、こいつはそういう人間だった。


******


「うーん、いい朝ね」


 朝日の下、リゼが伸びをしながら宿を出てくる。そしてこちらに気づいたのか駆け寄って来る。


「おはよう。やっぱね、高い布団は違うのよ。今までの疲れが吹き飛ぶっていうか……どうしたの?」

「どうしたもこうしたもねえよ」

「そ、そんなに寝心地悪かった?」

「あぁ……、仮に藁が敷いてあるだけで寝返りをすると隣のスライムに頭を突っ込ませて窒息することを快眠と呼べるなら、それはそれは快眠だ」

「ご、ごめんって」

「ま、まぁ今までただ乗りしてる自覚はあったからな……それにしてもだが」

「……お金が入ったら御馳走するわ」

「まじで?」


 我ながら非常に単純だ。


「えぇ。じゃあちょっと辛いと思うけど目的の場所に向かいましょう」

お、おう、了解だ」


 不器用な優しさ、いや違う。

 マッチポンプな優しさを受けながら、次の目的地へと向かった。

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