イチャイチャするならこんな感じに?
「まあ、小雪とイチャイチャできるなら俺は何でもいいけどさ。具体的にはどうするんだ?」
「ふふふ……もちろんそれも考えがあるわ。ずばり、あれよ!」
小雪が嬉々として指さすのは、大きなウォータースライダーだ。
この施設の目玉であり、かなりのカーブと傾斜を誇る。楽しそうな悲鳴と水音がいくつも聞こえてくるし、そちらへ向かうカップルも多い。
「あそこの順番待ちの間に私と直哉くんがイチャイチャを見せつけて、最後にウォータースライダーのドキドキで吊り橋効果を狙う……これでどんな天然さんでもイチコロだわ!」
「て、天才かよ……なんて非の打ち所のない作戦なんだ……!」
「そうか?」
大盛り上がりのふたりを前に、直哉はぼやくしかない。
天然と天然が会話するとツッコミを入れるタイミングに困るものだ。
「何の話?」
そこでちょうど恵美佳が帰ってきた。
小雪は竜太と顔を見合わせて、ごほんと咳払いする。
「な、なんでもないわ。水分補給はできた?」
「うん。ばっちり」
恵美佳はにこやかに応えるが、朔夜に連絡して指示を仰いできたことを直哉はきっちり見抜いていた。『バレたら偵察中止。あとは伏虎会員と楽しんできて』とでも言われたに違いない。
竜太の手を引いて、プールから上がろうとするのだが――。
「それじゃ、私たちはもう行くね。白金さんはデートを楽しんで――」
「ちょっと待った!」
そこに勢いよく小雪が待ったをかけた。
恵美佳の手をぎゅっと握って、爛々と目を輝かせる。
「せっかくこんなところで会えたことだし……あそこのウォータースライダー、四人で行きましょ!」
「ええっ!? い、いいの……?」
「ああ、うん。一回だけでいいから付き合ってくれないかな」
伺うような目を向けられて、直哉は笑う。
計画はザルだが、小雪がやる気なら乗ってあげるのが彼氏の務めだ。
おかげで恵美佳はぱあっと顔を明るくして小雪の手を握り返した。
「それじゃあちょっとだけご一緒させてください! 推しと遊べるなんて光栄です!」
「えっ……『おし』ってなに?」
感動する隠れファンに、小雪は目を白黒させるばかりだった。
そういうわけで四人でスライダーの待機列に並ぶ。
客は少なめだが、人気のアトラクションなだけあって十分ほど待たされるらしい。
「うう……デートの邪魔をしちゃったのは申し訳ないけど……でも、でもやっぱり推しと一緒に遊べるなんて最高すぎる……はあ……せっかくの機会だし、白金さんの水着をこの目に焼き付けておかないとね。間近でじっくり念入りに……じゅるり」
「待て、それ以上は通報待ったなしだぞ」
舌舐めずりして小雪をガン見する恵美佳のことを、竜太は真顔で制してみせる。
そんなふたりの様子をこっそり窺いながら――会話はよく聞き取れなかったらしい。セーフだ。――小雪はこそこそと直哉に告げた。
「計画実行よ、直哉くん。鈴原さんたちのためにも全力でイチャイチャしましょ!」
「うん、具体的には?」
「…………へ?」
直哉がにこやかに問い返せば、小雪はきょとんと目を丸くした。
「計画を立てたのは小雪だろ。俺は参謀どのに従うよ」
「うっ……そ、そう言われても……」
小雪はごにょごにょと言葉を濁し、浮き輪で口元を隠す。
計画を立てたはいいものの、細部はまったく考えていなかったらしい。直哉の予想通りだった。
それでも言い出したからには逃げるつもりはないようだ。
覚悟を決めるようにうなずいて、おずおずと直哉に腕を絡めてくる。
「こ、こんな感じ……かしら」
「……お、おう。いいんじゃないかな……?」
からかった手前、直哉はちょっとドギマギしつつも平静を装った。
続きは5月21日(木)更新します。
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