いざ、出陣!
そうしてその週の休日、隣の市の温水プール施設にふたり揃ってやってきた。
「カップル割引でお願いします」
「かしこまりましたー♪」
「あうう……」
小雪と手をつないで宣言すると、入場ゲートのスタッフはにこやかに受け付けてくれた。
顔を真っ赤にした小雪を伴って中に入る。
恵美佳から聞いたとおり、広々とした施設のわりに客は少なめで、これならゆったり満喫できそうだった。
「ここ、プールだけじゃなくて水着のまま入れる温泉なんかもあるんだってさ。遊具も豊富らしいから全制覇しような」
「それは別にかまわないんだけど……」
「あと二十五メートルプールもあるって。小雪がやりたがってた水泳勝負もできそうだな」
「ぐっ、うう……! そ、それは……その……」
小雪は苦しそうに呻いて口ごもる。
遊びに来たとは思えないような沈みきったテンションだ。
やがて小雪は直哉の手を離して立ち止まる。
「直哉くん。大事な話があるの」
「はい?」
いつになく真剣な顔をした彼女に、直哉は軽く首をかしげる。
小雪はきゅっと目をつむり、罪を懺悔するような勢いで言い放つ。
「私……ほんとは泳げないの!」
「……知ってるけど?」
「へ?」
決死の告白を、直哉は半笑いで受け流した。
目を瞬かせる小雪に朗らかな笑みを向けてやる。
「そんなの俺に隠せるわけないだろー。まわりに他の生徒がいた手前、見栄張ったことくらいお見通しだって」
「な、なんだ、そうだったの……」
小雪はホッとしたように胸を撫で下ろした。
しかしすぐに何かに気付いたらしくハッとする。
「って、ちょっと待って! まさか、気付いていて勝負を受けたわけ!? 私をプールに連れてくるために!?」
「だって小雪とプールでイチャイチャしたかったし」
「ぐうっ……鬼! 悪魔! 破廉恥!」
「わはは、何とでも言え。ここまで来たらこっちのもんだ!」
「ぐぬぬぅ……!」
すでに入場料は払い済みなので、引くに引けない状況だ。
小雪は悔しそうに歯噛みするものの、すぐに諦めてくれたらしい。小さくため息をこぼしてかぶりを振る。
「この前のデートの時といい、毎回流されて嵌められてる気がするわ……お付き合いするのって、こんなに大変な頭脳戦が必要だったのね……」
「いや、俺たちが特殊なだけだと思うぞ」
「薄々気付いてた……」
小雪は盛大に肩を落としてみせてから、びしっと人差し指を突き付ける。
「こうなったら仕方ないわ。嫌々付き合ってあげようじゃない。前回同様、下僕になったつもりできちんと私をエスコートすることね」
「ああうん、大丈夫大丈夫。ちゃんと深くないプールで遊ぶし、溺れそうになったら助けるから。小雪、泳げないけど水遊びは好きだろ? 分かってるから安心してくれって」
「そ、そう? それならいいのよ」
小雪は強がりつつも相好を崩す。
昔溺れた経験があるとかで水が怖いというのなら、直哉もここまで強引に連れ出すことはなかった。
流れるプールやウォータースライダーに興味津々だったのもきっちり見抜き済みだ。
「でも、良かったら泳ぎを教えるけど。どう?」
「うううっ……考えとくわ。あ、あと……その」
小雪はもごもごと口ごもり、上目遣いで直哉を見る。
「水着、一応持ってきたけど……変でも笑わないでよね」
「笑うわけないだろ」
「だ、だって最近、おやつとか食べすぎちゃって、ちょっとだけ太ったし……」
「まあたしかに、付き合う前よりトータルで――キロ増えたみたいだけどさあ」
「人間ヘルスメーターほんとにやめて」
百グラム単位で増加分を当てられて、小雪は真顔でずいっと凄んでくる。
「いいじゃんそれくらい。幸せ太りってやつだろ。むしろ俺にとってはご褒美だって」
「うーっ……でもでもだって、好きな人にはだらしないところ見られたくないし……」
「うん、それも知ってる」
そんな乙女心ももちろん看破済みだった。
直哉は小雪の顔をのぞきこみ、満面の笑みを向ける。
「大丈夫。俺はどんな小雪でも大好きだから」
「直哉くん……」
「さあ、そういうわけだから……」
うるっと来た小雪の両肩に手を置いて、直哉は真顔で続けた。
「早くその、朔夜ちゃんと一緒に買いに行って『大胆すぎない? 大丈夫?』って散々悩んだけど結局勇気を出して買っちゃったおニューの水着に着替えてくるんだ! 俺が早く見たいから!」
「あの子密告したわね……!」
「いや、聞いてないけど。単に展開が読めてただけだから」
「それはそれでムカつくぅ……!」
そんなこんなで、お互い別れて更衣室へと向かった。
続きは5月7日(木)更新します。
毎日更新開始はもう少しお待ちを……現在もりもり書き溜め中。






