表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

72/212

思わぬエンカウント

 その日の放課後。

 直哉は小雪とともに商店街を歩いていた。

 

「そ、それでね、桐彦さんの本、ようやく最新刊まで読めたの。もうほんっとにワクワクドキドキしたし……特に最新刊に出てきた新ヒロインのアリスちゃんがかわいくて――」


 小雪はつらつらと本について語る。

 その声はすこしばかり小さめで、いつもより落ち着かない様子だった。

 ひとしきり語ってから、小雪は背後をゆっくりと振り返る。 

 

「朔夜は……どう思う?」

「……へ」

 

 直哉と小雪のすぐ後ろ。

 そこには朔夜がついてきていたが、ずっと無言のままだった。ぼんやり地面を見つめたまま歩いていて、声をかけられてもすぐには反応しなかった。

 朔夜はきょとんと首をかしげてみせる。

 

「ごめん。聞いていなかった。なに?」

「なにって、『異世界の果てへ』の話だけど……朔夜好きでしょ」

「うん。好き」

「……新ヒロインのアリスちゃん、可愛かったわよね?」

「うん。かわいいね」

「…………私と直哉くんのこと、どう思う?」

「仲良しでいいと思う」

「…………そう」

 

 小雪は前を向き直り、直哉に耳を寄せて訴えかける。

 

「ほら、朔夜ったらやっぱり変でしょ! いつもならこういう話を振ったら『もっと近くに寄れ』だの『式はまだか』だの言うくせに! 家でもずっとこんな感じで上の空なんだから……!」

「話には聞いてたけど、ほんとに重症みたいだなあ」

 

 直哉もこっそり後ろを振り返り、朔夜の様子を伺う。

 いつも通りの無表情といえばそうなのだが、今日はどこか心ここにあらずといった様子でぼんやりしている。

 珍しく朔夜に、直哉も首を捻って小声で尋ねる。


「たしか先週、俺たちがデートした日から変なんだっけ?」

「そうなのよ。朔夜ったら帰ったら様子がおかしくて……絶対『ちゅーしたのかどうか』って聞いてくると思ったのに一切そんなこともないし」

「へー……」

 

 深刻そうな小雪には悪いが、直哉はその単語におもわずそわそわしてしまう。

 

(ちゅー……いつかしてみたいよな)

 

 前に小雪から頰にしてもらっただけで、唇のキスはまだ未経験だ。

 この前のデートも暗くなる前に家まで送り届けて解散して、平和かつ健全に終わりを迎えていた。

 煩悩を持て余す直哉だが、小雪の重いため息でハッとする。

 

「何かあったのかしら……心配だわ」

「だ、大丈夫だって。俺もなんとか力になるからさ」

「直哉くん……うん、ありがとう!」

 

 小雪はぱあっと花が咲いたように笑う。安心してくれてよかったが――。


「でも、なんで俺のバイト先に連れて行きたいんだ? 別にかまわないけどさ」

 

 こうして朔夜を連れて向かっているのは、直哉のバイト先である茜屋古書店だ。朔夜には行き先を教えていないが、ぼんやりしているせいか大人しくついて来てくれている。


「ふふん。だって、朔夜って桐彦さんの本が大好きでしょ?」

 

 小雪は得意げに笑って、ぐっと拳を握ってみせる。

 

「好きな作家さんに会えば、朔夜もきっと元気になるはずだわ! こっそり会わせて、びっくりさせようって作戦よ!」

「……上手くいくといいな」

 

 直哉はそれに曖昧な苦笑をうかべるだけだった。

 落ち込んでいるときなどには、こうしたサプライズは効くことだろう。

 だがしかし、朔夜の症状はそういうものとは別物だ。

 

(だってこれ、たぶん恋煩いってやつだもんな……)

 

 朔夜の様子を見れば、直哉にはすぐにわかる。

 ぼんやり物思いに沈んで、たまにため息。ほんのり赤く染まった頰と、どこか遠くを見つめる目。

 どれもこれも典型的な症状だ。

 

(しかしいったいどこの誰だろうなあ。朔夜ちゃんのハートを射止めるなんて)

 

 お相手に興味がわいたが、それを直接聞くのはあまりにもデリカシーがなさすぎる。


(いつか相談してくれたら嬉しいなあ)

 

 なんてことを考えているうちに、バイト先に到着して――ちょうど表口から桐彦が出てくるところだった。

 直哉たちの姿を見るやいなや、彼は相好を崩してみせる。


「あら、いらっしゃい。待ってたのよー」

「お邪魔しまーす」

「こ、こんにちは。あの、この間は遊園地のチケットありがとうございました」

「あらあら、いいのよそんなこと。それより、そっちの子が小雪ちゃんの妹、さん……?」

「朔夜?」

 

 桐彦が首をかしげて、小雪も背後を振り返る。

 果たしてそこでは朔夜が真っ赤な顔で固まっていた。目をまん丸に見開いて桐彦のことを凝視して――ハッと気付いたようにして勢いよく頭を下げる。

  

「この前は……ありがとうございました!」

「はい?」 

「へ?」

 

 桐彦や小雪がきょとんと目を丸くする中――。

 

「あ、そういう展開かこれ」

 

 ただひとり直哉だけが、すべてを察してぽんと手を打ったという。

まだ書き溜めが満足に溜まっていないので、次はちょっと開きます。なる早でガッツリ溜めて戻って参ります!


懲りずに新連載を始めてみました。百合の間に挟まりたくない現代ラブコメです。

ストックが三十本くらいあるのでのんびり投稿していきます。下記リンクよりどうぞ。

ちなみに本作と同じ学校が舞台で、小雪が一組、直哉が三組、二組の生徒らの話になります。小雪たちがゲスト出演することはありませんが「どうかしてんなこの学校」と笑っていただければ幸いです。


連載中の別作品『イケナイことを教え込む(略)』のコミカライズ&原作発売日が決定しました。

活動報告に詳細を記載しますので、よろしければお確かめください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] イケナイことの書籍化発売おめでとうございます♪ 新連載、クーデレ彼女と同じ世界線だと…!?wあの学校、小雪ファンクラブを中心にやばい人ばかりだからな…笑 たくさんの作品を同時連載するのは大変…
[良い点] 年の差婚? [気になる点] ぽっぽっぽ [一言] 大洗でシャークナゲット食ってきました ふかふかとした歯ごたえでフィレオフィッシュぽかったです
[良い点] いくら察しがいいといっても作品のあらすじまで読むなwww こいつ世界が見えてるんじゃないかと・・・w [気になる点] 御体 生活環境 など大丈夫でしょうか? [一言] ③が二つw 白…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ