表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

62/212

晴れて付き合いだした……けど?

 かくして直哉と小雪は、恋人同士という関係になった。

 互いに交際経験は初めて。付き合いだして最初の頃といえば周囲もドン引きの蜜月を演じるのが定番パターンであり、小雪も直哉もその例に漏れずイチャイチャベタベタする――こともなかった。

 

「何も変わらないんですけど!?」

「えっ、なにが?」

 

 いつもの学園中庭で一緒にお弁当を食べていると、小雪が突然耐えかねたように叫んだ。

 それに直哉は首をかしげつつ、卵焼きをつまむ。今日の卵焼きは白だしを入れて濃いめの味付けにしてみた。食感はふんわりしており、程よい焦げ目がだしの風味を強めてくれる。我ながら上々の出来栄えだ。


 そんな風に舌鼓を打っていると、小雪がずいっと顔を近付けてきて、凄む。

 

「私たち付き合ってるのよね? そのはずよね?」

「うん。俺の認識が正しければ、三日前から小雪は俺の彼女だけど」

「そう! そして直哉くんは私の、か、かっ、彼氏……のはず!」

「よしよし、恥ずかしいのによく言えたなー。はい、ご褒美。あーん」

「あむ。むむむ……美味しい!」

 

 卵焼きを口に放り込んでやれば、小雪は目を輝かせて喜んだ。

 

「これもやっぱり直哉くんが自分で作ったのよね? 私なんか目玉焼きも焦がしちゃうし……卵焼きなんか夢のまた夢だわ」

「慣れれば大丈夫だって。今度教えてあげようか?」

「ほんと? じゃあまた私の家に来てもらって…………って、違う!」

 

 キラキラした笑顔から一転、小雪はハッと気を取り直したように目をつり上げてみせた。

 卵焼き程度ではその不満は解消されないらしい。

 小雪は頭を抱えて叫ぶ。

 

「私たち、ようやく付き合いだしたのに! これじゃあ前と何も変わらないじゃない……!」

「えっ、そうかな?」

「そうよ! あっ、卵焼きもう一個ちょうだい。私のおかず一個取っていいから」

「じゃこの筑前煮の蓮根をひとつ?」

「むう、渋いチョイスね……ミートボールとかもあるのに」

 

 互いのお弁当箱からおかずを交換しあい、小雪は卵焼きをちびちび大事そうに食べながら、ふくれっ面で続ける。

 

「朝は待ち合わせて一緒に登校して、昼は一緒にお弁当……放課後は一緒に帰ったり、桐彦さんの家に行ったり、朔夜とか夏目さんたちと待ち合わせて遊んだり……付き合う前と、やってることなんっっっっにも変わらないじゃない!」

「うーん、まあたしかにそうかもなあ」

 

 直哉はそれに雑な相槌を打つ。

 小雪の言う通り、三日前からふたりは付き合いだした。しかし日々の行動は以前と何も変わらない。だから小雪が焦りを覚えるのも理解できるのだが――。


(実はいろいろ変わってるのに、本人が気付いてないんだもんなあ……)

 

 付き合う前と今とでは、いろんなことが変わっていた。

 並んで座るとき、拳ふたつ分くらい空けていたのが、膝と膝が触れそうなほどに近くなった。

 先ほどのようにお弁当のおかずをねだるようになった。

 メッセージアプリでのやりとりが、一日平均五通増えた。

 夜寝る前に電話をかけてきて『おやすみ』を言い合うようになった。

 ……などなど。


 あからさまに距離が縮んだし、小雪も以前に比べて素直に甘えるようになっていた。 

 その変化に直哉は毎回ドキドキしていたのだが……小雪が気付いていないのが分かっていたので、特にからかうこともなく、普通に対処していた。

 

 ちなみにこの変化に気付いていないのは小雪だけだ。

 直哉はもちろん……周囲の生徒たちは、みーんな察してしまっている。

 

「わあ。今日もあのふたりラブラブだよねえ。やっぱり付き合い出したのかな?」

「あいつ、『猛毒の白雪姫』を落とすとかすごいよなあ……」

「はあ……今日も推しカプが尊い……捗りすぎる……」


 四方から飛んでくるのは、いくつもの生温かい視線である。

 木陰からは朔夜が顔をのぞかせて、一眼レフのカメラを向けているし。

 直哉と小雪が付き合いだしたと聞いて、お小遣いをはたいて買い求めたらしい。いつものことだが、その情熱はいったい何なのだろう。

  

 まあ、それはともかくとして。

 食べ終わった弁当箱を片付けながら、直哉は小雪に向き直る。

 

「とりあえず、小雪の不満はわかったよ」

「へ……?」

「つまり恋人になったんだから……もっと特別なことがしたいって言いたいんだろ?」

「と、特別……!?」

 

 そこで小雪がぎょっとして、顔が途端に真っ赤に染まる。

 

「た、たしかにちょっと興味はあるけど! そういうのはまだ早いっていうか、もうちょっと時間をかけてゆっくりと……!」

「よし、それじゃあこうしよう」

 

 あたふた、ばたばたと、しどろもどろで弁明を始める小雪の手をそっと握る。「ぴっ!?」と不思議な悲鳴を上げられるが、かまうことはない。

 直哉は彼女の目をまっすぐ見つめて――にっこりと告げる。

 

「今度の休みにデートしよう。恋人らしく。全力でエスコートさせてもらうからさ」

「ふぇ……デート?」

 

 小雪は真っ赤な顔のまま、きょとんと目を瞬かせた。

やたらと察しのいい、恋人初デート編スタートです。

続きはまた来週くらいに。年末年始忙しそうなので、年内更新は来週が最後かもしれません。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] いつも楽しみに読ませてもらってます! お父さんのシリーズももし番外編でかいてもらえるのなら 読んでみたいです! 無理なら前々気にしないでください。これはただの願望なので...。小雪ちゃんたち…
[一言] 今日も私たち読者の推しカプが尊くて安心しました。笑 両家も承認の推しカプですしね、今日はサンクトペテルブルクからニヤニヤしながら見守ってます♪笑
[良い点] 直哉は普通に見えてるだけと誰か小雪に教えてあげてくれ( ;∀;) そして直哉は気付いてない理由を察しなさい 一 眼 レ フ www [一言] 鍋送っときますね〜( ´∀`) 中身が入って…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ