小雪の宣戦布告
この通り、直哉はやたらと察しがいい。これまでにも困っている女子にそれとなく手を貸し、好かれるパターンが何度もあった。
だがしかし、そうした女子はみんな直哉と接するうちに渋い顔をするようになるのが常だった。
『えっ……たしかに今週末映画に誘おうと思ってたけど……なんでわかったの?』
『どうして私の考えてることがわかるんですか!? さては……携帯でも盗み見ましたね!?』
『えっ、なに。エスパーかストーカー?』
そうして最後にはみんな適当な理由をつけて去っていく。
そんなことが何度も続いたため、直哉は先手を打つことを覚えてしまった。
「そういうわけだ。俺を好きになったんなら、早めに愛想を尽かしてほしい。好きじゃないならそのままでいてくれ」
「なによそれ」
小雪はムッとしたように直哉をにらむ。
「あなたなんか別に全然好きじゃないけど? なんとも思っていないけど? 私の気持ちをどうするかは私の勝手じゃなくって」
「それはそうだけど、こっちも辛いんだぞ。女の子を失望させちゃうのは」
「そこまで失敗続きなのに、そのグイグイ行っちゃう性格を変えようとか思わないわけ? ミジンコでももう少し学習能力があるわよ」
「いや、これはこれで人の役に立つし。改めようとは思わないな」
たとえば昨日の小雪のように、困っている人がいたらすぐに手をさしのべることができる。
強がっている人の痛みに気付き、寄り添うことができる。
トラブルに巻き込まれることも多々あるが、これが直哉の性分だ。今更変えることはできない。
「本当なら、こんな風にして人の心を暴くような真似は封じてるんだ」
「……だったらなんで私には使ったのよ」
「荒療治だよ。こんな風にぽんぽん心の中を言い当てる男、嫌だろ?」
直哉はおどけたように言ってのける。
小雪はじっと押し黙ったままだった。その反応に少し胸が傷んだものの……直哉はため息をこぼすしかない。
(早めに幻滅してもらった方が、傷は浅いもんなあ……)
小雪が好きになったのは直哉の表の面だ。
本当の直哉を知った今、さぞかしガッカリしていることだろう。
本当ならそんな思いはしてほしくない。直哉なら相手の心を読んで、望む通りの姿を演じることも可能だ。だが、必ずどこかでボロが出る。
長い時間をかけて失恋するより、早々と見限って新しい出会いを求めてもらった方が、ずっと相手のためになる。
直哉はそんな枯れた悟りを、高校二年の時点で開いてしまっている少年だった。
「……わかったわ」
やがて小雪がゆっくりと、噛みしめるようにしてうなずいた。
ようやくわかってくれたかと、直哉はホッとしたような残念なような、不思議な心地でいた。
しかし小雪はすっとこちらを見据える。その目は真剣そのものだ。
「笹原くん」
「な、なんだよ、改まって」
「私はあなたを……落としてみせるわ!」
「は……?」
小雪は人差し指をつきつけて、そんな宣言を放ってみせた。
目を白黒させる直哉に、彼女は続ける。
「あなたのスタンスはわかったわ。でも、だからって『はいそうですか』なんて納得できるものですか」
小雪は一歩も引かない。
ギラつく殺気を迸らせて、矢継ぎ早にまくし立てる。
「あなたがそこまで枯れちゃっているのなら、無理やりにでも燃え上がらせてみせる! 私のことを好きになるように全力で仕向けてやるんだから! まあべつに、私はあなたのことなんかこれっぽっちも好きじゃないですけどね!?」
「嘘つけ! 白金さん俺のこと大好きだろ!?」
わざわざ本心を読む必要もなく、いろんなものがダダ漏れな宣言だった。
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