デートの夜のしめくくり
「つかれた……ほんっとにつかれたわ……」
「いや、うん。さっきのに関しては悪かったと思う」
「まったくよ。反省しなさいよね!」
「はいはい」
疲労困憊といった小雪の手を引きながら、直哉は軽く謝罪する。
あれから観覧車を降りて、正面ゲートまで戻ってきていた。
閉園間近ということもあって、あたりは帰宅を急ぐ人たちでごった返している。それでもお土産物屋はまだ大盛況だ。
屋台でチュロスを買って食べる人も多く――。
ぐうー。
屋台を見ていたふたりの腹の虫が、ほとんど同時に鳴いた。
おかげでふたりは苦笑を見合わせる。
「そういや夕飯食べ損ねたな。外でなにか食べてくか?」
「そうね……チュロスは夕方食べたし」
「そんじゃ行くか。手早くお土産も買って――」
そうして直哉は園内ショップに足を向けようとする。
今回のデートを譲ってくれた桐彦や巽、そして結衣にお礼の品を買うためだ。
しかしその足は不意に止まることとなる。
ふたりが目指したショップの正面に、射撃のゲームがあった。そこのキャストが――大きな鐘を鳴らして、陽気な声を上げたからだ。
「おめでとうございます! 本日初の満点ですよ!」
「いやー、どうもどうも」
鉄砲を肩に担ぎ、へらへらと笑う少年がいた。
彼は賞品の特大ぬいぐるみを受け取って、そのままそれを後ろで見守っていた少女に渡してみせた。
「はい、これ。ほしかったんだろ」
「わーい! ありがとね、巽!」
「ふふふ、よかったわねえ、結衣ちゃん。これは新刊のネタに使えるかも……!」
そんなふたりを微笑ましそうに見守りつつ、メモを取る美青年。
あまりにも見慣れた顔ぶれすぎて、直哉と小雪は今日一番フリーズした。
「なんでいるんだよ!?」
「あらー?」
おもわず直哉が叫んだところで、桐彦が振り返る。そうしてこちらの姿を見た瞬間、きれいな顔が『しまった』とばかりに一瞬歪んだ。しかし、すぐにきらきらまぶしい愛想笑いをうかべてみせる。
「あらあら、奇遇ねえおふたりさん。デートはどう……ふーん」
そこで、直哉と小雪が手を繋いでいることに気付いたらしい。
すっと目を細めてから、笑みを深めてみせる。
「どうやらうまくいったみたいね♡ よかったわねえ、小雪ちゃん」
「えっ、は、はい……ありがとうございます?」
「それはいいんですけど……まさかとは思うけど、俺たちのこと尾行けてたりしないですよね?」
「あら、失礼ね。そんなのプライバシーの侵害じゃない」
桐彦は肩をすくめてから、かまわずイチャつく巽と結衣を示してみせる。
「このふたりも同じ日にデートに行くって言うから、お小遣いあげるかわりに取材させてもらってたのよ。次回作の参考になるかと思ってね」
「そうそう。桐兄ったらめちゃくちゃ気前良かったんだよー」
「なー。ほぼほぼ全部出してもらったし」
「次は小雪ちゃんたちのデートも観察していいかしら? お給金ははずむわよ♡」
「できたら勘弁してもらいたいですね……」
「私もちょっと無理かも……」
直哉と小雪は、そろって渋い顔をするしかない。
デートの同行取材なんて絶対お断りだ。だがしかし、巽と結衣には一切気負った様子がない。どこまでも普通の自然体だ。
(つまりあいつらにとって、デートも日常のうちってことか……負けてられないなあ、俺たちも)
謎の対抗心を燃やす直哉だった。
そんななか、結衣がぬいぐるみを抱えたまま、小雪ににこにこと話しかける。
「ねえねえ、結局どっちから告白したの?」
「えっ!? え、えっと……その……うん、いちおう、私から……になるのかしら?」
「そっかー、よく頑張ったねえ。そんじゃ、がんばった白金さんには……」
結衣はショルダーバッグをごそごそとあさり、なにかを取り出してみせる。
「じゃーん! この賞品を進呈しましょう!」
「そ、それは……!」
「なんだそりゃ」
結衣が取り出したのは、ハート形のキーホルダーだった。色はもちろんピンク。五センチほどの大きさで、キラキラのラメが入っている。中央に描かれているのはこの遊園地のマスコット、とらくんの顔だ。
ようするに小学生女児が好みそうな、ギラギラしたセンスの一品である。
直哉は首をかしげるのだが、小雪は目を輝かせた。
「それってパレードの参加賞よね!? カップルだけがもらえるっていう!」
「そうそう、よく知ってんねー。くっついたお祝いに贈呈しちゃおう!」
「ええっ……!? で、でも、夏目さんたちの分なんじゃ……」
「へーきへーき。私らは年パス買ってもらったから、いつでも来れるし。ねー、巽」
「おうよ。毎回桐彦兄ちゃんの引率付きが条件だけどな」
「おまえら、ほんとにそれでいいのか……?」
直哉は幼馴染みふたりにジト目を向ける。
流石にそこまで悟るのには時間と経験が不可欠だろう。もはやカップルというより結婚うん年目の夫婦だ。ちょっとまだ勝てそうになかった。
「そーいうわけだから。はい、どーぞ。直哉にもね」
「俺の分まであるのか……」
「あ、ありがとう……」
小雪はおずおずとキーホルダーを受け取って――照れたように直哉へはにかんでみせる。
「えへへ……おそろい、ね」
「……そうだな」
男子高校生が持つには、ちょっと厳しいデザインではあるものの。小雪が喜んでくれるのなら、それくらいはどうでもよかった。
はにかむふたりを見て、桐彦が「いいわねえ……」と感慨深げに吐息をこぼす。
「そうだ! あなたたちお夕飯はもう食べた? あたしたちこれからラーメン食べに行くんだけど一緒にどう? もちろん私のおごり!」
「い、いいんですか?」
「言っときますけど、今日のデートの話はしませんからね」
「あら大丈夫よ。今のあなたたち見てるだけでネタが浮かびそうだし」
そう言って、彼はいたずらっぽく笑い――こう言ってのけた。
「ともかくおめでとう、新米カップルさん♡ これからのラブコメには期待してるわね」
それから五人で夕飯を食べに行った。
特になんということのない街の中華料理屋が出す、七百五十円のラーメン。そのシンプルなメニューがやたらと美味しくて、並んで食べたその味がふたりにとってかけがえのない思い出となった。






